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日々の恐怖 6月25日 迷宮

2013-06-25 18:05:57 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 6月25日 迷宮




 私は雑誌関係のライターをやっているものです。
なんとか食えてるという程度で、売れっ子というわけでもありません。
オカルト関係の仕事をやっていると、自分自身が奇妙な体験をすることもあります。

 東京のある大学病院に取材へ行った時のことです。
この仕事自体はオカルトとは関係なく、健康雑誌の仕事でした。
協力者の医師とは、小会議室で13:30からインタビューし14:30に終了。
医師と軽く雑談し、15:00に小会議室を出ました。
 この大学病院は山の斜面というか坂の途中に建っていて、旧館と新館に分かれています。
少々判りにくくて、坂の途中にあるので、階数が入れ違っているような感じです。
でも、まあ、来る時はすんなりと来られたのだから、帰る時もそんなに困りはしないだろう、と思っていました。
 しかし、どれぐらい歩いたでしょう。
いつまで経っても出口に辿り着きません。
車は旧館の駐車場に置いていたので、なんとか旧館の正面玄関に出たいのですが、どういうわけか行き着かないのです。
ふと時計を見ると、既に40分が経過していました。

“ おかしい。
いくらなんでも40分も歩き回るのはおかしい。”

 歩きながら考えていると、背後に気配がしました。
若い看護婦さんです。
空の車椅子を押しながら角を曲がっていきます。

“ もうこうなったら、新館でもなんでもいい。
とにかく外に出よう。
外にさえ出ればどうにかなる。”

そう思いながら、また歩き始めました。
 異変に気付いたのは17:00を過ぎてからです。
なぜか誰にも会わないということです。
 平日の昼間とはいえここは大病院です。
救急外来もあれば入院施設もあります。
なのに私は、さっきからほとんど誰とも会っていない。

“ そういえば、何人かの看護婦とすれ違ったような。
いや、違うぞ?
すれ違ってはいない、後ろを通っただけだ。
何人か?
いや、違う、違うぞ、あの看護婦は同一人物だ。
その証拠に、看護婦はいつも若く、毎回空の車椅子を押している。”

 次の瞬間、私はゾッとしました。
後ろに車椅子の気配を感じたからです。
 恐る恐る振り向くと、私の真後ろ1メートルほどに空の車椅子を押す若い看護婦が、そのまま私に向かってきたのです。
まったく無表情で、私を視界に入れていません。

“ ぶつかる!”

と思った次の瞬間、看護婦と車椅子は私をすり抜けて、角を曲がっていきました。
 私は驚いて廊下を走りました。
今までの順路とは逆の方向に、とにかく走りました。
 いつの間にか私は、取材場所だった小会議室の前に着きました。
ホッとした私は、小会議室のそばの非常階段で煙草を一服しました。
それから歩き始めると、スッと出口に到着したのです。
その時の時間は17:56でした。
なんとも言えぬ奇妙な体験でした。

 その日の夜、家に帰ると出版社から仕事の依頼と資料が届いていました。
その中に、ある女性漫画家の体験談がありました。
 京都の山でタクシーに乗っていたら、何度も何度も同じところをぐるぐる回って、いつまでも目的地に到着しない。
しかし、煙草を一服したら、その迷宮から脱出できたという。
また、その資料の中には、自分は煙草をすわないが、やばい雰囲気の時のために煙草を持ち歩いている、というのも。
煙草には、なにか特殊な力でもあるのでしょうか。


















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