かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

新作短編 その16

2008-09-21 19:52:34 | 麗夢小説 短編集
 今日は今年を象徴するようなゲリラ豪雨が頭上を襲いました。ちょっと3時のおやつでも見繕って来よう、と外出したところ、北の方の空が真っ黒な雲に怖気を震うほど覆われているのが見えておりました。真上は晴れ間も見えておりましたし、一応傘は持って出たので歩き始めましたが、思いのほか雲の動きが早く、たちまち雲が近づいてきます。更にぴかっ! と雷が瞬き、数秒遅れておどろおどろしい雷鳴が轟きました。これは少々厄介なことになるかも、と道を急ぎ、半ばにかかろうと言うところで、ぴかっ! どしゃーん!てな具合に雷が頭上を圧する轟音をかなで、私は大慌てで信号を渡り、すぐそこの行きつけのスーパーに飛び込みました。
 で、買い物を済ませて出ようとすると、猛烈な風に乗って無数の大粒の雨がアスファルトを叩き、道路をたちまち川に変えている様子が。時おり雷も鳴って瞬間的な停電もあったりしつつ、結局20分くらいして小ぶりになるまで、スーパーのガラス越しに秋の嵐を見ておりました。この間の台風が大したことなかっただけに、これは遅ればせながらやってきた台風のような天気だと感じさせられました。
 
 さて、そんな状況には見舞われましたが、こちらも嵐が猛る展開となりますでしょうか。それでは、日曜恒例の連載小説、続き、行きます。

---------------------本文----------------------------

 一瞬、眼底が漂白されるほどの膨大な光が、谷間の全てを真っ白に呑み込んだ。一足早く、その中心近くまで迫った雪玉が幾つか、はじけるエネルギーに、じゅんっ! と音を立てて消滅する。更に遅れて飛び込む雪玉が、横薙ぎに走る青白い光芒にまっぷたつとなって吹っ飛ばされた。谷を埋め尽くした光がようやく薄れ始めると、その彗星のごとき青い光をふるう姿が忽然と姿を現した。
 赤を基調とした女戦士。肩と膝を覆う硬質のプロテクター。腰と胸の大事なところを辛うじて覆い隠すビキニ。夢の戦士、ドリームハンター麗夢の真の姿が、碧の黒髪を艶やかな背中に打ちかけつつ、ひらりと宙を舞って雪玉を迎え撃った。
 その両手に握る剣が、刀身に宿る蒼い光を一段と強め、一閃の光芒を残して数体の雪玉を切り裂いた。カモシカのような足が崖の岩場を蹴る。フィギュアスケートのように高速回転しつつ転がり落ちてくる雪玉をかわし、飛び込んでくるものを薙ぎ払い、切り捌き、突き飛ばして、更に麗夢は頭上高くジャンプした。数十メートルは下らない切り立った崖をカモシカもかくやとばかりに駆け上がった麗夢は、遂に崖を飛び越え、雪玉達の頭上をとった。
(何処? 何処にいるの?)
 ふわりと宙を舞いつつ、麗夢は足元のま白き平原と、その平原をほの黒く割り裂く駒込川の谷を見る。その崖頂上の両端に蠢くのは、あの雪だるま達である。
(一体どこ?!)
 麗夢は両岸の雪だるま達を交互に見据え、気を澄ませてあの殺気の源を探ったが、まるでそれらしい姿は無い。しかも、かえって殺気が拡散したのか、あれ程明確に自分を指向していた殺気の方向すらはっきりとしなかった。と言うよりも、一段と360度、あらゆる方向から監視され、挑まれているかのように麗夢が感じたとき、突如それは襲いかかってきた。
 ジャンプの頂点に達し、背面飛びの要領で体を入れ替えた麗夢は、右か左の雪だるま達のただ中に飛び込んで蹴散らしてやろう、と背中越しに眼下を見やった、その時。これまでにない猛烈な突風が、いきなり麗夢を巻き込んで更に上空高く跳ね上げた。
「きゃっ!」
 思わずバランスを崩して錐もみ状に飛ぶ麗夢の背中を、巨人の張り手のような一撃がぶつけられた。ぐはっ、と肺の空気を全部強制的に吐き出され、エビぞりにのけぞったまま、猛烈な勢いで地面へと落下する。その無防備にさらけ出されたお腹に、稠密に圧縮された風の塊が撃ち込まれた。麗夢の身体が九の字に折れて、暴風に晒された木の葉のように再び舞い上がり、それをもう一度、透明な巨人の手、吹雪の一陣が、地面目がけて叩き付けられた。急降下爆撃ではなたれた爆弾のように麗夢の体が一直線に落ち、真下の水面に突き刺さった。
 ザブーン! と、真冬の八甲田山系にありうべからぬ着水温が木霊し、盛大な水柱が立ち上がる。宙を舞った水滴がたちまちで氷と化して、折からの風に雪と混じる。麗夢の身体は、空中で暴風に弄ばれている内に流され、大滝の滝壺に落下したのだった。
 水柱がおさまり、淵に刻まれた波紋が静まる頃、その岸辺に雪だるまの大群が集まった。白い雪玉達が滝壺を覗き込むように折り重なって、不気味に蠢きを繰り返している。その静かな喧騒の中、低い女の声がどこからとも無く、流れ出た。
『ふっ、他愛もない。・・・なに!』
 数瞬の勝利の余韻。その沈黙が、突然川面を割った赤い颶風に撃ち破られた。
「いったいじゃないの! この!」
 盛大に水しぶきを上げながら飛び上がった半裸の少女は、手にした剣を一段と青白く輝かせ、密集する雪だるま達に飛びかかった。一閃して数体の雪玉が斬り飛ばされて蒸発し、二閃で更に倍する雪だるまが蹴散らされる。たちまち河原に丸い空隙が生じ、その中心で暴れる剣が、その空隙を更に広く刈り取った。麗夢は、直径数メートルに広がった雪刈り場の中心に降り立つと、右手に剣を構えつつ、周りと取り囲む雪だるま達を睨み付けた。
「これくらいじゃ私は倒せないわよ! いい加減、姿を見せなさい!」
 ほんの数秒で心臓を強制的に止めうる水に落ちて更にそこから飛び出し、零下十数℃、体感温度は更にその数倍低いであろう中で、圧倒的な存在感をもって辺りを睥睨する半裸の美少女。そのほとんど何も身につけずに肌を晒している姿が雪に囲まれているのを見るのは、永らく雪の中を旅してきた朝倉でさえ、非現実感に囚われる不思議な光景であった。
「麗夢さん、貴女は一体・・・」
「朝倉さん!」
 麗夢は、果敢に雪だるまの壁に突撃すると、瞬く間にこれを蹴散らし、その外まで近づいていた朝倉と合流した。
「さあ、話して! この雪だるま達は何? あなたは、こいつらと一体何を約束したの?」
 麗夢は朝倉を背中に回し、啓開した雪の壁を新たに埋め、此方に向けてじりじりと迫る雪だるま達に剣を向けた。雪越しにはっきりしなかった麗夢の姿を目の当たりにして、朝倉は、思わず口ごもって顔を赤くした。だが、雪だるま達に意識を集中する麗夢には、朝倉の様子は分からない。その変化に目ざとく気づいたのは、雪だるま達の方だった。
「え?」
 麗夢は突然また奔騰した怒りの炎に、朝倉をかばって一歩身を引いた。その途端、またしても怒りの波が更に高まり、麗夢の身体を朝倉へと近づけた。
『お、おのれおのれおのれおのれぇっ!』
 雪だるま達の怒りが遂に限界を超えようとしたその時。
「麗夢さん! 朝倉さんから離れるんだ!」
 聞き慣れた叫び声が麗夢の耳を突いたとき、怒りの大きさに比例した巨大な白い塊が、麗夢の視界を覆い尽くした。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする