極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

大山を忽ち消して霧襖

2018年11月02日 | 時事書評

  


                                  

第62章 真理は善不善の彼岸にある
「道」は万物の内面に貫徹する。この道理をわきまえている者は、むろんこれを詐言する。たといこの
道理を自
覚せぬ者でも、内に「道」を抱いている。 人々は、すぐれた意見ばかりをもてはやし、善行
ばかりを受けいれる。
だが「道」だけは、善不善を超越して、すべての人を生かすのである。この「道」にのっとるなら、い
ながらにして
天下は治まる。にもかかわらず、世間では、天子を立て、大臣を置いてもまだ足りず、大
金を積み、眼の色かえ
て賢人を探し求めている。なんともむだな努力である。
昔の明君が、「道」を尊重したのはなぜか。「道」にのっとりさえすれば、あらゆる事が可能になり、
あやまちさえ
も許されると知っていたからではないか。

第63章 聖人は大をなさず
無為を守って「道」にのっとり、感性による判断を捨てて「道」を認識する。小と大、少と多、それぞ
れの対立と転化の法則を理解し、怨みといった小さな感情は、広い徳で包容する。難事は、もつれぬ先
理し、大事は、小事のうちに収拾する。

いかなる難事であろうとも、その発端はつねに単純な問題にすぎず、いかなる大事であろうとも、
その
発端はつねに些細な事件にすぎないからだ。
聖人は、終生、大事に直面することがない。だからこそ、
大事を成し遂げることができるのだ。

安請合いは不信を招き軽視は困難のもとである聖人は、たやすく見える物事さえ、困難視して対処
する。だからこそ、終生、困難に見舞われるこ
とがないのである。

〈無為を守って……のっとり〉 原文は「無為をなし、無事を事とす」。「無為」も「無事」も、同義
を反復したもの。

怨みに報ゆるに徳をもってす このことばは、よほど古くからあったらしい。『論語』慰問篇に、孔子
がある人から「徳をもって怨みに報いるという説をどう考えるか」と聞かれて、「怨み
には直をもって
報い、徳には徳をもって報いよ」と答えたと記されている。孔子は、正義の観点
に立ってこれを否定し
たのだが、にもかかわらずこのことばは、中国人の内面深く浸透し、国民
性の一端をなしている。第二
次大戦終結の直後、当時の元首蒋介石が対日政策の基調をこのこと
ばに置いたのも、いわば民族の総意
の表現だったと見られる。

 
Anytime, anywhere ¥1/kWh  Era” 
【エネルギー通貨制時代 12】
  

   Mar. 3, 2017



【エネルギー貯蔵技術事例研究 Ⅳ】
✪ 蓄電池事業篇:最新全固体二次電池技術

先回は、出口戦略として「独立分散型固体蓄電池」の性能及びコストパラメター――❶エネルギー密度
:250Wkg/kg 超、❷ライフサイクル:5万回超、❸耐用年数:15年以上、
❹価格:5万円/kWh
以下と目標設定とした。今回は、国内特許からハイレート特性――高電圧、高容量、高エネルギー密度、
長寿命のレベルがどこにあるを調べた。電池の種類としてはリチウムイオン、水素ニッケル、空気-

属、リチウムハイブリッドを対象とし、製造方法から超音波溶着装置をピックアップし(いずれも11月1日公開)
し掲載するが、それぞれ自律的にハイレート特性事業が包括的に全面的に実用化されている。

☑ 特開2018-170229 電素子 株式会社GSユアサ
鍵語:ニッケル水素電池/高温充電受入性能
【要約】
高温での充電受入性能が向上された蓄電素子を提供する。活物質粒子を含有する合剤を含み、活物質粒
子は
水酸化ニッケルを含有する粒子を含み、該粒子の表面には、コバルト化合物が付着し、該合剤は、
ホウ酸化合
物をさらに含む正極板を備える、ニッケル水素蓄電池などの蓄電素子。ホウ酸化合物は、ホ
ウ酸カルシウムである、蓄電素子de, 高温での充電受入性能が向上された蓄電素子を提供できる。

 
 【符号の説明】
1:蓄電素子(ニッケル水素蓄電池)、 2:電極群、 21:正極、 22:負極、 23:セパレータ、
3:ケース、 31:ケース本体、 32:蓋部。

表1
 

 表2

特許請求項目

    1. 活物質粒子を含有する合剤を含み、前記活物質粒子は、水酸化ニッケルを含有する粒子を含み、該粒子の表面には、コバルト化合物が付着し、前記合剤は、ホウ酸化合物をさらに含む、蓄電素子。
    2. 前記ホウ酸化合物は、ホウ酸カルシウムである、請求項1に記載の蓄電素子。

 ☑ 特開2018-170240 非水電解質二次電池 パナソニック株式会社 他 
鍵語:ハイレート特性
【要約】
正極と、負極活物質としてリチウムチタン複合酸化物を含む負極とを備え、ハイレート特性を向上しな
がら、耐久性に優れる非水電解質二次電池を提供する。正極12は、細孔径が100nm以下である細
孔の質量当たりの体積がそれぞれ特定されている第1正極活物質及び第2正極活物質を含む正極合剤層
を有する。第1正極活物質の含有量が第1正極活物質及び第2正極活物質の総量に対して30質量%以
下である。正極12が保持する非水電解質の保持量が、正極合剤層の単位体積当たりで0.49g/cm3
以上である。

 
【符号の説明】
10 非水電解質二次電池、12 正極、14 負極、16 セパレータ、18 正極端子、20 負極端子
、22 封口板、24 外装缶、26 電極体、28 底部、30 注液口、32 ガス排出弁。

特許請求範囲

    1. 第1正極活物質及び第2正極活物質を含む正極合剤層を有する正極と、極活物質としてリチウムチタン複合酸化物を含む負極合剤層を有する負極と、非水電解質と、を備え、前記第1正極活物質は、細孔径が100nm以下である細孔の質量当たりの体積が8mm3/g以上であり、前記第2正極活物質は、細孔径が100nm以下である細孔の質量当たりの体積が5mm3/g以下であり、前記第1正極活物質における細孔径が100nm以下である細孔の質量当たりの体積は、前記第2正極活物質における細孔径が100nm以下である細孔の質量当たりの体積に対して4倍以上であり、前記第1正極活物質の含有量が、前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質の総量に対して30質量%以下であり、前記正極が保持する前記非水電解質の保持量が、正極合剤層の単位体積当たりで0.49g/cm3以上である、非水電解質二次電池。
    2. 前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質の平均粒径がいずれも2μm以上である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
    3. 前記第1正極活物質及び前記第2正極活物質がいずれも、一般式(1)Li1+xMaO2+b(一般式(1)中、x、a及びbは、x+a=1、-0.2≦x≦0.2、及び、-0.1≦b≦0.1の条件を満たし、Mは、Ni、Co、Mn及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の元素を含む金属元素である)で表される層状リチウム遷移金属酸化物である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。

 ☑ 特開2018-170234 リチウム空気二次電池 日本電信電話株式会社
鍵語:りチウム空気二次電池
【要約】
充電電圧と放電電圧の差が小さく、且つ充放電サイクル性能の良いリチウム空気二次電池を提供する。
正極活物質として空気中の酸素を用いる正極101と、負極活物質として金属リチウムまたはリチウム
含有材料を用いる負極102と、リチウム塩を含む有機電解液103とを有するリチウム空気二次電池
100において、正極101は、カーボンを主体とする空気極101であり、電極触媒として、金属、
リン、及び酸素を含む材料を添加すことで、充電電圧と放電電圧の差が小さく、且つ充放電サイクル性
能の良いリチウム空気二次電池を提供することができる。【選択図】図1

 

【符号の説明】
100:リチウム空気二次電池 101:正極(空気極) 102:負極 103:有機電解液 10
4:空気極固定用リング 105:セパレータ 107:負極固定用リング 108:負極固定用座金 
109:負極支持体 110:固定ねじ 111:Oリング 115:空気極支持体 121:空気極
端子 122:負極端子 151:仕切り

特許請求範囲

    1. 正極活物質として空気中の酸素を用いる正極と、負極活物質として金属リチウムまたはリチウム含有材料を用いる負極と、リチウム塩を含む有機電解液とを有するリチウム空気二次電池において、前記正極は、カーボンを主体とする空気極であり、電極触媒として、金属、リン、及び酸素を含む材料を添加することを特徴とするリチウム空気電池。
    2. 前記電極触媒は、Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Ruの中の少なくとも1種の金属と、PO4基を含む材料を添加したことを特徴とする請求項1に記載のリチウム空気電池。
    3. 前記電極触媒は、Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Ruの中の少なくとも1種の金属と、P2O7基を含む材料を添加したことを特徴とする請求項1に記載のリチウム空気電池。
    4. 前記電極触媒は、Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Ruの中の少なくとも1種の金属と、P3O9基を含む材料を添加したことを特徴とする請求項1に記載のリチウム空気電池。

 ☑ 特開2018-170112 電極の作製方法 国立研究開発法人産業技術
鍵語:超音波溶着
【要約】
簡単な操作で、金属または合金系電極を固体電解質に密着させる手法を提供すること。電極材料を固体
電解質上に熱融着させる際に、同時に超音波を照射する。これにより、固体電解質上に密着性の高い金
属または合金系電極を作製することができる。このようにして作製された電極-固体電解質構造体を用
いて構成した電気化学セルにおいては、電極-固体電解質界面の内部抵抗が小さく、また、良好な電気
化学特性が得られることで、熱融着の際に超音波を印可する方法(以下、超音波援用熱融着法という)
では、数秒という非常に短時間で、密着性の高い電極/固体電解質界面を形成することが可能である。
また、密着性の高い電極/固体電解質界面が形成され、当該界面の抵抗が低減されることによって、こ
れを用いて構成される電気化学セル全体としての抵抗を低減することが可能となり、レート特性を向上
することが可能となる。また、この方法で形成される電極/固体電解質界面は、電気化学的に安定であ
り、これを用いることにより、長期間安定な充放電特性を有する電池が得られる。

特許請求範囲

    1. 電極材料を固体電解質上に熱融着させ、固体電解質上に金属または合金系電極を形成させることで、電極/固体電解質構造体を製造する方法であって、電極材料を固体電解質上に熱融着させる際に、超音波を印可することを特徴とする方法。
    2. 請求項1に記載の方法により電極/固体電解質構造体を製造し、得られた電極/固体電解質構造体を他の構成要素と組み合わせて、電気化学セルを製造する方法。
    3. 電気化学セルが電池であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
    4. 電気化学セルが全固体電池であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
    5. 電気化学セルが金属-空気電池であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。

※ その他の特許事例
・特開2018-156941 全固体二次電池用電極活物質、及びその製造方法、並びに全固体二次電池 太平
洋セメン
ト株式会社
・特開2018-170518 セルロース微細繊維層を含む薄膜シート 旭化成株式会社

・特開2018-170247 リチウム二次電池用複合活物質およびその製造方法 東ソー株式会社
・特開2018-170246 リチウム二次電池用複合活物質およびその製造方法 東ソー株式会社

 特開2018-156941 

 ● 読書日誌:カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』 No.17   

   

第3章
「あのマントはどうなったんだろう、おまえが人切にしていたマントけ」
「所詮はマントですよ、アクセル。どんなマントも、着ていれぼすり切れてきます」
「どこかで失くさなかったろうか。日の当たる岩の上に、とか?」
「ああ、思い出しました。それで、あなたをずいぶん責めたんでした」
「確かに責められたっけな、お姫様。責められる理由があったかどうかはいまもってわからないが」
「でも、アクセル。霧がどうであれ、少しでもまだ思い出せることかおるのは牧いですよ。神様がもう
願いを聞いて、田乙い出す手助けをしてくださっているのかもしれない」
「思い出すと決めれば、もっといろいろと思い出せるんじやなかろうか。そうなれば、ずる賢い船頭の
口車に乗せられることもなくなる-仮にあんな戯言に耳を傾けねばならん日が来るとしてもな。だが、
いまは食べよう。もう日が高い。行く先は険しい山道だ。早く出かけねば」

                       ※

二人はアイバーの家に向かって歩いていた。前の夜に襲われそうになったあたりを過ぎたところで、ど
こかLのほうから呼ぶ声が聞こえた。見回すと、衝の高いところに見張り台が設けられていて、そこに
ウィスタンがいた。 

「まだおいででしたか、お二人さん」と戦士は下に向かって言った。
「はい、寝坊をして」とアクセルは柵に数歩近寄って笞えた。
「ですが、もう出かけるつもりです。あなたは、戦士殿?今日一曰くらいお休みになりますか」
 「わたしもすぐに発ちますよ。ですが、ご老人、少しお話ししたいことがあるので、お時間を割いていただけませ
んか。長くならないことはお約束します」

アクセルとベアトリスは顔を見合わせた。ベアトリスがそっと言った。

「いやでなければお話しなさいな、アクセル。わたしは先に戻って、旅の支度をしておきますから」
 アクセルはうなずき、ウィスタンに向き直って言った。「いいですよ、戦士殿。上がっていきましょうか」
 「よろしければ。わたしが下りていってもいいですが、今日はすばらしい朝で、気持ちが奮い立つような景色が
見られます。梯子がいやでなければ、ぜひ上へ。ここでお話ししましょう」
 「何の用事でしょうね、アクセル」とベアトリスがそっと言った。「気をつけて。梯子だけじゃなく、気をつけてね」

アクセルは用心しながら一段ずつ上り、戦士のいる台までたどり着いた。戦士が手を仲ばし、引き上げてくれた。
狭い台上で体を安定させて見下ろすと、ベアトリスが心配そうに見上げていた。元気よく手を振ってやると、まだ
心残りのようながら、後ろを向いて去っていった。その行く先にあるアイバーの家が、この見張り台からならはっ
きりと見える。しばらくベアトリスを見送ってから、振り向いて冊の外の世界に目を移した。

「嘘ではないでしょう、ご老人?」とウィスタンが言った。二人は顔に風を受けながら横に並んで立っていた。
「目の届くかぎり、すぼらしい眺望です」

その朝、二人の眼前に広がっていた風景は、現代イングランドの田舎家の高窓から見える風景とさほど違って
はいなかっただろう。右手には谷の斜面があり、規則正しい緑の尾根となって下ってきている。一方、左手には
反対側の斜面があるが、こちらは遠い。一面、松の木で覆われている山腹は遠いぶんだけかすんでいて、いつ
しかおぼろになり、地平線上に並ぶ山々の輪郭に混じり合っていった。前方には、まっすぐにつづく谷底の全景
がある。川は平らな地面を緩くうねりながらどこまでも延び、視界の外に消えていく。湿地帯の広がりは果てしな
くつづき、遠くで池や湖となる。水辺にはきっと楡や柳が生え、深い森もあっただろう。当時の森は、見る人々の
心に不吉な思いを呼び起こしたかもしれない。そして川の左岸、ちょうど日の光が影に変わるあたりには、放棄
されて久しい村落の残骸があった。 

「昨日、あの山腹を馬で下ってきました」とウィスタンが言った。「とくに急かしたわけではないのに、
馬め、よほど
気持ちがよかったのか襲歩で走りはじめました。野を越え、湖と川を越え、じつに爽快で
したよ。かつてここに来
たという記憶はないんですが、まるで子供時代を過ごした土地に戻ってきたよ
うでした。妙ですね。ごく幼いころ
に通り過ぎたことでもあったんでしょうか-場所はわからなくても、
景色だけは頭に残るというような年齢のとき?
ここの木々に湿地、ここの空。記憶のどこかがちくちく
と刺激されるような気がします」

「ありえますね」とアクセルが言った。

「この国と、あなたがお生まれになったもっと西の国とは、いろいろ似ているところがありますから」
「そうなんでしょうね、ご老人。東の沼沢地にはこれといった山はないし、木も草もこれほど色鮮やか
ではありま
せん。ま、昨日は馬が喜んで走りすぎて、蹄鉄を一つ壊してしまいました。今朝、親切な村
人が付け替えてくれま
したが、蹄を傷めてしまったし、これからはもっとゆっくり行かなければなりま
せんね。じつは、ご老人、ここに上っ
てきていただいたのは、風景を楽しむこともですが、内密の話を
聞いていただきたかったからです。エドウィンとい
う少年の身の上に起こったことは、もうご存じです
ね」

「アイバー殿からお間きしました。あなたが勇敢に牧出してくださったのに、なんということでしょう」
「では、少年をこの村に置いたらどうなるかを心配して、長老方からわたしに、今日この村から連れ出
してくれるよう依頼があったこともご存じですね。どこか遠くの村に連れていき、路
上で腹を減らして
いた迷子を見つけたとかなんとか言って、世話を頼むようにとのことでし
た。喜んでやってあげてもい
いんですが、ただ、それでは少年は助からないと思うんです。噂
は簡単に広がりますからね。来月か、
来年か、少年が結局いまと同じ状況になるのは目に見え
ています。いや、新参者で、周囲は知らない人
ばかりとくれば、状況はもっと悪いでしょう。
そう思いませんか、ご老人」
「そこまで見通されて、ウィスタン殿は賢いお方だ」

 Oct. 5, 2017

戦士は、眼前の風景をながめながらしゃべりつづけていた。髪が風に吹かれてもつれ、顔に
垂れかかっ
た。それを手で掻き上げながら、突然、アクセルの顔に何かを見たようにぎくりと
し、しばらく、しゃべっ
ていたことを忘れたかのように見えた。首をかしげ、アクセルをじっと見つめ、そして小さく笑って言った。

「申し訳ない、ご老人。ちょっと思い出したことがあって………話に戻りましょう。昨夜以前の少年の
ことは何も知
りません。ですが、つがからつぎへ襲ってくる恐怖を、この少年が取り乱さず乗り越えて
きたことには感銘してい
ます。昨夜わたしと同行した二人は、勇敢に出発したものの、悪鬼の巣に近づ
くにつれ、恐怖にわれを忘れてし
まいました。一方、あの少年は、悪鬼にどうされるかわからない状態
を何時間も強いられながら、静かに堪え抜
きました。咸t嘆するしかおりません。そんな少年の命運が
閉ざされようとしているのは、とても心が屈みます。そ
こで、肋ける道はないものかと考えました。も
しご老人と奥さんのお手が借りられるものであれば、まだ望みがあ
るように思います」

「一わたしたちにできることであれば、ぜひ。お考えを聞かせてください、戦士殿」

「少年を遠くの村へ連れていくようわたしに頼んだとき、長老たちの頭には当然サクソン人の村があ
ったと思いま
す。ですが、サクソン人の村でこそ少年の命は保証されません。なにしろ、体の噛み傷が
危険だというのはサク
ソン人の迷信ですからね。しかし、ブリトン人の村ならどうでしょう。ブリトン
人はそんな迷信を信じませんから、い
ずれ噂があとがら伝わってきたとしても平気です。エドウィンは
強い少年です。口数は少ない子ですが、さっき申
し上げたとおり驚くべき胆力の持ち主です。どの村に
住むことになっても、着いたその日からきっと役に立つでし
ょう..そこで相談です、ご老人。あなた
は東へ向かい、息子さんの村へ行くとおっしやった。きっとブリトン人のキ
リスト教徒の村でしょう。
それこそ、この少年には理想的な村です。あなたと奥さんが、息子さんの力も借りて頼
んでくだされば、
きっと引き取ってもらえるのではありませんか。もちろん、わたしが行って、わたしから頼んでも
、善
良な村人は受け入れてくれるでしょうが、やはり見知らぬ人間とあって、村人が恐れや疑念を抱くかも
しれ
ません。それに、わたしの都合として、用事のために来ていますので、あまり東まで旅をしたくあ
りません」


「すると、お話というのは、妻とわたしが少年をここから連れ出すと、そういうことですか」

「そのとおりです、ご老人。しかし、用事の途中ではありますが、わたしも途中まではご一緒できます。
山の道
を行くとおっしやっていましたよね。少なくとも山の向こう側に出るまでは、少年とお二人に喜
んで同道いたしまし
ょう。わたしなどいても退屈するばかりかもしれませんが、山には危険がつきもの
です。わたしの剣がお役に立
つこともないとは言えません。それに、お二人の荷物も馬に運ばせましょ
う。蹄を傷めていますが、そのくらいは
文句を言いますまい。いかがでしょう、ご老人」

 Feb. 25, 2015

「いい作戦です、戦士殿。妻とわたしも少年の窮状に心を痛めていました。尽力できるのであれば、喜
んでやら
せていただきましょう。おっしやりようを聞くにつけ、あなたはじつに賢い方だ、戦士殿。確
かに、少年の安住の地はブリトン人の村でしょう。息子の村ならきっと受け
入れてくれるでしょう。自
乙子も、そこではひとかどの男であることですしね。年は若くても、
実際には長老の一人のようなもの
です。きっと少年のためにできるだけのことをしてくれると
思います」

「ほっとしました。では、アイバー殿にも打ち明け、少年をこっそり納屋から連れ出す方法を考えるこ
とにしましょう。お二人はすぐにでも出られますか」
 「妻はもう旅支度にかかっています」
「では、南門のわきでお待ちください。わたしはすぐに馬とエドウィン少年を連れていきます。こんな
面倒を分かち合ってくださって、心から感謝します、ご老人。あと一、二日です
が、旅仲間でいられる
のもよかった」

 
                          カズオ・イシグロ著『忘れられた巨人』

次回は第4章。


                                      この項つづく 

 ●夜の一曲

『家をつくるなら』 唄 坂崎幸之助 北山修 Music Writer:加藤和彦 松山猛

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