ヴェネツィアには 至る所に運河がある
カナルグランデのような大きな運河から
路地裏を流れる 名も無いような小さなものまで
従って折に触れて 運河を観察する時間が多くなる
サンバルナバ広場に面した運河
キャサリン・ヘップバーン主演の名作映画「旅情」にも登場した場所
キャサリンが撮影に夢中になって落下し 水浸しになった運河
そこで出会ったのが この震える家並みだ
ちょうど太陽が運河沿いの家々を照らし 運河の水が影になる時間帯は
水面が 即席の鏡に変身する
それも 少しだけ風が渡って 水面がわずかに揺れ動いたとき
水に映った家々は 鮮明な色彩のうえに微妙な震えが加わり
その時限りの 自在な変貌を遂げてしまう
水が揺れすぎても 全く動かなくても 奇跡は起きない
得も言われぬ絶妙な揺れこそが
ヴェネツィアの水面に 自然のルネッサンス芸術を 描き出してくれる