大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 6月10日 ラッパ

2013-06-10 18:35:30 | B,日々の恐怖








     日々の恐怖 6月10日 ラッパ







 小学生の頃、恥ずかしながら肥満児でした。
そんな私の身を案じてくれたのか、林業関係の仕事をしている父が休みの日によく山へハイキングに連れていってくれました。
 ある日、9時頃から登山をすることになり、母がこしらえた弁当を持って山道に入り付近で車を停めて頂上を目指しました。
その山は緩やかだと聞いていましたが、肥満児であったためか徐々に休みがちになり、父が予定していた頂上到着時間を超えてしまいました。
 休む度に俯き、父に対して申し訳ない気持ちと自身に対して情けない気持ちで歩いていると、父が首を傾げながら、

「 おかしいなぁ・・・。」

とつぶやくように言いました。

「 どうしたの?」

と聞き返すと、山に携わる者としてなのか言いづらそうに、

「 どういう訳か見当をつけていた道に出くわさない。
何故か景色がかわらない。」

と言いました。
 登り始めて4時間程たっていました。
不安な空気が漂う中、お昼をとうに過ぎているのでとりあえず弁当を食べて、もと来た道を戻っている時に、左側の山肌とは反対の林から、

“ パ~フゥ~、パ~フゥ~。”

という笛のような音がかすかに一定の間隔で聞こえてきました。
 父に、

「 この音なに?」

と聞きましたが、父には何も聞こえないようでした。

「 いや、向こうの方から聞こえる。」

と指差すと父は、

「 あ、川か・・・・。」

と近くに川が流れているのを思い出したようでした。
 そして、川に出ればどうにかなると横道に逸れて歩き、川に出くわすと下流の方に沿って続く凹凸がある砂利道があり、やがて車の音がする舗装道に出ました。
舗装道に出るまでずっと笛のような音は進む先から聞こえていて、父には聞こえていなかったようだけれど、行き先を案内している感じでした。
 なんだかんだで家に着きその事を話すと、

「 それは、こんな音だったかい?」

と祖母が押し入れから古めかしい布袋を出してきて、中から金色の円錐型の笛を取り出して吹いてくれました。

“ パ~フゥ~、パ~フゥ~。”

それは山で聞いたものと同じでした。

「 あ、それだ・・・。」

その笛は豆腐屋をしていた祖母の父の物でした。
 曽祖父は鮎釣りと山歩きが好きな人で、

「 もしかしたら、“こっちだぞ”と教えてくれたのかもわかんねぇなぁ・・・。」

と、祖母は懐かしそうに言いました。















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