整形外科医の書いた子どもの運動器障害の本を読みました。
編著:柏口新二、著:梅村悟、笠次良爾
学校医として担当する学校健診の参考になるかと購入したのですが、
そこには運動器検診の意義と問題点が記されており、
とても勉強になりました。
後半の各疾患の解説も読みましたが、一旦覚えても忘れそう…。
現在の学校健診には内科診察の他に、運動器検診が組み込まれています。
そこで発見される病気は、ほとんどが小児科医の扱わない整形外科疾患です。
なぜか?
2000年代になって、子どもの運動能力は二分化しました。
一方は、ゲームに明け暮れて運動不足、基本的な運動能力の低下した子どもたち。
もう一方は、スポーツクラブチームに所属し、練習のしすぎで身体を壊す子どもたち。
それを問題視した整形外科医達が主導して、
「学校健診でそれらをチェックしよう」
とねじ込んできたのです。
しかし、学校医の中で整形外科医はたったの5%しかいません。
先日耳にした、
「整形外科医に聞きました、学校医をやりたいですか?」
というアンケート調査では、
「ふだんの診療が忙しいのでやりたくない」
という結果だったそうな。
…これを聞いて、愕然としました。
担当する医師達は、
「ふだんの忙しい診療に穴を開けて身を削って健診を担当している」
のに。
運動器検診を学校健診に導入した張本人達は、
それを担当することなく、
現場の混乱を“高みの見物”している!? …怒りさえ感じました。
昨今、学校健診の着衣・脱衣問題が話題になっています。
「健診ごときで上半身裸になるのはおかしい」
という論調です。
しかし、感情論で反対する人々は、
発見される病気の代表である「側弯症」のことをどこまで知っているのか疑問に思うことがしばしば。
思春期に発症する「特発性側弯症」は無症状です。
しかし成長に伴い急激に進行し、将来手術が必要になることがあります。
発症初期は生徒の背中から背骨をじっくり見て、疑うレベル。
それを発見して専門医につなぐのが学校健診の役割です。
それを「服の上から判断しろ」というのは無理な話です。
例えるなら、
「まだ痛みのない虫歯を口を開けないで探せ!」
と云っているようなもの。
そう、学校健診は、
「症状がない状態で健康に問題がないかどうか」
を判断する、繊細な作業なのです。
しかし、見切り発車的に始まった「運動器検診」、
混乱の原因が“非専門医による診察”だけではなく、
発見された後の「事後措置」があやふやなままであることも大きな要因です。
この本の中でも、養護教諭へのアンケート調査結果からあぶり出された、運動器検診の課題として4つを上げています;
1.検診前の保険調査票の問題
・運動器検診の各項目について家庭であらかじめ保護者がチェックすることになっているが記入漏れが多い。
・配布された調査票のチェック欄がわかりにくく、レイアウトも使いづらいことが一因。
2.検診時の二次検診受診基準の曖昧さ、学校医の専門科の問題
・基準が曖昧なため二次検診受診勧告の比率が学校により大きく異なる。
・しゃがみ込みテストと片足立ちテストができない生徒に二次検診を勧告することが適切?…紹介されて診察する整形外科医も戸惑っているという現状。
・学校医は内科医や小児科医が担当することが多く、運動器を扱う整形外科医は少数。
3.検診後の事後措置の基準が不明瞭
・しゃがみ込みテストと片足立ちテストができない生徒に対して、何をどのように指導すればよいのかが決められていない。
・そもそも無症状で日常生活にも支障がないので、経過観察のチェックポイントや病院受診を勧める基準もわからない(※ 1)。
4.全体として業務量と所要時間のアンバランス、想定疾病がわからない、そもそも検診の必要性について疑問が残る
・運動器検診が導入されて診察に時間がかかるようになったけど、学校健診に使用される時間は変わらない…1時間に100人くらいこなす医師もいるらしい(私は1時間半に60人が限界です)
・その準備や設定に当たる現場の養護教諭が疲弊している。
・チェック項目を詰め込んで、しかし非専門医の診察、かつ時間制限のある学校健診(運動器検診)がひつようなのか?…もし必要と考えるなら適切な診察方法と所要時間を提示すべきである(私見)
問題視されている“しゃがむ” “片足立ち”の解説部分を抜粋しておきます;
【しゃがめない】
・原因の第一は「足関節の硬さ」です。しかし、足関節のストレッチを行い、柔軟性が改善されてもしゃがめない子が多いです。
・そのような子どもは、臀部や腰部など、骨盤の周りの筋の柔軟性が低下し、仙腸関節や腰の骨など能書きが悪くなっていることがあります。そのため骨盤周りの筋へのアプローチも重要となります。
【片足立ちができない】
・バランスの問題(平衡感覚)だけではなく、姿勢や筋力の問題が大きく関わっています。人間の重心は骨盤あたり(仙骨前面)にあります。子どもは大人と比べると重心が相対的に高い位置にあるため不安定です。
・そのうえ姿勢が悪いと骨盤が過度に前屈したり後傾したりしてさらに不安定となります。その結果、重心の位置が安定せず片足立ちが不安定になります。
・また、大臀筋や内転筋、腰部・腹部の筋など骨盤を安定させる筋の弱化も問題となります。
ウ〜ン、問題提起しているこの本に解決法を期待したのですが…残念ながら引用文だけでは「だからどうすればいいの?」の答えになっていません。
検索した結果見つけたこちらからイラストを引用しておきます。
うん、どのタイミングで「整形外科要受診」なのか明確に書かれていて参考になります。
私はこの内容を担当している中学校の養護教諭に情報提供しました。
また、日本側弯症学会宛に、
・学会として側弯症検診・運動器検診の現場の混乱をどう捉えているのか?
・専門医の視点から「着衣診察」で側弯症検診が可能かどうか?
に関して見解を公表すべきではないかと問いかけました。
…現在検討しているとの返答をいただきました。
<参考>
(日本学校保健会)のP25にストレッチ法が解説されていました。