【メガソーラの汚れ】
ちょっと気になっていることがある。ソフトバンクエナジー社の発電量をウオッチングしているが
冬から春にかけて日照が長くなってきているのに思ったほど伸びてこないのだ。原因はいろいろ考
えられるだろうか、黄砂などによる表面汚れではないのではと考え、先日、香川大学発ベンチャー
企業の株式会社未来機械で話題となった「ソーラーパネル清掃ロボット」を、朝からネット調査し
た。もっとも、昨日の今日だから足腰に痛みが走り、精神的にも集中力を切らした中での作業だ。
子の発明は、ソーラーパネルの上を自動走行しながら、水を使わず清掃できる、世界で類を見ない
ソーラーパネル清掃ロボットで、保有の特許「窓ふき装置」(WO2004/028324)をベースにした
ものだ。据え置き型「セルスイーパー」という自動清掃装置(人工知能という点でロボットではな
い)が先行市販されている。中東・北アフリカのある地域では、2週間で発電出力が10%近く低
下したデータが報告されているが、乾燥地域は水資源に乏しいことに加え、これらの地域は、低緯
度のためソーラーパネルの角度が水平に近く、水等で洗浄した場合も、パネル表面に水がたまりや
すくなる。そのため、水を使わない清掃ロボットが有効となり、手作業での清掃ではコストや作業
性の点から課題があり合理的な清掃手段が求められいたものだ。大人が一人で持ち運ぶことが可能
であり、作業者がパネルの上に置いてスタートスイッチを押すと、敷き詰められた一面の太陽光パ
ネルの上を自動で走行し、隅々まで清掃。ロボットには特殊な回転ブラシを内蔵しており、水を使
わず砂塵を除去。ロボットは内蔵バッテリにより連続で最大2時間使用。清掃が終わると、その場
で停止して清掃作業が終了できる。
【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】
1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン
【ケインズ経済学の現在化】
- 政策に影響を与える思想の力
- 21世紀最初のグローバル経済危機を引き起こした思想と政策
- 将来を「知る」ために過去のデータに頼ること-資本主義システムにっいての古典派の考え
- 1ペニーの支出は1ペニーの所得になる-資本主義経済と貨幣の役割に関するケインズの考え
- 国債とインフレーションについての真実
- 経済回復のあとに改革を
- 国際貿易の改革
- 国際通貨の改革
- ケインズも誇りに思うような文明化された経済社会の実現に向けて
- ジョン・メイナード・ケインズー簡潔な伝記
- なぜケインズの考えがアメリカの大学で教えられることがなかったのか
【国債とインフレーションについての事実】
【国債残高は大きすぎるか】
新しく建国されたアメリカ合衆国は、独立戦争中に発生した債務を政府が引き受けたため、早
くも1790年に すでに約7、500万ドルの負債を負っていた。連邦政府の負債がゼロになった1830
年代のある短い期間を除けば、米国政府はつねに、なにがしかの負債残高を持っていた。第1
次世界大戦中に、国債は、1916年の 12億ドルから1919年の254億ドルヘと大幅に増加した。国
債は、狂騒の1920年代の10年間に減少しか、1929年には、債務総額は169億ドル GDPの約16
%にまで減少していた。このような債務の減少は、1919年から1929年までの間、連邦政府が税
収より85億ドルも少ない支出に止めた結果であった。言い換えれば、1920年代のほとんどの年
を通して、連邦政府の貯蓄はかなりの金額に達した。しかし経済は成長し繁栄し続けた。この
経験が示していることは、もし民間部門が産業の生産できる時代であった。わたくしは大不況
時代に子供としての時を過ごし、第2次世界大戦中のローティーンエイジャーとして、これら
の巨額の政府赤字によって苦しめられたとは全く感じていない。当時成人であったわれわれよ
り上の世代は、子供たちに豊富と繁栄という遺産を残してくれた。わたくしは自分や自分の仲
間がいい働き口を容易に見つけ出すのを可能にし、自らの生活水準を高めるすばらしい機会を
提供してくれた経済を受け継いだ。もしこれが子供や孫たちに負担をかけたことになるという
のなら、現世代が自分の子孫のためにそのような「負担」を作り出してもよいのではないかと、
わたくしは考えている。
この話から得られる教訓は、われわれは、政府が、われわれの産業の生産物に対する市場の需
要を増加させ、それによって利益を上げうるような企業家システムを維持することのできる唯
一の支出者であるとき、巨額の政府赤字を出すことについて懸念するには及ばないということ
である。政府が、国債の大きさを抑えようとして支出を少なくすることは、市場の需要を不活
発なままにし、それによってわが国の企業のみならず労働者をも貧しくすることを意味するで
あろう。ケインズの考えは、支出者が市場需要の健全な増加をもたらしそれによって社会に利
潤と雇用を生み出すとき、資本主義が最もよく機能するということであった。明らかにこのこ
とは、政府支出が1933年から1936年の間および1938年から1945年の間に増加したとき、論証さ
れたのである。ルーズヴェルトが1937会計年度に支出を削減したとき、結果として起こった急
激な景気後退は、景気回復のあの段階においては、政府以外のどのような支出者も、市場の需
要創出者の役割を引き継ごうとはしなかったし引き継ぐこともできなかったことを示している。
もしルーズヴェルトが1938年に国債総額を増加させないために政府支出を抑制し続けていたな
らば、貧弱な実績の経済を国内に押し広めていたことであろう。戦争が勃発し国債の大きさな
どに考えが及ぼなくなったとき、政府支出が経済を速やかに利益の上がる完全雇用の状態に押
し上げたのである。この歴史的記録は、資本主義経済の運行に関するケインズの考えの正しさ
を証明している。
ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』
【紙幣の印刷が「大インフレーション」を生み出すのだろうか】
米国でも、政府が経済を深刻な景気後退から救い出すために、相当な額の追加支出に乗り出する場
合、その支出の全額ないし一部が連邦準備制度への債券の売却によってまかなわれ、財政赤字を招
かざるを得ない。このとき、財政赤字が「紙幣を印刷すること」によってまかなわれるが、この貨
幣供給の増加が、大インフレーションを引き起こす懸念がもたれる。例えば、2009年1月29日付の
『ウオールストリート・ジャーナル』に掲載された「連邦準備制度は米国債券の購入計画に向かっ
てゆっくりと進んでいる」と題する記事の中で、報道記者のJ.ヒルセンラス(J.Hilsenrath)とL.ラ
パポート(L.Rappaport)が、連邦準備制度の国債購入計画に対し、「それは 政府の赤字が急増し
つつあるときには、物議をかもす行動であり、紙幣を印刷することによって財政赤字をまかなうこ
とは、インフレ的行動であるとみなす人もいるかもしれない。」と懸念を示したとポール・デヴィ
ッドソンは述べている。本当にそうなのか?ここはキッチリと彼の説明を見てみよう。なぜなら、
日本でもよく似た「素人でも思いつくような話」が流布されているからだ。
ここにはもちろん、フリードマンのようなノーベル賞を受賞した経済学者によってさえ広めら
れた、政府が支出するための紙幣を「印刷する」につれて貨幣供給が増加するとき、急激なイ
ンフレは避けられないという。素人でも思いつくような話が潜んでいる。この紙幣を印刷する
過程は実際にどのような影響を及ぽすのであろうか。もし政府が税収として集めた金額以上に
支出したいと思うならば、債券を売却しなければならない。かりに政府が経済の民間部門でこ
れらの債券を購入してくれる貯蓄者を見出すことができないときは、連邦準備制度に販売する
ことができる。連邦準備制度がこれらの政府の債務証券を購入した場合、連邦準備制度の財務
省預金勘定に預金を積む手続きを取ることになる。そこで財務省は、連邦準備制度への自らの
預金勘定の残高増加を引き当てに小切手を切ることができる。正規の銀行勘定宛に振り出され
た小切手は契約ヒの債務を決済することができるので 財務省の預金勘定の増加は政府により新
たに印刷された紙幣に相当する。しかしもしこの貨幣の政府支出が企業による生産と雇用を促
すために費やされるならば、なぜそれがインフレを引き起こすことになるのだろうか。
紙幣の印刷によってまかなわれた赤字支出とインフレとの間を直接的に結びつけるこの考え方は、
主流をなす古典派の効率的市場モデルの基礎となっている第2の基本的な公理、すなわち、中
立貨幣の公理(the neutral moneyaxiom)から成立する論理的推論である。この中立貨幣の公理
が主張するところは、経済への貨幣供給のどのような増加も、経済において生産される財の量
にも雇用の水準にもなんらの影響も与えないであろうということである。言い換えれば、中立
貨幣の公理は、貨幣供給量のどのような増加も生産される財やサービスの量(GDP)ないし
雇用量に全く何の影響も与えないということを、証明される必要のない普遍的真理として主
張しているのである。
もし中立貨幣の想定が経済モデルに組み込まれるならば、政府が産業の生産物に支出するため
の紙幣を「印刷する」場合,インフレは避けられないということになる。もし政府がこれらの
「印刷された」追加的ドル紙幣をすべて支出するならば、その結果は、財やサービスに対する
市場需要の増加となるに違いない。しかしながら、もし中立貨幣の公理が受け入れられるなら
ば、政府の印刷された紙幣によって作り出された市場の需要増は、企業家たちが生産し市場で
販売する財・サービスの総量に影響を与えることができない。中立貨幣の想定は、この市場需
要の増加が企業家に生産を拡大しより多くの労働者を雇うよう促すことはできないことを意味
する。この市場需要の増加はただ市場価格を高め、したがってインフレを引き起こすことがで
きるだけである。
それゆえ古典派の経済学者たちは、「多すぎる貨幣が少なすぎる財を追いかけている」のだか
ら、紙幣を印刷することによってまかなわれた赤字支出はインフレを引き起こすとたんに想定
しているにすぎないのである。これら古典派の経済学者たちは、紙幣の印刷はインフレを引き
起こすことを証明していないし、証明する必要がないと信じているのである。中立貨幣の公理
は、効率的市場理論の基本的な構成要素であるから、古典派の経済学者たちはたんに貨幣供給
の増加率が生産の増加率より高くなればインフレが起こると、主張しているにすぎない。
中立貨幣の想定を盲目的に受け入れてしまうと、論理的に一貫した分析を心掛けている者は、
もしかなりの程度の失業や遊休生産能力が存在するならば、政府の追加的な赤字支出が利潤獲
得の機会を生み出し、したがって企業に生産や雇用を拡大すよう促すことができるし実際にそ
うなるであろうということを認識できなくなるであろう。失業や遊休生産能力がある場合、追
加的な政府支出をまかなうために「印刷された」貨幣供給の増加が、インフレを引き起こすこ
とにはならないのである。
事態がもっと厳しくなると、基本的な中立貨幣の想定と共に主流派の経済理論を受け入れてい
る人でさえ、この理論は現実に当てはまらないと考えるようになるのかもしれない。先にあげ
た『ウオールストリート・ジャーナル』の記事は、続けて次のように言っている。「経済不振
の気運が急に世界中で高まったので,連邦準備制度の幹部たちは当面、インフレを懸念事項と
はみなしていない。」しかし今ではないにしても、経済が回復しこの同じ貨幣数量の下でより
多くの販売に供される財やサービスが生産されているときに、果たして紙幣を印刷して財政支
出したことに起因するインフレは起こるのだろうか。同じ量の貨幣がはるかにより多くの財を
追いかけているのではないのだろうか。
中立貨幣の想定は事実というよりもむしろ信念なのだとその唱道者たちが認めていることは、
驚きといえるかもしれない。マサチューセツツエ科大学教授で国際通貨基金主任エコノミスト
のオリヴァー・ブランシャール(oliver Blanchard )は、有名な経済研究機関によって経済の将
来を予測するために用いられている経済モデルに言及して、次のように言っている。われわれ
が調べたモデルはすべて、貨幣の中立性を確固たる前提に置いている。これは、経験的根拠に
基づくというよりもむしろ、理論的考察に基づく信念の問題である。しかしながらケインズは
われわれが経験している世界での資本主義システムの動きを説明するためには、エルゴード性
の公理のみならず古典派の中立貨幣の公理をも放棄しなければならないと主張した。ケインズ
は、革命的な分析を編み出そうとなおも努力中であった1933年に、次のように書いている。
わたくしが切望する理論は、・・・貨幣がそれ自らの役割を演じ動機や意思決定に影響を及ぼ
しまた端的にいって、貨幣が状況の枢要な要因のひとつとなっていて、はじめの状態と終
わりの状態との間での貨幣の動きに関する知識なくしては、長期あるいは短期のいずれに
おいても事態の推移は予測され得ないような経済を、取り扱うであろう。そしてわれわれ
が貨幣経済について語るとき意味しなければならないのは、このような経済である。・・・
好況と不況は、・・・貨幣が中立的でない・・・ 経済に特有のものなのである。
ケインズは、自らの分析枠組みから中立貨幣の公理を取り払うに当たって、財が財と交換され
るような物々交換取引がわれわれの経済システムの本 質である。ということを否定していた。
貨幣は、現代の資本主義経済の運行において重要な役割を演じるとされた。かれの分析におい
ては、貨幣供給の増加によってまかなわれた追加的財政支出はおそらく、企業家たちが販売の
ためのより多くの生産物を生産し追加的な利潤を稼ぐのを促すはずであった。中立貨幣の公理
が存在しない場合、かなりの量の失業と遊休化した生産能力が存在するときはいつでも、貨幣
供給の増加を通じてまかなわれた追加的な財政支出がインフレ的とならないことは十分可能で
ある。
ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』
【インフレーショを説明する】
インフレは、ある国の住民が購入するほとんどの財やサービスの貨幣価格にかなりの上昇が見
られるときはいつでも、発生しているといえる。もし中立貨幣の公理が、ブランシャールも進んで認めて
いるように、たんに事実の裏付けのない信念に過ぎないものとして拒否されるとすれば、われ
われは、政府が紙幣を印刷し経済回復計画のために支出するときはいつでもインフレ的である
に違いないと断定する。いわば無条件反射のような態度を示すべきではないのである。それで
はなにがインフレーションの原因なのであろうか。ケインズは、1930年に出版された『貨幣論』
と題する2巻からたんなる書物の中で、2種類の異なる型のインフレーション、すなわち商品
インフレーションと所得インフレーションを定義している。各型のインフレーションはいずれ
も物価水準の上昇と結びついてはいるが、その原因は異なっている。
【商品インフレーション】
商品インフレーションは本質的に,農産物,原油および鉱物のような規格化された耐久性のある商品
の市場価格上昇と結び付けて考えられている。一般的に、これらの商品はよく組織化された公
開の市場で取引され、その市場価格は新聞やその他のマスコミ機関で報じられている。これら
の市場は、特定の時点の商品引渡し-今日ないし将来の特定の時点での商品の引渡しと関連付
けられる価格を持っている。多くの商品の将来の引渡しのための市場は、わずかに数カ月一般
的には、10ヵ月ないしそれ以下の期間-先の時点に限られている。ほとんどの商品は生産にか
なりの長期間を要するから、どのような近い将来の時点での市場への商品供給量も、すでに存
在する在庫量に加えて、生産過程にあるか近い将来の引渡し時点までに完成される予定の半製
品の量によって概ね固定されている。もしこれらの公開市場において近い将来に引き渡される
べき商品の需要に突然の増加が生じ、その引渡し時点までに現在の供給量をさらに増やすこと
がほとんどないし全く不可能であることが予想されるならば、こうした市場需要の増加はこれ
ら商品の将来の市場価格を高騰させるだけであろう。同様に、市場の需要になんらの変化もな
いにもかかわらず、供給可能量に突然の変化が生じるならば、市場価格は変化するであろう。
例えば、突然の降霜がほとんど収穫真近かであった地中の作物を台無しにしてしまったとしよ
う。需要に変化がないとすれば、その作物の商品価格は上昇し、商品インフレーションを引き
起こすことが予想されるはずである。
よく知られているように、商品投機家は、商品の市場価格を高騰させるためかなりの量の在庫
を買占め、これらの在庫を市場に出さないでおく(供給可能量を減らす)行動をとる。もしこ
れらの投機家が成功するとすれば、かれらは後にその在庫を売って利益を上げることができる
であろう。そのようにして成功した投機家は、「市場を独占的に支配し」、商品インフレーシ
ョンの一因となったといわれる。商品価格インフレーションは、需要や近い将来に引き渡され
るべき供給可能量に突然で予期しない変化があったときはいつでも起こるから、この種のイン
フレは、利己心によって動かされておらずむしろ社会をインフレの苦難から守りたいと望んで
いるある制度によって、容易に避けることができる。商品価格インフレーションを防ぐには、
政府は、需要あるいは供給の変化が重大な価格変動を誘発するのを妨げるための緩衝在庫とし
て、ある程度その商品の在庫を保持する必要がある。緩衝在庫は、以前予期できなかった需要
や供給の変化が現実に起こったときに、それを相殺することによって無秩序な価格崩壊から市
場を守るために、市場に運び入れたり運び出したりできる。なんらかの商品のたな卸し在庫に
他ならない。
例えば,米国は,1970年代の石油価格ショック以来、メキシコ湾沿岸の地下岩塩ドームに原油
を貯蔵する戦略的石油備蓄を展開している。これらの石油備蓄は、もし政治的に不安定な中東
からの供給が突然減少するならば、国内石油の市場価格を安定させるため、緊急に市場へ放出
されるf定になっている。そのような石油備蓄を戦略的に用いることは、例えば中東で政治危
機が勃発した場合、石油の価格が、備蓄のない状態のときほどには上昇しないであろうことを
意味する。言い換えれば、石油価格の高騰は,緩衝在庫が商品のどのような不足をも直ちに埋
め合わるのに利用できる状態にあるかぎり、避けることができるであろう.したがって、米国
政府の高官は,1991年のイラクに対する短期の湾岸戦争(砂漠の嵐)の間、原油の市場価格に
(現実の、あるいは、予想される)影響を及ぼす混乱の起こらないように戦略的石油備蓄から
の原油を市場に放出した。エネルギー省は、このように緩衝在庫を用いたことにより、ガソリ
ンの小売価格が1ガロン当たり約30セント上昇するのを防ぐことができたと推計している。
商品価格の高騰に対する公共政策による解決法として緩衝在庫を用いることは、7頭の太った
雌牛の後ろに7頭のやせた雌牛がつづくという、聖書に登場するヨセフとファラオの夢の話と
同じくらい古いものである。当時の経済予測者であったヨセフは、ファラオの夢を、生産(供
給)が平年水準以上で農産物価格(や農民の所得)が平年水準以下となるような7年間の豊作
の後、農民の受取る農産物価格が法外に高くなるものの年間の生産がみんなに行きわたるほど
十分な食料を提供できないような7年間の凶作が続くことを予告しているものと解釈した。ヨ
セフのより進んだインフレ抑制政策の提言は、政府が豊作の年に穀物の緩衝在庫を蓄えておき、
凶作の年にその穀物を利潤抜きの原価で市場に放出するということであった。これは、14年間
の収穫期にわたって安定した価格を維持し、凶作の年のインフレを避け、豊作の年の農民の所
得を保護することとなった。聖書によれば、この進んだ緩衝在庫政策は、褒めたたえるべき経
済的成功であったとされている。
2008年の夏に突然現れた。石油やいくつかの農産物の価格高騰は、中国やインドがあまりにも
急速に成長しているため、これらの商品に対するかれらの需要増が他の国々からの通常の需要
に上乗せされて、市場価格を天文学的な水準にまで早急に押し上げるであろうとの(誤った)
期待に基づいていた。専門家の中には、2009年の年初には原油は1バレル当たり200ドルにな
ると予想する者もいた。もしこれらの期待が合理的であるのならば,投機家は市場で石油を1
バレル当たり,例えば100ドルで購入し、それから急に態度を変えて短期間のうちにそれを転
売してしまうことによって100%の利潤を上げることができるであろう。
したがって、投機家のみならず航空会社のような石油製品の大口ユーザーも市場で原油の先物
を購入した。航空会社は、2008年末には1バレル当たり200ドルにもなろうかと予想されている
ときに、より安い燃料を確保するために、石油の先物を購入したのである。もちろん,2008年
末に原油の価格が1バレル当たり40ドル以下に下落したとき、航空会社は、原油価格が2008年
から先に急上昇するのは避けられないとの投機的な考えに基づいた石油の買い付けで、莫大な
損失をこうむった。わたくしは,商品インフレーションが頂点に達しつつある頃,『チャレン
ジ』誌の2008年7月/8月号に論文を発表し、原油の先物価格に関する極端で非現実的な投機が
原油価格のみならず農産物にも商品インフレーションを引き起こしつつあることを明らかにし
た。わたくしの主張は,ケインズの商品インフレーションの考えと石油産業の経営についての
知識に基づいていた。わたくしは、石油産業の知識をある有力な石油会社の経済調査部門の次
長をしていたときや、その後13社の主要石油会社を巻き込んだ反トラスト訴訟での専門家とし
ての証人であったときに得ていた。わたくしは、ある簡単な政策がこの投機をすぐに止めさせ、
原油価格の大幅な下落という結果をもたらすことを承知していた。
わたくしは、連邦政府に聖書にあるヨセフの例に従うよう提案した。価格が1バレル当たり140
ドルに近づきつつあったとき、わたくしは、もし政府が戦略的石油備蓄として蓄えてきた石油
の10%弱を市場で売却するならば、原油価格は100ドル以下に下がるであろうと書いた。その結
果、消費者にとっての石油製品の価格が下がるばかりでなく、政府にとって利益が得られるで
あろう。というのも、政府は、戦略的石油備蓄で蓄えられた石油を現在の市場価格よりはるか
に安い価格で購入していたからである。政府はこの緩衝在庫計画を採用しなかったが、景気後
退に強い影響力を持つ2008年の金融危機が、この商品投機を収束させた。もしオバマ政権中に
中東で政治問題が勃発すれば、起こるかもしれないどのような石油価格インフレをも止めるた
めに、大統領には緩衝在庫のたとえに従って行動してもらいたいと、わたくしは思っている。
ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』