小児アレルギー科医の視線

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アナフィラキシーその3:小児のアナフィラキシー

2025年02月24日 12時44分38秒 | アナフィラキシー
アナフィラキシーシリーズ、第3回は「小児のアナフィラキシー」です。
私は小児科医ですので、一応の知識はあります。

小児で問題になるのは、
・乳幼児では自分から症状を訴えることが難しい。
・バイタルサインの正常範囲が成人と異なる。
・使用するアドレナリンの量は体重換算で変化する。
・血管が細く輸液路の確保が難しい。
ですね。

記事を読んで、他にもポイントがありました。

<ポイント>
・小児のアナフィラキシーの誘因は食物の頻度が高く、原因物質としては、欧米では落花生や木の実類、日本では鶏卵、乳製品、小麦、木の実類が多い。
・アナフィラキシーショックによる死亡原因で有名なのはハチ刺傷や医薬品ですが、実は小児ではこれらはあまり見られない。小児のアナフィラキシーは命に関わることはまれで、大半が軽症〜中等症なのが特徴。
・筋肉注射1回投与量として覚えておくべきは「0.01mg/kg(小児は最大0.3mg)」で、投与量計算のためには体重が重要。
・エピペンは、アドレナリン自己注射薬のことで、アナフィラキシーの症状があると判断された場合に、医療関係者だけでなく、処方された患者、家族、教職員、保育士、救急救命士なども使用することができる。

そもそも、アナフィラキシーの原因が成人と異なることを忘れていました。
開業小児科医では、食物アレルギーかワクチン接種後によるものがほとんどなので。
勉強になりました。


▢ アナフィラキシーその3小児のアナフィラキシー、成人と異なる3つのポイント
竹井寛和(兵庫県立こども病院救急科医長)
2024/04/24:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
Case
 6歳男児。2週間前に小学校に入学したばかり。給食を食べた後から気分不良を訴え、トイレに向かう途中に1度嘔吐。会話は可能だが、ぐったりした様子であることから、教師が救急要請した。救急隊到着時、本人は嘔気を訴えている。
バイタルサイン:意識晴明、血圧75/35mmHg、脈拍数138回/分、呼吸数30回/分、SpO2 95%(室内気)、体温36.4℃
既往歴:気管支喘息で入院歴あり
服薬歴:定期内服薬なし
アレルギー歴:卵アレルギーあり

 経過や症状からは、アナフィラキシーが疑われますね。診察する相手が子どもというだけで身構えてしまいそうですが、救急外来の初療で意識することは、基本的に成人と変わりません。一方で、小児ならではのポイントもあります。小児のアナフィラキシーについて、成人とどんな点が異なるのか、そしてそれを踏まえてどう対応すべきかを解説します。

▶ 成人との相違点(1):バイタルサインの基準値が異なる!
 アナフィラキシーに限った話ではありませんが、気道、呼吸、循環、意識……と評価していく中で、小児の診療に慣れていない場合、まず困るのが「小児のバイタルサインの基準値」でしょう。小児では生理学および解剖学的な理由から、年齢によって、バイタルサインの正常範囲が細かく分かれています。
 小児のバイタルサインの基準値を全て覚えておく必要はありませんが、米国心臓協会(AHA)のPALS(小児二次救命処置)プロバイダーマニュアル1)に示された収縮期血圧の下限(表1)や、カナダの救急患者緊急度判定支援システムCTAS(Canadian Emergency Department Triage and Acuity Scale)の心拍数、呼吸数の基準値(表2)などを参考にすることをお勧めします2)。
 「アナフィラキシーガイドライン2022」の診断基準では、乳幼児・小児の血圧低下の定義は「本人のベースライン値に比べて30%を超える収縮期血圧の低下が見られる場合」または「収縮期血圧が(70+[2×年齢(歳)])mmHg未満」と記載されています3)(関連記事その1)。


表1 小児の収縮期血圧の下限(文献1より)


表2 小児の心拍数、呼吸数の基準値(文献2を基に筆者作成)

▶ 成人との相違点(2):アナフィラキシーの原因が異なる!
 日本での実態調査によると、院内発症または救急外来を受診したアナフィラキシー患者767例中、18歳未満が70%以上を占めていました4)。小児のアナフィラキシーの誘因は食物の頻度が高く、原因物質としては、欧米では落花生や木の実類、日本では鶏卵、乳製品、小麦、木の実類が多いといわれています。小児では、成人以上に積極的にアナフィラキシーを鑑別に挙げること、誘因として特に食物に注目して情報収集する意識を持つことが重要です。
 アナフィラキシーショックによる死亡原因で有名なのはハチ刺傷や医薬品ですが、実は小児ではこれらはあまり見られません。小児のアナフィラキシーは命に関わることはまれで、大半が軽症〜中等症なのが特徴です。

Gem of Advice
小児ではより積極的にアナフィラキシーを鑑別に挙げ、特に食物に注目して情報収集する。

▶ 成人との相違点(3):アドレナリンの投与量が異なる!
 最後に取り上げる相違点は、アナフィラキシー治療薬の王様、アドレナリンについてです。投与部位は成人と同じく大腿部中央の前外側部分(関連記事その2)ですが、推奨投与量が異なります。
 筋肉注射1回投与量として覚えておくべきは「0.01mg/kg(小児は最大0.3mg)」で、投与量計算のためには体重が重要になります。救急隊から小児症例の搬入依頼を受けたら、必ず体重も尋ねます。体重が不明であれば、表3を参考にしてもよいでしょう3)。なお、1000倍希釈のアドレナリン(1mg/mL)を用いる場合、0.01mgは0.01mLに相当します。


表3 年齢別アドレナリン推奨投与量(文献3より)

▶ エピペンの基本事項は頭に入れておこう!
 エピペンについても少し触れておきます。エピペンは、アドレナリン自己注射薬のことで、アナフィラキシーの症状があると判断された場合に、医療関係者だけでなく、処方された患者、家族、教職員、保育士、救急救命士なども使用することができます
 患者の大腿の付け根から膝までの中間部分、やや外側に筋肉注射します。小児の場合、注射を打とうとすると逃げてしまうこともあるので、しっかり固定することが重要です。ペンの中央を鷲掴みにして持ち、オレンジ色の先端をカチッと音がするまで強く垂直に押し付けて打ちましょう3)。

Caseの経過
 6歳の収縮期血圧の下限は「(70+[2×年齢(歳)])mmHg」であり、82mmHgになります。本症例の収縮期血圧は75 mmHgでこれを下回ることから、アナフィラキシーショックと判断しました。
 気道確保、酸素投与、静脈路確保などのショックに対する蘇生を進めつつ、アドレナリン筋注をできるだけ早期に行う必要があります。体重は25kgであったため、0.25mgを右大腿に筋注したところ、症状は改善。
 付き添いの教師に話を聞くと、給食にプリンが出ていたことが分かりました。小学校に入学したばかりだったため、卵アレルギーの情報がきちんと共有されていなかったようです。

まとめ
 成人との相違点を中心に、小児のアナフィラキシーを取り上げました。過去にアナフィラキシーを起こしたことのある小児では、その後のアレルギー管理や再発予防も重要になります。本人や保護者だけでなく、保育園、幼稚園、学校関係者などにも生活における原因除去や適切な対処法について共有しておく必要があるのも成人とは違うポイントですね!

<参考文献>
1)American Heart Association『PALSプロバイダーマニュアル AHAガイドライン2020準拠』(シナジー、2022)
2)Bullard MJ,et al. CJEM.2014;16(6):485-9.
3)日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」
4)佐藤さくら他 アレルギー 2022;71:120-9.


・・・私はアレルギー学会認定専門医であり、当院はアレルギー科を標榜していますので、食物アレルギーの相談がよくあります。
ただし、アナフィラキシーのリスクのある患者さんは、当院での診療で終わりにせず、救急対応可能な総合病院を紹介しています。
なぜかというと、当地域の基幹病院小児科病棟が閉鎖され、救急対応ができない状況だからです。

遠方でもいざという時駆け込める病院に管理してもらっていた方が、患者さんも安心だし、医療側もカルテに情報があるので診療がスムーズであることに期待して。

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