大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 5月6日 運がない人

2013-05-06 19:09:30 | B,日々の恐怖






      日々の恐怖 5月6日 運がない人






 Nさんの話です。
大きな台風が村を直撃し、山林に大きな被害が出た。
Nさんの所有山林も例外ではなく、樹齢150年近いヒノキのほとんどが倒れてしまった。
先祖代々手入れをしてきた山が全滅してしまい、すっかり意気消沈したNさんは、それっきり山に入る気にもなれず、昼間から飲んだくれている事が多くなった。
 それから半年以上の月日が経ち、周囲の山もだいぶ後片付けが済んでくると、さすがのNさんも、山をこのまま放っておくのはマズイと思いはじめた。
なにより世間体が悪い。
それに、倒木とはいえ樹齢150年のヒノキだ。
売れば、後片付けの代金を差っ引いても、手許に幾らかの金が残るかも知れない。

 そんなある日、Nさんは「ちょっと山を見てくる」と言い残して家を出た。
それが、ちょっとのはずが、夜になっても帰ってこない。
嫁は、どうせ、どこかで飲んだくれてクダを巻いているんだろうと、のんびり構えていたが、翌日の昼になってもNさんは戻ってこない。
さすがに心配になって方々に電話を掛けたが、昨夜はどこにも顔を出していない様子。
そこで、嫁と近所の男数人とで連れ立って山に向かうことになった。
 件の山に近い林道端に、Nさんの軽トラックが乗り捨ててあった。
歩道をしばらく歩くと、やがて視界が開けてきた。
あたり一面に、大きな木が根こそぎ倒れていた。
 150年ものあいだ成長を続けたヒノキの根っこは、大人の背丈よりも遥かに高く、奇怪な姿を地上に晒している。
それぞれが土を抱えたままひっくり返っているので、そこかしこにクレーターのような穴が空いていた。
 そんな荒れ果てた光景の中で、一本の巨木が天を衝くように立っていた。
良く見ると、昨日からの強い風に吹かれて、ぐらり、ぐらり、と揺れている。
ちょっと奇妙な動きに、男達が恐る恐る近寄ってみると、揺れるたびに、根っこが地面から浮き上がっているのが分かった。
 その浮き上がった根っこには手拭いが引っ掛かっていて、それを掴もうとするかのように、白い手が根っこの隙間から伸びていた。
数人がかりで揺れる木をワイヤーで引っ張って、ようやく根っこの下からNさんの遺体を回収することができた。
その頃には皆、Nさんの身に何が起こったのかは何となく見当がついていた。

 木は倒れたまま放っておくと、葉から水分が蒸発して乾燥が進む。
これを利用して木を乾かすのは、葉枯らしと言って、山では普通に用いられる手法だ。
 木は乾くと軽くなるが、その割合は幹の先端へ行くほど大きくなる。
すると、根こそぎ倒れたまま放ったらかしにされたヒノキは、次第に重心が根っこの方へ移っていくことになる。
そうやって半年が過ぎるうちに、大きなヒノキは、再び立ち上がるかどうかの瀬戸際にあったのだろう。
 そこへ昨日、Nさんがやって来た。
現地で倒れ木々を見て回っていたNさんは、持っていた手拭いを強い風にさらわれ、それは、微妙なバランスを保っていたヒノキの根っこに引っ掛かる。
Nさんは、引っ掛かった手拭いを取ろうとして背丈よりも高い根っこに登り・・・。

「 あの人、とことん運がなかったのね。」

葬儀の席でNさんの元嫁は、周囲にそう漏らしたそうだ。
現在は、Nさんの遺体を見つけた時に側にいた男の嫁になっている。
本当に、とことん運がないNさんだ。

















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