日々の恐怖 5月25日 扉
Nさんはエレベーターの管理、修理をしている。
ある日、病院のエレベーターが故障して止まってしまった、と連絡を受けた。
すぐに車を飛ばしたが、到着した時には2時間がたっていた。
現場へ向かうと、人だかりがしている。
中には看護婦が閉じ込められているらしい。
「 大丈夫ですかあっ!」
Nさんが呼びかけると、怯えた女性の声が返ってきた。
「 出してください、はやくここから出して!」
がんがん扉を叩く音がする。
「 待ってください、今すぐに助けます。」
道具を並べ、作業に取り掛かった。
「 扉から離れていてください!」
と叫ぶ。
「 はやくはやくはやく!」
がんがんがんがんがん!!
「 扉から離れて!」
Nさんはもう一度叫んだ。
がんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがんがん!!!
扉は狂ったように内側から叩かれている。
ちょっと尋常ではない。
パニックになっているのだろうか。
周りの人も不安げに顔を見合わせている。
見かねて院長が扉に近寄って、怒鳴った。
「 扉から離れなさい!危険だから!」
「 離れてます!!」
女の悲鳴のような声が聞こえた。
「 暗くてわからないけど・・。
ここ、なにかいるみたいなんです!」
Nさんはぞっととした。
じゃあ、今目の前で扉を殴打しているのはなんだ?
つとめて考えないようにして大急ぎで作業にかかった。
扉を開けたとき、看護婦は壁の隅に縮こまり、しゃがみ込んで泣いていた。
彼女曰く、電気が消えた後、何者かが寄り添って立っている気配がしたという。
気配は徐々に増え、Nさんが来る頃には、エレベーターの中はそいつらで一杯だったそうだ。
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