平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

いだてん 第26回 「明日なき暴走」~勇気を出して走りましょう。跳びましょう。泳ぎましょう。人見絹枝、日本女子スポーツの黎明の鐘になる

2019年07月08日 | 大河ドラマ・時代劇
『「化け物」「六尺さん」と笑われた私も世界に出れば何ら特別ではありませんでした。
私に走ることを勧めて下さった増野シマ先生は手紙の中でこうおっしゃいました。
「あなたに対する中傷は世界へ出れば賞賛に変わるでしょう」
 本当にそのとおりでした。
 だから皆さん、勇気を出して走りましょう。
 跳びましょう。
 泳ぎましょう。
 日本の女性が世界へ飛び出す時代がやって来たのです。
 皆さんは幸福なことに、大和魂を持つ日本の女性なのです』

 いい言葉だなあ。
 これは別に『日本の女性』に限ったことでなく、勇気がなくて一歩を踏み出せない人へのエールでもある。
 ………………

 人見絹枝(菅原小春)のコンプレックスとプレッシャーは相当なものだっただろう。

 まずは肉体的なコンプレックス。
「化け物」「バッタ」「六尺さん」
 背が高く体格がいいというだけで異質なものと見られる。

 そして国を背負い、日本の女子スポーツ界の将来を決める大一番のプレッシャー。

「負けたら『やっぱり女は駄目だ。男のまねして走っても役に立たない』と笑われます!
 日本の、女子選手全員の希望が、夢が私のせいで絶たれてしまう。
 お願いします! やらせて下さい!」

 このせりふも切実だが、次のせりふはもっと胸を打つ。

「私の体にどうか明日1日走る力を与えて下さい」

 その結果は──
『ヒトミゲキソウ ギンメダル』
 結果を出したことで、それまでの絹枝の思いはオセロの●が○に変わるようにすべて逆転する。
 中傷は賞賛に。
 大きな体は世界ではたいしたことでなく、むしろメリットに。
 そして絹枝は女子スポーツの黎明の鐘に。

 見事な逆転だ。
 前半の伏線をすべて回収したと言ってもいい。
 しかも、回収したのはそれだけでなく、シマ(杉咲花)の思いも。
 シマの撒いた種は芽吹き、アムステルダムオリンピックで見事、花開いたのだ。

 絹枝は女性版・金栗四三ですね。
 オリンピック初出場、スポーツの黎明の鐘。
 絹枝は内省的でエキセントリックでないため視聴者も共感しやすい。

 さて次回は四三の退場のようだ。
「陸上でメダルを獲るには100年かかる」と言われていた日本陸上の選手がメダルを獲ったように、
 嘉納治五郎(役所広司)が16年かかってもできなかった政府からの多額のオリンピック資金の捻出を簡単にやってのけた田畑政治(阿部サダヲ)のように、時代は新しい世代に。
 もちろん新しい世代の成功の裏には、四三や治五郎たちの試行錯誤しながら荒れ地を切り拓いたことがある。


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2 コメント

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シンクロ (TEPO)
2019-07-08 15:51:04
>シマの撒いた種は芽吹き、アムステルダムオリンピックで見事、花開いたのだ。

第二部の新主人公田畑政治については今ひとつよくわからない中、第一部(というより「シマちゃんパート」)の余韻の中での「人見絹枝物語」を十分に楽しみました。

重要なところで増野氏とりく、そして回想のシマのアップが何度か登場しました。
ところで、絹枝に誘いかけたシマのアップに続いて五りんがアップになります。
明らかに杉咲花さんと神木隆之介さんとの面影の相似を意識した演出だと思いました。
ちなみに今後五りんについてはその父親、つまり成人後のりくの夫に関連してもう一つ仕掛けがあると予想しています。
おそらくその際には、杉咲さんがりく役で再登場するのではないでしょうか。

アムステルダムで輝いた三年後に24歳の若さで夭逝した人見絹枝は、史実だけ見てもドラマティックな人物ですが、今回私は演じた菅原小春さんに注目したいと思います。
彼女は本来女優ではなく、国際的に活動する「ダンサー・振付師」なのだそうです。
普通の女優さんでは「背が高く体格がいい」という人見絹枝の身体的特徴に見合わないという事情もあったのでしょうが、冒険的なキャスティングだったと思います。
しかし、「800メートル」と「女優としての演技」という「未経験への挑戦」という点で、人見絹枝と菅原さんとが見事にシンクロしていました。
特に、今回の山場である競技場控室の場面では、プロの女優さんにはないような迫力を感じました。
この場面について、彼女はインタビューで「お芝居が初めてで、どういうふうに“泣く”のかも分からなかった」ので「作り込むというより、人見さんがいて、(才能に気づき、陸上競技に進むよう導いた)シマさんがいて、人見さんにまつわる全てのことを思ったら、ああいうふうに泣いてました」とのこと。
普通は脚本を見ただけで仕上がりがイメージできるという演出の大根仁氏も、今回は「撮影側の実力や演出力を超えてしまう、何か別の力でつくらされている」と感じたとのことです。

最後に絹枝がトクヨ校長に振る舞われた「シベリア」を美味そうに口にし、二階堂体操塾の学生たちと楽しそうにダンスを踊る場面は良い味でした。
ただし、菅原さんが「このトクヨダンスを3秒で覚えて、ガチで踊ったら、キレッキレ過ぎてみんな爆笑して使えなかった」とのこと。何しろこの人、ダンスの方は「最先端のプロ」ですからね。
返信する
菅原小春キャスティングの妙 (コウジ)
2019-07-09 09:33:23
TEPOさん

いつもありがとうございます。

なるほど~。
五りんとシマの間で、五りんの『父親』というもうひとつの仕掛けがあるんですね。
実際、五りんの父親が「志ん生の『富久』はいい」と言った理由が明らかにされていませんし、写真でしか知らないシマに五りんがこだわっている理由も明らかにされていませんしね。

菅原小春さんの情報ありがとうございます。
ダンスと演劇・芝居。
肉体を使った表現という点では同じですが、芝居は今までやったことのないジャンル。
しかし、
>シマさんがいて、人見さんにまつわる全てのことを思ったら、ああいうふうに泣いてました
役へのアプローチの仕方は役者さんと同じなんですね。
しかも役者経験ゼロなので、人見絹枝の不器用さと上手くマッチしていました。
実に面白い演劇論・役者論です。

あとはキレッキレのトクヨダンス見てみたいですね(笑)
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