大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 6月9日 骨壺

2013-06-09 18:20:11 | B,日々の恐怖






     日々の恐怖 6月9日 骨壺






 今から3年半ほど前に、仕事で老人ホームの設計を依頼された。
その当時、俺は東京のT市に住んでいた。
依頼の場所は、俺の住むT市の隣M市だった。
ちょうどその時は、H市の病院の増改築工事の設計の仕事をしており、掛け持ちでやる仕事としては、立地的に現場から現場への移動、そして自宅から向かうにも楽な場所であったため、快くOKの返事を出した。
 そして、打ち合わせのために俺は呼ばれ、初めてその現場に向かうことになった。
自宅から車で約15分程で付くだろうと思い、車でO環状を走り、10分程走り指定された脇道へと逸れ、坂道を上ると正面にM斎場があり、M斎場の脇の私有地を抜け、現場らしき場所にたどり着いた。


 今考えるとえると、もの凄い立地条件だ。
斎場からわずか300m程の場所に老人ホームなんて、あまり気分の良い物ではない。
近くには葬儀屋まであるし、それ以外はなにもありはしない。
 それから何事もなく打ち合わせも終わり、俺は関係者の見送りをすませ、最後にその場所から立ち去ろうとすると、一人の爺さんが、老人ホームの建つ方向を眺めていた。

“ 散歩でもしてるのか?”

気になった俺は、その爺さんに話しかけてみた。

「 お散歩ですか?」。

すると爺さんはいやいやと首を振り、逆に俺に話しかけてきた。

「 ここには何が建つのですか?」

そう聞かれた俺は看板を指さし、

「 老人ホームが建つんですよ。」

と答えた。
爺さんは、

「 ほー、こんな静かでいい場所に建てるんですか。
私も出来たら、こんな場所で余生を過ごしたいですね。」

そう聞いた俺は、半分嫌味もはいっているのだろうなと思いながら答えた。

「 場所的には縁起がよくないかもしれませんね。」

爺さんは笑っていた。
 病院の現場に向かう事もあり、俺はそれではと言いながら車を発進させ、後ろを何度も気にしながら病院へと急いだ。


 それからしばらくして、基礎打ちのための掘削に立ち会う事になり、俺は現場に向かった。
俺の到着を待っていたのか、掘削のためのユンボ2台のオペレーターが俺のほうに向かってきた。
 一人はよく一緒に現場で仕事をしているために、笑いながら、

「 またよろしくお願いします。」

そう挨拶してきた。
もう一人は今回が初めてのため、緊張した面もちで、

「 よろしくお願いします。」

と挨拶した。
一通りの打ち合わせを終えて掘削を開始した。
 掘削を初めてから、3時間ほど経っただろうか。
顔見知りのオペレーターのユンボが動きを止めた。
Iくんは、自分が掘削したばかりの場所へと降りていった。

“ どうしたんだろう?”

俺はそう思い、ユンボのほうに向かった。
 その時、掘削で地盤が緩んだのか、ユンボのキャタピラ部分が崩れだしてしまった。
その衝撃で、固定していたはずのユンボのヘッドの部分が、I君に直撃してしまった。
あわてた俺は、もう一人のオペレーターに大声で、

「 ユンボのヘッドを引き上げてくれ。」

そう告げて、俺もI君のいる場所へと降りていった。
 幸いな事に、I君は腕を強打しただけですんだ。
俺は、何でいきなり下に降りて行ったのかを聞いた。
するとI君は、

「 自分がヘッドを向けた場所に、お爺さんが居たんです。
危ないと思ってユンボを止めたら誰もいなくて、気になって、そこを確認しようと思って下に降りたらユンボが傾いちゃって・・・。」

 すいませんと言いながらも痛みをこらえているようなので、俺は現場代理人にI君を病院に連れていく事を告げ、病院に向かった。
 治療も終え、骨にも異常がなかった事から、俺とI君は現場に戻ることにした。
夕方現場に戻ると、作業が中断していた。
どうしたのかと思い、代理人に事情を聞くと、

「 いやーさっきI君が怪我した場所を掘ったら、妙な物が出てきてしまって・・。」

そう言って指をさした。
 指さされた場所を見ると、古びた壺のような物があった。
何なの?代理人に聞くと、

「 骨なんすよ、骨壺ですね。」

俺ははっとして、

「 他には何も出てない?」

と聞いた。
 工事現場で致命的な事は、その場所から遺跡がでてしまう事なのだ。
代理人は、

「 取りあえずあれだけですんで・・・・。」

それを聞き俺は安心した。
 骨壺の状態からかなり古そうであり、殺人などはないだろう。
不謹慎だけど工事現場では、出来るだけささいな事はもみ消す事になってしまう。
遺跡や事件にかかわると、どうしても工事日程がくるってしまう。
それは関係者としては避けたいのである。
 現場責任者を呼び相談した結果、骨壺を少し移動して埋葬する事になった。
掘削場所から10m程離した場所に穴を掘り、骨壺をきれいにしてから埋葬した。
当然線香やお花もそえて。

 それから工事はトントン拍子で進み、1階部分が完成した。
しかし1階部分が完成してから、この現場では妙な事が起こり始めた。
ある場所に限り、事故が多発しだしてきた。
 死亡事故にまでは発展しないが、指の切断、脚立からの転落による骨折、転倒した弾みで鉄筋に肩をぶつけて貫通、落下物による頭部裂傷、一歩間違えば死亡事故に・・・。
1ヶ月の間に、その手の事故が11件も起きてしまい、関係者の間で、

「 あの骨のせいなのだろうか・・・・。」

と言う話が出始めた。
俺もその可能性はあるのだろうなと思わざるえなかった。
 会議で、現場の休日に、お祓いをしてもらうことになった。
お祓いの当日、外部から見えないようにブルーシートを使い、その場所をぐるりと囲みお祓いは行われた。
これで事故が無くなってくれればいいのだがと思った。
 事故は減った、でも無くなる事はなかった。

“ どうしてこの場所だけ起こるのか?
この施設が完成したらどうなるのか?
完成すると、ここは風呂場になる。
老人の転倒、洒落にならん。”

そんな事を考えつつ、数日が過ぎたある日、I君から会社に電話があった。
俺に話があるらしい。
嫌な予感がする。


 病院の現場事務所で待ち合わせる事にして、I君を待っていると、時間通りに来てくれた。
結構深刻そうな顔をしている。

「 どうした?」

俺はI君の顔を見ながら聞いてみた。
するとI君は、

「 あの事故からへんなんですよ。」

そう言って話しはじめた。

「 事故の直後は、こんな夢は見なかったんですが、ここんとこ毎晩同じ夢なんですよ。」

おお何か面白そうだ。
俺はそう思い続きを聞いた。

「夢で、あのお爺さんがでて来るんですよ。
それが、工事途中のあの現場に居るんです。」

居るかもな。
そう考えながらも話を聞いてると、とんでもない事を言いだした。

「 現場であのお爺さんが、Mさんの背中にしがみついてるんですよ。」

それを聞いて、俺は思わず叫んでしまった。

「 何で俺なの?ねえ何でよ?」

たじろぎながらI君は、

「 いや、俺にもまったく分からないんですよ。」

そりゃそうだ。原因がわかれば、俺の所にも来ないだろうしな。
だからといって、そんな事言われても困る。

「 どうしてもMさんの事が気になって、今日訪ねて見たんですけどね。」

それからI君は、現場で線香をあげたいから、つき合ってもらたいと俺に頼んできた。
 そんな話をされた後に、断れるほど俺は強くはない。
今から向かえば、6時過ぎには現場には行けるだろうから、すぐ向かう事にした。
現場に向かう車の中で、I君が見たと言う爺さんの話を聞いてみた。

「 なあ、I君が見たっていう爺さんなんだけどさ、どんな感じの人なの?」

するとI君は、夢で何度も見ている事から詳細に話してくれた。
髪の形、年齢層、着ている物、冷や汗ものだった。
俺が最初に話をした爺さんだ。
 現場に着くまでの間、他の話で紛らわせる事にした。
そして現場に着き、I君は埋葬場所に向かった。
俺のほうはどうしても気になり、外装の完成した風呂場に向かった。

“ 骨壺を移動した事がいけなかったのかな。”

そう思いながら風呂場を見渡した。
 しばらくすると、外からI君の声がした。

「 Mさん終わりました、帰りましょう。」

それを聞いて俺は、「おー」と返事をして、外に向かおうとした。
その時、突然足が動かなくなった。
どう説明していいのか、こんな感じは初めてだった。
 しだいに腰まで重くなってきて、とうとうその場に倒れ込んでしまい、焦りながら何度も立ち上がろうとした。
腰のほうに目を向けても、何も見えない。
すると、カタンと音がした。
 音のするほうを見ると、立てかけてあったスライダー(多段ばしご)が、俺の背中に向かって倒れてきた。
直撃はしたものの、背中だったため、たいしたダメージはなかった。
 スライダーの倒れる音に気が付いて、I君が来てくれた。

「 大丈夫ですかっ!」

そう言いながら、I君は俺を助け起こしてくれた。
ただおかしかったのがI君で、俺を助け起こした後に、どうしたんですか、とは聞かずに、

「 Mさんも線香あげたほうがいいですよ。」

と言ってきた。
気にはなったが、I君の言うとうりに俺も線香をあげることにした。
 線香をあげたあと、俺とI君は現場を後にすることにした。
その帰りの車中で、I君がいきなり俺に謝り始めた。

「 すいません、俺のせいで怪我させて・・・・。」
「 気にしないでいいよ。」

俺は笑いながらI君に言った。
するとI君は、

「 さっき本当は、Mさんの背中にお爺さんが乗ってたんです。」

それを聞いたとき俺は思わず急ブレーキをかけてしまった。
 ビビった。
近くのコンビニに車を止めて、俺はI君に聞いてみた。

「 俺と爺さんは何か関係あるの?」

するとI君は、

「 自分でもわからないんです。
ただMさんは、あの現場には近寄らないほうがいいような気がします。」

そう言われて俺は素直に、完成するまで建物内に入る事はしなかった。


 老人ホームは完成した。
大きな現場ではなかったが、それでも事故の件数は俺が担当したなかでは一番多かった。
29件の内、28件が風呂場だった。
余談だけど、骨壺の件は現場関係者しか知らない。
もう誰も、あの場所に骨壺が埋まっている事など知らない。


















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