かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

新作短編 その22

2008-11-09 18:41:12 | 麗夢小説 短編集
 お昼ごろ、アマゾンからメールが届きました。てっきり、荷物発送しました、という連絡かと思いきや、肝心の「スレイブヒロインズ8」について、『ご注文いただいた商品の配送予定日がまだ確定しておりません』という話。なんですとー!とよく読んでみても、「継続して商品の調達に努めてまいりますが、調達不能な場合または入荷数の関係上キャンセルをさせていただくこともございます。」としか書いてありません。リンクのサイトまで見に行っても、出版社に発注かけるので3~5週間かかるかも、とのこと。えらい人気で品薄にでもなったんでしょうか。ランキングを見ると本で849位になっているじゃないですか。他の事例を知らないので全くの個人的感想ですが、沢山本がある中で、この種のコミックスが三桁代につけるというのは珍しいんじゃないでしょうか? これも今回急展開しているらしい「ドリームハンター麗夢XX」効果? それならうれしくもありますが、頼みのアマゾンがこの調子では、私はいつ本を手にすることができるんでしょうか?(泣)

それはさておき、ようやく復活したPCを用いて、1週見送ってしまった連載小説の続きをいきます。謎の一つが解けて、全体に落ち着きを取り戻しつつある内容になりました。このまま順調に行けば、あと一回、来週の更新で完結できそうです。それでは、始めましょう。

-------------------本文開始------------------------

「私と彼女との出会いは、明治35年1月23日、旧暦12月12日の、『山ノ神の日』とされる寒い冬の夜のことでした。我々歩兵第5連隊より選抜された八甲田山雪中行軍隊は、ちょうどその時襲ってきた未曾有の大寒波に遭遇し遭難した、あの夜のことです」
 朝倉=倉田は、淡々とした口調で、参加210名中199名が凍死した事件を語り始めた。
「我々は、目的地の田代元湯まで後わずかと言うところまで行きながら、ついに到達することができず、やむなく雪濠を掘り、露営することになりました。だが、暖を取ろうにも燃料が役に立たず、食事も満足に取れないでいた私は、持病もあったのか、いつしか眠りに落ちてしまいました。彼女が現れたのは、そのとき見た夢の中のことです」
「夢の中、山の神は美しい娘の姿で立ち現れ、こう言いました。『「山ノ神の日」を穢した主達は、その報いを受けてここで死なねばならぬ。だが、わしは主のことを一目見て気に入った。わしの言う通りにせよ。そうすれば助けてやろう』 私はそこで目を醒ましましたが、その時は、疲労と寒さで変な夢を見てしまった、としか思いませんでした。でも、私はその後、雪原を彷徨ううちに、あちこちで彼女の姿を見ることになりました。行軍隊の中には、おかしくなって服を脱いで雪に飛び込むような輩も現れ始めた頃のことです。はじめのうちは、私は自分もついに狂ったのではないか、と何度も疑ったのですが、それもしばらくして考えないようになり、いつの間にか、自ら彼女の姿を追い求めるようになっていました。その頃から体の調子も軽くなり、寒気と吹雪に蝕まれ崩れていく隊の中で、私はただ一人意気軒昂として歩き続けることができました。そして、確かに彼女は道を案内し、私を誘っていたんです。この、神聖なる神の地に通じる道を開くために」
「秘められた神の場所に到達するための道順をたどったんですね。北斗七星の形に」
「どうしてそれを・・・」
 鬼童が口を挟むと、それまで黙って朝倉=倉田の腕にしがみついていた少女が、驚きに目を丸くして思わずつぶやいていた。鬼童は朗らかに笑みを浮かべ、同じように驚きを隠せないでいる朝倉=倉田と山の神の少女に語りかけた。
「道教には『兎歩(うほ)』と呼ばれる北斗七星の形に足を運ぶ歩行呪術があります。さっき資料館で行軍隊のビバーク地点や行軍路の地図を見たとき、あれ? と思ったんですよ。その時の疑問をベースに推理して、朝倉さんが現れたり消えたりしていたのは、ひょっとしてこの地全体を使った壮大な『兎歩』そのものだったんじゃないか、と思ったんです。なるほど、倉田大尉が助かったのも、山の神に誘われてその通りに歩んだ結果だったんですね」
「確かにその通りです。しかし大したものだ、たったそれだけでここまでたどり着くとは。あの地図には行程が不明確な部分も多かったのに」
 朝倉=倉田の感嘆に、鬼童は恐縮の体で言葉を継いだ。
「僕一人では到底無理でしたよ。でも、円光さんやアルファ、ベータが、それぞれの地点で立つべき場所、通るべき道を丁寧に感知してくれましたからね。何とかたどり着くことができました」
 鬼童の隣で円光が軽くうなずき、アルファ、ベータが尻尾をピンと立てて胸を張る。
「なるほど、我々連隊も貴方方ほど連携が取れていたなら、みすみす遭難せずにすんだかもしれません」
 感心しきりの朝倉=倉田に、麗夢が言った。
「で、この地に着いてから、どうなったの?」
 麗夢の催促に、朝倉=倉田は我に返ったかのように言葉を継いだ。
「そうそう、ここからが肝心なところです。ここに至るまでに、山の神の言葉通り、ほとんどの兵が落伍し、凍死していきました。そんな中で、私は、山田少佐以下数名の生き残りとともに、ようやくこの地にたどり着くことができました。私は、ここにたどり着いた頃にはすっかり持病の肝臓が治り、不思議と飢えもなく、寒さも覚えませんでした。もちろん、この「山の神」の加護のおかげです。彼女はここで再び夢に現れて言いました。自分とともに山に残れ、と」
「で、倉田さんはなんと?」
「それはできない、と答えました。当時は、いつロシアとの戦争になるかもしれないという時期。そもそもこの雪中行軍もそれに備えての研究でもありました。そんな未曾有の国難を控えて、一人安寧と山にこもるわけにはいかない、と答えたんです。それでも彼女はなかなか諦めてくれず、生き残りの兵達を川に引きづり込んで死なせなどして私を脅すことまでしましたが、結局、根負けして、一つだけ約束することを条件に、私を帰してくれたんです」
「何を、約束されたんですか?」
 いよいよ確信の答えが出る。麗夢や榊たちは、覚えずこぶしを作って朝倉=倉田の言葉を待った。すると朝倉=倉田は、頬をほんのり赤く染めると、腕に抱きついている少女をちらりと見て言った。
「戦争が終わったら山に戻ってくる。それまで待っていて欲しい、と言ったんです」
 
コメント
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