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日々の恐怖 5月26日 マンガ本

2013-05-26 19:04:13 | B,日々の恐怖








     日々の恐怖 5月26日 マンガ本







 何年か前、絶版になってしまったマンガを探しに水道橋の古本屋街をハシゴしたことがある。
ビルとビルとの間に歴史を感じさせる小さな古本屋があって何気なく入ってみると、目当てのマンガが全シリーズ揃って置いてあり、私は嬉しくなって全巻買い求めスキップしたい気分で家へ戻った。
 同じマンガのファンだった友人にメールで知らせると、仕事帰りに遊びに行くという返信が届いた。
私は友人が来る前に全部読んでしまおうと、コーヒー片手にマンガを読みふけった。
 全部で7巻のマンガを5巻目まで読んだ時、ブックカバーがやけに厚いことに気がついた。
前の持ち主が几帳面だったのか、このマンガの全巻には元来のブックカバーの上からビニールのカバーがかけられていて丁寧にセロテープでとめてある。
だが、5巻目のブックカバーだけは他のに比べて厚みもあり少し重いのだ。
カバーと本体の間に何か入っている、そう思った私はブックカバーをはずしてみた。
出てきたのは茶封筒だった。
 封筒の中にはメモのような物が折りたたんで入っており、それを取り出そうとした時、数枚の写真が一緒にこぼれ落ちた。
拾い上げてみると女の人の写真だ。
 一人で写っているものもあれば、数人で写っていたり、街を歩いている姿を遠くから写したようなものもあった。
写真に写っている女性はみんな違う人だったと思う。
気味が悪いのは、どの写真も必ずひとりだけ顔の部分が切り取られていることだった。
 イヤ~な気分だったが、メモに何が書いてあるのか気になった。
そこで、内容を確かめるためにメモを広げると、今度はそのメモの間から小さな紙が落ちた。
何枚もの小さな紙は、どうやら写真から切り取られた顔の部分のようだった。
 私は切り取られた顔を、興味半分で先に出てきた写真にはめ込んでみた。
けれど、どれもこれもピッタリ一致しない。
大きさが違っていたり、明らかに写真の材質や色合いが違っていて顔と写真は一枚も完全にはまらない。
 メモには、

“ これを読んだ人は連絡を下さい。”

と短いメッセージが書かれてあって、電話番号が記載されていた。
 そこへちょうど友人が遊びに来た。
私が写真とメモを見せると、友人はおもしろがって電話してみようと言う。
私は気持ちが悪いからやめた方がいいと反対した。
 友人はその時は諦めたフリをしてマンガを読んでいた。
しかし、私がトイレから戻ってくると、友人が部屋の電話を使って誰かと楽し気に話している。
 あんまり楽しそうに話しているので、最初は友だちと話しているのかと思ったのだが、電話は一向に終わる気配がなく、天気のことだとか、最近話題のニュースだとか、とりとめもなく会話がはずんでいる。
私は隣で友人をつっついて、

「 誰と電話してるのか知らないが、いい加減に切れよ。」

と耳打ちした。
友人は相づちを打ちながら、私の住所と電話番号を相手に告げて受話器を置いた。
 何だか胸騒ぎがして、今の電話の相手が誰だったのか問いただしてみると、例のメモの電話番号にかけてみた、とあっけらかんと言うのだ。
 私はギョッとし、怒りが込み上げてきた。

「 見ず知らずの人間に、しかも、あんな気持ちの悪い写真を持っていたようなヤツに、どうして勝手に住所や電話番号を教えるんだ!」

そう怒鳴っても、友人は平気な顔をして、

「 けっこう普通の優しそうなおじいさんだったよ。」

と言うのだ。

「 とんでもないヤツだ、お前は!」

と散々非難したが、友人は何ごとも無かったようにマンガを読み終えると、さっさと家に帰ってしまった。


 その夜、10時を過ぎた頃、不意にインターホンが鳴った。
友人が昼間かけた電話のことが気になっていたので、私は無視していた。
ところがインターホンはしつこく何十回も鳴り続け、あげくにドアをドンドン激しく叩くようになった。
 さすがに近所迷惑だと思ってドア越しに返事をすると、答えたのは聞き覚えのないおじいさんの声だ。

「 さっき電話をくれたあなたに届け物を持って来たんです。」

得体の知れない者への恐怖というか、相手のありえない行動が恐ろしくなり、そんな物はいらないし電話をかけたのは友人であることを告げると、おじいさんはどうしても届け物をもらって欲しいと言い張る。
 20分くらいそんな押し問答をしている内に、おじいさんは諦めて帰って行った。
ここまで邪険にされればもう来ることはないだろう、と一安心してその晩は眠ることができた。
 ところが次の日、私が仕事から帰ってくると隣の部屋のおばさんが声をかけてきた。
親切で愛想のいい隣のおばさんは、顔を会わせればいつも挨拶をしたり旅行のお土産欠かさない律儀な人で、わりと親しくしていた。
 おばさんは私に紙袋を手渡すと、品のいい初老の男の人が渡して欲しいと言って預けていきましたよ、と言う。
私は返す言葉もなく紙袋を眺め、内心ゾッとしていたが、おばさんの手前、紙袋を受け取らないわけにはいかなかった。
 心ならずも紙袋を受け取ってしまった私は、部屋に入って紙袋ごとゴミ箱に捨てた。
だが、中身が気になって気になって仕方がない。
非常識な年寄りがいったい何を持ってきたのか、確かめずにいられなくなった。
 私はゴミ箱から紙袋を引っ張り出すと、中身を確認することにした。
紙袋の中には単行本サイズの紙袋が一つ入っていて、中身は古本屋で買った例のマンガだった。
同じマンガの3巻だけが一冊入っている。
 パラパラめくっていると、また写真が出てきた。
今度は一枚だけで、やはり見知らぬ女の人の写真だ。
前回の写真と違うのは、顔の部分は切り取られておらず、かわりに目玉の部分がズブッとくり抜かれていた。
 以来、あのおじいさんが訪ねてくることはないが、どこかでこっそり自分を見ているような気がして、ちょっと怖いのだ。











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