小児アレルギー科医の視線

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アナフィラキシーその2:アドレナリン投与のタイミング

2025年02月24日 09時18分23秒 | アナフィラキシー
アナフィラキシー患者には治療としてアドレナリン(ボスミン®)を筋肉注射します。
血圧が上昇して意識が回復するはずですが・・・
反応が悪い、あるいは一旦よくなっても再度悪化した場合、
2回目のアドレナリンをどのタイミングで再投与すべきか、現場では悩ましい問題です。

さて、シリーズのアナフィラキシー特集ではどう書かれているでしょうか。

<ポイント>
・アナフィラキシーを疑う、もしくは診断したら、一刻も早いアドレナリンの投与が必要。
・アドレナリンは最も有効なアナフィラキシーの治療薬である一方で、使い方を1つ間違えると非常に危険な薬剤。
・アナフィラキシーを発症した患者に対するアドレナリンの投与量は0.01mg/kgで、成人の最大投与量は0.5mg(参考書によっては0.3~0.5mgと幅を持たせているものも)。0.3mgと0.5mgを比較した研究では、0.5mgの方がより吸収が良好であり、重大な副作用の出現もないことが報告されている。
・アドレナリンの投与経路は、大腿部中央の前外側部分(「気を付け」の姿勢をした際にちょうど手が来る部分)への筋注。
・まず患者をベッドに横にしてモニタリングを開始。そして、すぐさまアドレナリン0.5mgを筋注。末梢ラインの確保はアドレナリン投与後に速やかに行う。
・心停止時はアドレナリン1mgを静脈内注射するが、アナフィラキシー患者には決して1mgを静脈内注射してはいけない。致死的不整脈を誘発し、心停止に陥る可能性がある。
・アドレナリンはアンプルタイプではなく、シリンジタイプを使用すべし。シリンジタイプを用いるメリットは、製剤に直接針を装着できる簡便さに加え、使用する分の薬液を吸い上げるよりも、必要量を押し出してから残りを廃棄する方が分量の調整がしやすい。
・初回投与を受けた10~20%の患者は投与量不足が原因で再投与を要する。
・「アナフィラキシーガイドライン2022」では、投与の間隔は5~15分と記載されている。投与後5分経過した時点で患者の症状やバイタルサインが全く改善していないようであれば、速やかに2回目の投与を行うべし。改善が見られるようなら5分の時点では投与せず、15分まで経過を見て、そのときに残存している症状の程度に応じて2回目の投与を検討する。

最後の一文にすべて集約されていると思います。
シリンジ型のアドレナリン、当院でも導入すべきか検討したいと思います。


▢ アナフィラキシーその2アナフィラキシーへのアドレナリン、2回目を投与すべきか見極めるのは何分後?
北井勇也(練馬光が丘病院総合救急診療科救急部門科長)
2024/04/23:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
Case
 40歳女性。食事中、体のかゆみを自覚したが、気にせず食べていた。食後からかゆみが増強するとともに喉の違和感が出現し、息苦しさも出てきた。様子を見ていたものの改善しないため、救急外来をウォークインで受診した。
バイタルサイン:意識清明、血圧110/74mmHg、脈拍数94回/分、呼吸数24回/分、SpO2 96%(室内気)、体温37.0℃
既往歴:特記事項なし
服薬歴:定期服薬なし
アレルギー歴:特記事項なし
身体所見:口唇浮腫あり、呼気時喘鳴聴取、腸蠕動音亢進、全身に膨疹あり
その他:診察中に嘔吐あり

 アナフィラキシーが疑われるため、アドレナリンを投与することとした。

 今回の症例は、食事摂取中に蕁麻疹が出現し、呼吸器症状と消化器症状を伴っていることから、アナフィラキシーが第一に考慮されます。アナフィラキシーを疑う、もしくは診断したら、一刻も早いアドレナリンの投与が必要となります。
 「アナフィラキシーにはアドレナリン投与」は知っていても、実際に投与経験がある方はそう多くないかもしれません。アドレナリンは最も有効なアナフィラキシーの治療薬である一方で、使い方を1つ間違えると非常に危険な薬剤でもあります。いざというときに適切にアドレナリンを投与できるように、事前に知識を身に付けておきましょう。

▶ 成人にはアドレナリンを0.5mg投与!
 アナフィラキシーを発症した患者に対するアドレナリンの投与量は0.01mg/kgで、成人の最大投与量は0.5mgです(表1)1)。


 表1 年齢別アドレナリン推奨投与量(文献1より)

 参考書によっては0.3~0.5mgと幅を持たせているものもあります。また、慣習的に0.3mgと教わった方もいるでしょう(筆者もその1人です)。そういった場合、0.5mgを投与することにためらいを覚えるかもしれませんが、0.3mgと0.5mgを比較した研究では、0.5mgの方がより吸収が良好であり、重大な副作用の出現もないことが報告されています2)。正確な体重が分からなくても、成人であれば「0.5mgを投与する」と覚えておきましょう。

Gem of Advice
成人のアナフィラキシーではアドレナリンを0.5mg投与!
(※0.01mg/kgで用量決定してもよい)

▶ 投与経路は大腿部中央の前外側に筋肉注射!
 アドレナリンの投与経路は、大腿部中央の前外側部分への筋注です。「気を付け」の姿勢をした際にちょうど手が来る部分と覚えておくとよいでしょう。
 アナフィラキシーを疑った場合の流れとしては、まず患者をベッドに横にしてモニタリングを開始。そして、すぐさまアドレナリン0.5mgを筋注します。このとき、患者への説明を忘れてはいけません。たとえ緊急事態であっても、いきなり衣服を下げて大腿部をむき出しにするようなことは避けるべきです。患者の羞恥心に配慮し、治療の必要性を簡潔に伝えて理解を得ましょう。末梢ラインの確保はアドレナリン投与後に速やかに行います

 アドレナリンの投与経験としては、アナフィラキシーよりも心停止の場面の方が多いかもしれません。心停止時はアドレナリン1mgを静脈内注射しますが、アナフィラキシー患者には決して1mgを静脈内注射してはいけません致死的不整脈を誘発し、心停止に陥る可能性があるからです。

 迅速なアドレナリン筋注を行うために実際に筆者が行っている5つのステップを紹介します(表2)。アドレナリンはアンプルタイプ(写真1)ではなく、シリンジタイプを使用します(写真2)。


表2 アドレナリン筋注の5ステップ


写真1 アンプルタイプのアドレナリン(提供:第一三共)


写真2 シリンジタイプのアドレナリン(提供:テルモ)

 シリンジタイプを用いるメリットは、製剤に直接針を装着できる簡便さに加え、使用する分の薬液を吸い上げるよりも、必要量を押し出してから残りを廃棄する方が分量の調整がしやすいことです。デメリットとしては、余った分を捨てることになる点が挙げられます。ただし、初回投与を受けた10~20%の患者は投与量不足が原因で再投与を要するとされています3)。再投与を防ぐ視点でも、適切に0.5mgを投与することが重要だと考えます。

▶ 2回目を投与するかを見極める目安は5分!
 「アナフィラキシーガイドライン2022」1)では、投与の間隔は5~15分と記載されています。幅があるので、実際にどのタイミングで投与すればよいのか、現場では悩むのではないでしょうか。
 アドレナリンの効果発現は迅速です。投与後、5分経過した時点で患者の症状やバイタルサインが全く改善していないようであれば、速やかに2回目の投与を行いましょう。改善が見られるようなら5分の時点では投与せず、15分まで経過を見て、そのときに残存している症状の程度に応じて2回目の投与を検討します。
 アドレナリンを投与したらそれで終わりではなく、投与後はベッドサイドで患者の容態とバイタルサインを観察し、変化をいち早く捉えられるようにしておきます。なお、2回目の投与に備えて、シリンジタイプのアドレナリンを2本以上準備しておくことをお勧めします。

Gem of Advice
アドレナリン投与後はベッドサイドで観察し、5分経過時点で再投与を判断。

Caseの経過
 アレルゲンは不明でしたが、食事中に発症した蕁麻疹+呼吸器症状+消化器症状であり、アナフィラキシーと判断してアドレナリン0.5mgを大腿部中央の前外側部分に筋注しました。投与後、徐々に咽頭違和感、息苦しさは軽減。浮腫も改善し、喘鳴も消失しました。救急外来で経過を観察、症状の再燃がないことを確認の上、帰宅となりました。

まとめ
 アナフィラキシーと診断した後のアドレナリンの投与方法について解説しました。ポイントは投与量、投与経路、投与間隔です。突然、アナフィラキシーに遭遇した場合にも適切に対応できるように、実際に投与するイメージを持っておくようにしましょう。

<参考文献>
1)日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」
2)Dodd A,et al. Resuscitation.2021;163:86-96.
3)Boyce JA,et al. J Allergy Clin Immunol.2010;126:S1-58.



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