2018.9.17にWEB配信されたセミナー「経皮感作とアレルギーマーチの最新の話題」(国立成育医療研究センター アレルギーセンター長 大矢 幸弘 先生)の備忘録です。
<概要>
乳幼児の食物アレルギーが湿疹のある子どもに多いのは、食物抗原の経皮感作によるものであることが明らかになるにつれ、アレルギーマーチのとらえ方に大きな変化が生じた。食物抗原の除去・回避による予防策が有効では無く、むしろ経口免疫寛容を誘導する機会を奪うため食物アレルギーの発症リスクを高めることが、前向き観察研究(コホート研究)や介入研究(ランダム化比較試験)によって明らかとなり、アトピー性皮膚炎(AD)児こそ早めにピーナッツや鶏卵などの食物抗原の摂取を開始したほうがよいとの提案が出された。また、湿疹やADの治療に関しても自然に治るのを待って放置するのではなく、早期から積極的に予防や治療を開始したほうが、食物アレルギーを始めアレルギーマーチの予防には有利である可能性が後向き観察研究(ケースコントロール研究)によって示され、今後の前向き研究による実証に期待が集まっている。
食物アレルギー分野は日進月歩であり、アップデートが欠かせません。
内容は「すべてのアレルギー疾患予防は湿疹のコントロールに始まる」に尽きます。
講演の中で私がポイントと感じたことを列挙し、コメントを添えてみます;
・すべてのアレルギーの始まりは湿疹である。
・・・経皮感作は正常皮膚ではなく「炎症のある皮膚」で起こります。
・炎症のある部位(danger signal)から抗原が体に入るとアレルギーになり、炎症のないところから抗原が入ると免疫寛容が誘導される。
・・・近年、経皮感作が注目されていますが、正常皮膚ではアレルギー感作は成立せず、炎症が起きていてバリア機能が壊れている部位(湿疹/アトピー性皮膚炎)で成立する、また皮膚に限らず炎症が起きていれば消化管でも感作が成立するという、少し広げた概念で説明していました。
・経皮感作を避けて(湿疹の管理)、経口免疫を誘導(アレルゲンになりやすいものは避けるのではなく早期から食べさせる)することが最重要。
・・・この2本柱が、今後の「アレルギー疾患予防」の中心になっていくと思われます。
・保湿ケアは、保湿剤の質(すぐれた保湿能力)よりも、回数が重要であり、1日1回より2回の方が食物アレルギー予防として有効である。
・・・現在、ヒルドイド®の全盛期で、化粧品として流行される傾向があり社会問題にもなっています。しかし最近の論文では、「質より回数」の方が重要であると報告されました。質では差がなく、回数(1日1回塗布より2回塗布がよい)でアトピー性皮膚炎発症が半減したという内容で、これは大矢先生達のグループが発表した「1日1回保湿剤塗布でアトピー性皮膚炎が2/3へ減った」よりも優れた成績です。
・皮膚は分子量500までしか通さないが、アレルゲンはふつう分子量1万以上であり、矛盾を指摘する声があったが、ランゲルハンス細胞が皮膚表面のタイトジャンクションをかいくぐってアレルゲンに触枝を伸ばしている説明されるようになった。
・・・この解説は目から鱗が落ちました。
・乳児期発症のアトピー性皮膚炎が持続するとアレルギーマーチ(喘息、アレルギー性鼻炎など)のリスク因子となる。
・・・今までは、乳児期のアトピー性皮膚炎をしっかりコントロールすると食物アレルギーの発症を予防できることが主でしたが、湿疹を治して維持すると幼児期以降のアレルギー疾患である喘息やアレルギー性鼻炎の予防効果も期待できるという成績が次々に発表されるようになりました。つまり、アトピー性皮膚炎は乳児期以降もしっかり治療するに越したことはない、ということです。
・アトピー性皮膚炎の早期発症と持続、食物/吸入アレルゲンへの感作のすべてが気管支喘息発症のリスクである。
・・・下線部のひとつひとつが気管支喘息発症のリスク因子になります。対策はアトピー性皮膚炎を早期にコントロールして持続させないこと、それがアレルゲン感作を予防し、ひいては気管支喘息発症予防になるという構図です。
結局、「湿疹/アトピー性皮膚炎の治療をなおざりにする限りアレルギー診療は語れない」ということですね。
<メモ>
・・・おもにスライドの標題です。
・鶏卵アレルギーは早期摂取に予防効果がある。
・食物アレルギーは、摂取回避では予防できず、経口免疫寛容の誘導が必要。
・PETIE(Prevention of Egg allergy with Tiny amount InTake):並行して湿疹を治療し、経皮感作を低減した。この時行われたProactive療法で使われたステロイド軟膏は、顔はロコイド®、体幹・四肢はリンデロンV®である。
・食物アレルギーの予防には、皮疹のコントロールによる経皮感作の防止が重要。生後3ヵ月のときアトピー性皮膚炎があると、食物抗原の感作を受ける危険性が6倍高くなる(重症アトピー性皮膚炎では25倍)。
・アトピー性皮膚炎は食物アレルギーの危険因子である。特に、生後1〜4ヵ月に湿疹を発症した乳児は、3歳の時の食物アレルギーのリスクが高い(生後1-2ヵ月発症では7倍、生後3-4ヵ月発症では4倍)。
・アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係は、「相関」ではなく「因果」である。
・乳児のアトピー性皮膚炎はアレルギーマーチのリスク因子。
・湿疹によるバリア低下
↓
湿疹からアレルゲンが侵入
↓
抗原特異的IgE抗体産生
↓
アレルゲンに暴露されると悪化する(食物アレルギー発症、アトピー性皮膚炎増悪)
・炎症のある部位(danger signal)から抗原が体に入るとアレルギーになり、炎症のないところから抗原が入ると免疫寛容が誘導される。
・乳児期発症のアトピー性皮膚炎は持続型でも一過性型でも6歳時の食物アレルギーのリスクが高く、持続型では6歳時の喘息、鼻炎、吸入抗原への感作リスクが高い。
→ 喘息、鼻炎予防には、ずっとアトピー性皮膚炎をコントロールする必要がある。
・乳幼児期の食物抗原や吸入抗原の感作は10〜12歳のアレルギー性鼻炎のリスクとなる。食物抗原のみの感作では2〜3倍、食物抗原と吸入抗原療法感作では3〜7倍。
・早期発症のアトピー性皮膚炎は気管支喘息のリスクファクターである。
・1歳時に感作を受けていないアトピー性皮膚炎は、3歳時の気管支喘息の危険因子ではないが、アレルギー性鼻炎の危険因子ではある。
・新生児期からの保湿剤によるスキンケアで乳児期発症アトピー性皮膚炎は1/3が抑えられる(2/3は発症)。しかし食物アレルゲンへの感作率に有意さはなかった。
・経皮感作の予防には保湿剤の性能ではなく、回数(1日2回塗布)が大切である。
・これからのアレルギー疾患予防戦略は、
1.卵など食物アレルギー患者の多い食物に関して離乳食の開始を遅らせず、遅くとも生後6ヵ月から開始する。
2.保湿剤で湿疹の発症を予防したり、湿疹ができたら速やかに治療し、プロアクティブ療法で湿疹ゼロを維持する。
明日からの自分の診療に何が生かせるでしょうか?
1.プロアクティブ療法による厳格な湿疹コントロールを継続
2.アレルゲン化しやすい食物の早期摂取については、これからの研究成果を待とう。現在は「食物アレルギーが心配だから摂取開始を遅らせる」必要がないことを啓蒙。
ということで。
<概要>
乳幼児の食物アレルギーが湿疹のある子どもに多いのは、食物抗原の経皮感作によるものであることが明らかになるにつれ、アレルギーマーチのとらえ方に大きな変化が生じた。食物抗原の除去・回避による予防策が有効では無く、むしろ経口免疫寛容を誘導する機会を奪うため食物アレルギーの発症リスクを高めることが、前向き観察研究(コホート研究)や介入研究(ランダム化比較試験)によって明らかとなり、アトピー性皮膚炎(AD)児こそ早めにピーナッツや鶏卵などの食物抗原の摂取を開始したほうがよいとの提案が出された。また、湿疹やADの治療に関しても自然に治るのを待って放置するのではなく、早期から積極的に予防や治療を開始したほうが、食物アレルギーを始めアレルギーマーチの予防には有利である可能性が後向き観察研究(ケースコントロール研究)によって示され、今後の前向き研究による実証に期待が集まっている。
食物アレルギー分野は日進月歩であり、アップデートが欠かせません。
内容は「すべてのアレルギー疾患予防は湿疹のコントロールに始まる」に尽きます。
講演の中で私がポイントと感じたことを列挙し、コメントを添えてみます;
・すべてのアレルギーの始まりは湿疹である。
・・・経皮感作は正常皮膚ではなく「炎症のある皮膚」で起こります。
・炎症のある部位(danger signal)から抗原が体に入るとアレルギーになり、炎症のないところから抗原が入ると免疫寛容が誘導される。
・・・近年、経皮感作が注目されていますが、正常皮膚ではアレルギー感作は成立せず、炎症が起きていてバリア機能が壊れている部位(湿疹/アトピー性皮膚炎)で成立する、また皮膚に限らず炎症が起きていれば消化管でも感作が成立するという、少し広げた概念で説明していました。
・経皮感作を避けて(湿疹の管理)、経口免疫を誘導(アレルゲンになりやすいものは避けるのではなく早期から食べさせる)することが最重要。
・・・この2本柱が、今後の「アレルギー疾患予防」の中心になっていくと思われます。
・保湿ケアは、保湿剤の質(すぐれた保湿能力)よりも、回数が重要であり、1日1回より2回の方が食物アレルギー予防として有効である。
・・・現在、ヒルドイド®の全盛期で、化粧品として流行される傾向があり社会問題にもなっています。しかし最近の論文では、「質より回数」の方が重要であると報告されました。質では差がなく、回数(1日1回塗布より2回塗布がよい)でアトピー性皮膚炎発症が半減したという内容で、これは大矢先生達のグループが発表した「1日1回保湿剤塗布でアトピー性皮膚炎が2/3へ減った」よりも優れた成績です。
・皮膚は分子量500までしか通さないが、アレルゲンはふつう分子量1万以上であり、矛盾を指摘する声があったが、ランゲルハンス細胞が皮膚表面のタイトジャンクションをかいくぐってアレルゲンに触枝を伸ばしている説明されるようになった。
・・・この解説は目から鱗が落ちました。
・乳児期発症のアトピー性皮膚炎が持続するとアレルギーマーチ(喘息、アレルギー性鼻炎など)のリスク因子となる。
・・・今までは、乳児期のアトピー性皮膚炎をしっかりコントロールすると食物アレルギーの発症を予防できることが主でしたが、湿疹を治して維持すると幼児期以降のアレルギー疾患である喘息やアレルギー性鼻炎の予防効果も期待できるという成績が次々に発表されるようになりました。つまり、アトピー性皮膚炎は乳児期以降もしっかり治療するに越したことはない、ということです。
・アトピー性皮膚炎の早期発症と持続、食物/吸入アレルゲンへの感作のすべてが気管支喘息発症のリスクである。
・・・下線部のひとつひとつが気管支喘息発症のリスク因子になります。対策はアトピー性皮膚炎を早期にコントロールして持続させないこと、それがアレルゲン感作を予防し、ひいては気管支喘息発症予防になるという構図です。
結局、「湿疹/アトピー性皮膚炎の治療をなおざりにする限りアレルギー診療は語れない」ということですね。
<メモ>
・・・おもにスライドの標題です。
・鶏卵アレルギーは早期摂取に予防効果がある。
・食物アレルギーは、摂取回避では予防できず、経口免疫寛容の誘導が必要。
・PETIE(Prevention of Egg allergy with Tiny amount InTake):並行して湿疹を治療し、経皮感作を低減した。この時行われたProactive療法で使われたステロイド軟膏は、顔はロコイド®、体幹・四肢はリンデロンV®である。
・食物アレルギーの予防には、皮疹のコントロールによる経皮感作の防止が重要。生後3ヵ月のときアトピー性皮膚炎があると、食物抗原の感作を受ける危険性が6倍高くなる(重症アトピー性皮膚炎では25倍)。
・アトピー性皮膚炎は食物アレルギーの危険因子である。特に、生後1〜4ヵ月に湿疹を発症した乳児は、3歳の時の食物アレルギーのリスクが高い(生後1-2ヵ月発症では7倍、生後3-4ヵ月発症では4倍)。
・アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係は、「相関」ではなく「因果」である。
・乳児のアトピー性皮膚炎はアレルギーマーチのリスク因子。
・湿疹によるバリア低下
↓
湿疹からアレルゲンが侵入
↓
抗原特異的IgE抗体産生
↓
アレルゲンに暴露されると悪化する(食物アレルギー発症、アトピー性皮膚炎増悪)
・炎症のある部位(danger signal)から抗原が体に入るとアレルギーになり、炎症のないところから抗原が入ると免疫寛容が誘導される。
・乳児期発症のアトピー性皮膚炎は持続型でも一過性型でも6歳時の食物アレルギーのリスクが高く、持続型では6歳時の喘息、鼻炎、吸入抗原への感作リスクが高い。
→ 喘息、鼻炎予防には、ずっとアトピー性皮膚炎をコントロールする必要がある。
・乳幼児期の食物抗原や吸入抗原の感作は10〜12歳のアレルギー性鼻炎のリスクとなる。食物抗原のみの感作では2〜3倍、食物抗原と吸入抗原療法感作では3〜7倍。
・早期発症のアトピー性皮膚炎は気管支喘息のリスクファクターである。
・1歳時に感作を受けていないアトピー性皮膚炎は、3歳時の気管支喘息の危険因子ではないが、アレルギー性鼻炎の危険因子ではある。
・新生児期からの保湿剤によるスキンケアで乳児期発症アトピー性皮膚炎は1/3が抑えられる(2/3は発症)。しかし食物アレルゲンへの感作率に有意さはなかった。
・経皮感作の予防には保湿剤の性能ではなく、回数(1日2回塗布)が大切である。
・これからのアレルギー疾患予防戦略は、
1.卵など食物アレルギー患者の多い食物に関して離乳食の開始を遅らせず、遅くとも生後6ヵ月から開始する。
2.保湿剤で湿疹の発症を予防したり、湿疹ができたら速やかに治療し、プロアクティブ療法で湿疹ゼロを維持する。
明日からの自分の診療に何が生かせるでしょうか?
1.プロアクティブ療法による厳格な湿疹コントロールを継続
2.アレルゲン化しやすい食物の早期摂取については、これからの研究成果を待とう。現在は「食物アレルギーが心配だから摂取開始を遅らせる」必要がないことを啓蒙。
ということで。