日々の恐怖 5月31日 絵巻物
私の生まれた家の近くに寺がある。
この寺には地元では有名な絵巻物が保管されていて、お盆の期間だけ本堂に祭られ一般公開される。
絵巻物に描かれているのは地獄の風景。
お盆の間だけ地獄の釜の蓋が開いて亡者達が現世に戻ってくる光景だが、この絵巻物にはこんな逸話がある。
御開帳されている絵巻物を見ている時、カタン、カタン、と蓋が開くような音を聞いてしまうと、その人は近い内に死ぬ、というものだ。
私がまだ幼いころ、近所のおじいさんが茶飲み話にそんなことを言った。
そんなの嘘だ、そう私が言うと、おじいさんは笑いながらこう答えた。
だけどこれは昔から言われている話なんだ。
本当か嘘か、多分もうすぐわかる。
俺は昨日お寺にお参りに行った時、そんな音を聞いた気がする。
もし俺が死んだらその話は本当だという証拠だ、と。
おじいさんはその後、一ヶ月も経たない内にポックリ死んだ。
いつも早起きなおじいさんが朝食にも姿をみせないので家族が様子を見に行くと、すでに布団の中で冷たくなっていたということだ。
偶然なのかもしれない。
でも、私は未だに怖くてその寺に行く気になれない。
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