ティツィアーノの指導を受けながら独自の画風を確立した二人の画家がいる。
まずはティントレット。この美術館には彼の出世作「奴隷を解放する聖マルコ」がある。
聖マルコが空を飛んでいる。
敬虔なキリスト教徒だったある奴隷が主人の許可を得ずに聖マルコの墓参りに行った。それをとがめられて殺されそうになった時に、空から舞い降りた聖マルコが一瞬のうちにその奴隷を救い出すという場面。それをまさにアニメのヒーローさながらに大胆に描き出した。
ツルゲーネフの小説「その前夜」では、主人公が恋人と共にアカデミア美術館を訪れ、この絵を見て笑いこけるという場面がある。それほどに人の感情を揺さぶってしまう絵だ。
また、「聖マルコの遺体の移送」もティントレットの作品だ。
ヴェネツィア商人がアフリカ・アレクサンドリアを訪れ、そこにあった正マルコの遺体を密かに運び出してヴェネツィアに持ち帰り守護聖人としたというエピソードを、作品にした。
聖書の元となった4大福音書記者の1人、聖マルコの遺体の強奪。まんまと成功した作戦の現場が描かれる。右端の髭の男がティントレットの自画像だといわれる。
よく見るとバックの強調された遠近法も見事だ。
「動物の創造」も彼の作品だ。
もう1人の大画家はヴェロネーゼ。
「レヴィ家の饗宴」は5・5m×13mという巨大な作品。ヴェネツィアのサン・ジョヴァンニ・パオロ教会から「最後の晩餐」の絵を依頼されたが、出来上がった作品は聖書の内容とはかけ離れたものだった。
あちこちで酔っ払いや動物までもが大騒ぎをし、異邦人もまぎれる宴会。
異端審問にかけられ、書き直しを命じられてしまった。でも、ヴェロネーゼは考えた。「いやいやこれは最後の晩餐ではありません。レヴィ家で開かれた宴会の模様です」。かくして題名を変更しただけで描き直しはせずに済ませてしまった。
でも、よく見ると裏切り者(ユダ)の存在を弟子たちに告げるキリストの姿がしっかり描かれているのがわかる。
「聖母戴冠」。ドルソドーロ地区にあったオンニサンティ教会の主祭壇に飾られていた名作。死せるマリアが天上に昇って冠をいただくというシーンだ。
聖母の慎み深く胸に手を当てた姿が印象的だ。
「聖母被昇天」。これも聖母の上昇する模様が下から上へと視点の移動と共に立体的に描かれる。
華やかな色彩を駆使して描く彼の作品は、聖母に限らず女性たちの表情が実に奥深く、心を奪われそうになる。
「受胎告知」もヴェロネーゼにかかれば一段と華やかに見える。
突然現れた大天使ガブリエル。躍動感にあふれて飛んでいる。
急な展開に驚くマリア。なんか妖艶、、、。
ヴェロネーゼをもう1枚。「サンタ・カテリーナの神秘の結婚」。聖女カテリーナが幼児キリストから結婚指輪を受け取るという幻想の場面。
どの人物たちの表情も見事に変化に富んでいる。