アナフィラキシーシリーズその4(最終回)は「入院適応」です。
昔から「重症のアナフィラキシーは症状が二相性に出ることがあり帰してはいけない」
とされ、様子観察目的で一泊入院が普通でした。
さて、記事ではどのように話が展開するのでしょう。
意外な視点がありました。
<ポイント>
・1泊の経過観察目的入院が妥当だが、必ずしも患者が入院を受け入れてくれるとは限らない。
・初期対応が十分に行われた例は、諸般の条件(病院へのアクセス、連絡可能かどうか、等)が整えば帰宅させる選択も間違いではない。
・「二相性反応」とはアナフィラキシー症状の消失後、抗原に再曝露しない状態で、48時間以内に症状が再発すること(最大で72時間とする報告もある)。頻度は、以前は20%程度といわれていたが、前向きの研究では1~7%程度とされている。
・二相性反応が起こりやすい時間は10時間前後が一般的。基本的に一相目を超える反応は認めない。アドレナリン投与が必要なケースもあるもののその頻度はまれで、死亡率は高くない。
・「アドレナリンが初療で投与されていなかった」「抗ヒスタミン薬やステロイドの投与を優先し、アドレナリン投与までに時間が掛かってしまった」といった例では二相性反応が起こりやすい。発症から30分以内にアドレナリンを投与することが1つの目安。
・二相性反応の出現率は重症度の他に「発症時に適切な医学的介入ができたかどうか」により左右される。
・ステロイド薬投与は必須ではない。ステロイドが二相性反応を予防するというエビデンスは乏しく、ルーチンには推奨されない。アドレナリンを繰り返し投与する必要がある症例や、二相性反応のリスクが高い場合には投与を検討してもよいが、アドレナリンよりも優先すべきものではない。
・・・初期治療が重要で、その後の経過に影響するのですね。
でも「30分以内のアドレナリン投与」は造影剤によるショックなど病院内の出来事なら可能かもしれませんが、ハチに刺されたとか、食物アレルギーにより誘発された例とかは、エピペン以外は困難です。
▢ アナフィラキシーその4:アナフィラキシーは全例入院が必要か
坂本壮(国保旭中央病院救急救命科医長)
(2024/04/25:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
Case
64歳女性。友人宅で食事を摂ったところ、頸部や腹部に蕁麻疹様の皮疹が出現。息苦しさも自覚したため、救急外来を受診した。
バイタルサイン:意識清明、血圧98/50mmHg、脈拍数112回/分、呼吸数24回/分、SpO2 96%(室内気)、体温36.6℃
既往歴:高血圧
服薬歴:アムロジピン
アレルギー歴:甲殻類
皮膚症状に加え、息苦しさがあり、聴診上喘鳴も聴取したため、アナフィラキシーと判断し、大腿外側広筋にアドレナリン0.5mgを筋注した。その後、数十分後には自覚症状は消失。バイタルサインも普段通りへ改善した。
バイタルサイン:意識清明、血圧98/50mmHg、脈拍数112回/分、呼吸数24回/分、SpO2 96%(室内気)、体温36.6℃
既往歴:高血圧
服薬歴:アムロジピン
アレルギー歴:甲殻類
皮膚症状に加え、息苦しさがあり、聴診上喘鳴も聴取したため、アナフィラキシーと判断し、大腿外側広筋にアドレナリン0.5mgを筋注した。その後、数十分後には自覚症状は消失。バイタルサインも普段通りへ改善した。
・・・
本稿では、初期対応後の経過観察を取り上げます。冒頭の症例に遭遇した場合、アドレナリンを使用しているから経過観察のために入院が妥当なのでは? 二相性反応が起こる可能性があるからやはり入院が必要……? こう考える方が多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、1泊の経過観察目的入院が妥当ですが、必ずしも患者が入院を受け入れてくれるとは限りません。中には、仕事やペットの世話などを理由に帰宅を希望される人もいます。また、ベッドが埋まっていてどうしても入院できない──そんなことも少なくありません。「経過観察目的に転院」「救急外来で長時間の経過観察」なども選択肢になりますが、全例で必要かというと……。根拠を持って経過観察時間を設定するために、知識を身に付けておきましょう。
本稿では、初期対応後の経過観察を取り上げます。冒頭の症例に遭遇した場合、アドレナリンを使用しているから経過観察のために入院が妥当なのでは? 二相性反応が起こる可能性があるからやはり入院が必要……? こう考える方が多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、1泊の経過観察目的入院が妥当ですが、必ずしも患者が入院を受け入れてくれるとは限りません。中には、仕事やペットの世話などを理由に帰宅を希望される人もいます。また、ベッドが埋まっていてどうしても入院できない──そんなことも少なくありません。「経過観察目的に転院」「救急外来で長時間の経過観察」なども選択肢になりますが、全例で必要かというと……。根拠を持って経過観察時間を設定するために、知識を身に付けておきましょう。
▶ 二相性反応の疫学
二相性反応は、アナフィラキシー症状の消失後、抗原に再曝露しない状態で、48時間以内に症状が再発することとされます。頻度は、以前は20%程度といわれていましたが、前向きの研究では1~7%程度とされており、本邦の報告でも同様の数字となっています1、2)。アドレナリン投与が必要なケースもあるものの、その頻度はまれで、死亡率は高くありません。
二相性反応が起こりやすい時間としては、最大で72時間とする報告もありますが、10時間前後が一般的です2、3)。そのため、アナフィラキシー症例では、1泊の経過観察目的入院が妥当とされます。しかし、そもそも二相性反応の頻度はそれほど高くない上に、基本的に一相目を超える反応は認めません。「一律に入院」ではなく、入院すべきかを患者ごとに判断することはできないのでしょうか?
二相性反応が起こりやすい時間としては、最大で72時間とする報告もありますが、10時間前後が一般的です2、3)。そのため、アナフィラキシー症例では、1泊の経過観察目的入院が妥当とされます。しかし、そもそも二相性反応の頻度はそれほど高くない上に、基本的に一相目を超える反応は認めません。「一律に入院」ではなく、入院すべきかを患者ごとに判断することはできないのでしょうか?
▶ 二相性反応が起こりやすい患者って?
では、どんな患者で二相性反応が起こりやすいのでしょうか? 「難治性の症例」「原因不明の症例」など、いくつかのリスク因子が報告されていますが、最も重要な因子は「発症時に適切に介入できたか否か」です4)。
例えば、「アドレナリンが初療で投与されていなかった」「抗ヒスタミン薬やステロイドの投与を優先し、アドレナリン投与までに時間が掛かってしまった」といった症例では、二相性反応が起こりやすいことが分かっています。発症から30分以内にアドレナリンを投与することが1つの目安です。アナフィラキシーを早期に認識するとともに、速やかにアドレナリンを投与することが欠かせません5)。
適切な初期対応を行うことが大前提ではありますが、中にはうまくいかないケースもあるでしょう。前述の通り、二相性反応が起こりやすいかは、重症度に加え、発症から介入までの時間が影響します。以下の2症例について考えてみましょう。
例えば、「アドレナリンが初療で投与されていなかった」「抗ヒスタミン薬やステロイドの投与を優先し、アドレナリン投与までに時間が掛かってしまった」といった症例では、二相性反応が起こりやすいことが分かっています。発症から30分以内にアドレナリンを投与することが1つの目安です。アナフィラキシーを早期に認識するとともに、速やかにアドレナリンを投与することが欠かせません5)。
適切な初期対応を行うことが大前提ではありますが、中にはうまくいかないケースもあるでしょう。前述の通り、二相性反応が起こりやすいかは、重症度に加え、発症から介入までの時間が影響します。以下の2症例について考えてみましょう。
Ex. 1
66歳女性。腹痛の精査のために造影CT検査を実施した。検査終了後から喉の違和感を訴え、その後意識消失した。収縮期血圧が70mmHg以下に低下、体幹部の皮疹に加え、喘鳴も認め、CT室から救急外来へ移動となった。
Ex. 2
71歳男性。自宅の庭で蜂に刺され、患部を冷やし自宅で様子を見ていた。刺された部位の痛みは改善したが、全身にかゆみを伴う皮疹と、嘔気・嘔吐を認めたため、心配した家族とともに救急外来を受診した。意識は清明で、血圧も普段と変わらない。
いずれもアドレナリンを大腿外側部に0.5mg筋注し、症状が改善したとすると、どちらの方が二相性反応が起こりやすいでしょうか?
Ex. 1は造影剤によるアナフィラキシーショックが考えられるのに対して、Ex. 2はショックに陥ってはいなさそうです。初動の迅速性に関しては、Ex. 1は、アナフィラキシーを速やかに把握し、的確に対応できている一方、Ex. 2は症状の出現後、ある程度時間が経過してから来院しています。重症度とアドレナリン投与までの時間の2軸で判断すると、Ex. 1とEx. 2どちらで二相性反応が生じる可能性が高いかは明言できないのが実情でしょう。
ちなみに、ステロイドが二相性反応を予防するというエビデンスは乏しく、ルーチンには推奨されません6)。アドレナリンを繰り返し投与する必要がある症例や、二相性反応のリスクが高い場合には投与を検討してもよいですが、アドレナリンよりも優先すべきものではありません。「アナフィラキシー→アドレナリン+抗ヒスタミン薬(H1ブロッカー&H2ブロッカー)+ステロイド」とセット展開するのではなく、まずはアドレナリンを投与した上で、使用する必要があるかをきちんと吟味しましょう。
ちなみに、ステロイドが二相性反応を予防するというエビデンスは乏しく、ルーチンには推奨されません6)。アドレナリンを繰り返し投与する必要がある症例や、二相性反応のリスクが高い場合には投与を検討してもよいですが、アドレナリンよりも優先すべきものではありません。「アナフィラキシー→アドレナリン+抗ヒスタミン薬(H1ブロッカー&H2ブロッカー)+ステロイド」とセット展開するのではなく、まずはアドレナリンを投与した上で、使用する必要があるかをきちんと吟味しましょう。
Gem of Advice
初期対応が超重要! アドレナリンを適切に使用し、二相性反応を回避せよ!
▶ 実践的な経過観察時間は?
アナフィラキシー症例における経過観察時間は、二相性反応の観点からいうと、前述の通り、一相目の発現後10時間程度で起こりやすいので入院が妥当です。しかし、二相性反応が生ずる割合は決して高くないため、重症度と症状出現からアドレナリン投与までの時間を考慮して対応する必要があります。また、高齢者、独居といった患者背景にも配慮しなければいけません。
私は、初動で適切に介入することができたアナフィラキシー症例では、4〜6時間を目安に経過観察を行い、「家族や友人など経過を見ることができる人がいるか」「病院へのアクセスが困難ではないか」なども検討し、最終的に帰宅可能か否かを判断しています。診療所でアナフィラキシーに遭遇した場合には、アドレナリン筋注や細胞外液投与を実施しつつ、転院の上、経過観察するのがよいでしょう。
私は、初動で適切に介入することができたアナフィラキシー症例では、4〜6時間を目安に経過観察を行い、「家族や友人など経過を見ることができる人がいるか」「病院へのアクセスが困難ではないか」なども検討し、最終的に帰宅可能か否かを判断しています。診療所でアナフィラキシーに遭遇した場合には、アドレナリン筋注や細胞外液投与を実施しつつ、転院の上、経過観察するのがよいでしょう。
Gem of Advice
重症度だけでなく、アドレナリン投与までの時間も考慮して経過観察時間を決定しよう!
Caseの経過
皮膚症状に加え、循環、呼吸の異常を認めており、アナフィラキシーの典型症例といえます。来院後、比較的早期にアドレナリン0.5mgを筋注し、症状は改善しています。今回のように即座にアナフィラキシーを認識してアドレナリンを使用、その後速やかに症状が軽快している例では、二相性反応が起こる割合は数%程度でしょう。救急外来で4~6時間程度の経過観察を行い、帰宅の判断をすることとしました7)。
まとめ
二相性反応が起こるか否かは正直分かりません。大切なのは、とにかく初療でアナフィラキシーを適切に認識し、アドレナリンを早期に投与することです。また、経過観察時間に明確な決まりはありませんが、根拠を持って帰宅の判断ができるようになる必要があります。重症度だけでなく、症状出現からアドレナリン投与までの時間、さらには患者の生活状況なども考慮して対応するようにしましょう。
<参考文献>
1)Zeke A,et al. Emerg Med Pract.2022;24:1-24.
2)Oya S,et al. J Emerg Med.2020;59:812-9.
3)Douglas DM,et al. J Allergy Clin Immunol.1994;93:977-85.
4)Shaker M,et al. JAMA Netw Open.2019;2:e1913951.
5)Liu X,et al. J Allergy Clin Immunol Pract.2020;8:1230-8.
6)Nagata S,et al. Int Arch Allergy Immunol.2022;183:939-45.
7)Kim TH,et al. Int Arch Allergy Immunol.2019;179:31-6.
1)Zeke A,et al. Emerg Med Pract.2022;24:1-24.
2)Oya S,et al. J Emerg Med.2020;59:812-9.
3)Douglas DM,et al. J Allergy Clin Immunol.1994;93:977-85.
4)Shaker M,et al. JAMA Netw Open.2019;2:e1913951.
5)Liu X,et al. J Allergy Clin Immunol Pract.2020;8:1230-8.
6)Nagata S,et al. Int Arch Allergy Immunol.2022;183:939-45.
7)Kim TH,et al. Int Arch Allergy Immunol.2019;179:31-6.