2011/10/15
ぽかぽか春庭@アート散歩>絵本の世界(1)いわさきちひろ美術館
夏のアート散歩、暑さの中、巡りめぐった美術館のひとつがいわさきちひろ美術館です。これまで見たいと思いつつ、駅から遠いのでなかなか足が向きませんでした。
ちひろさんと松本善明一家が住んでいた住宅兼アトリエをそのまま美術館に改装したもので、こちらはこじんまりした美術館。長野の安曇野にもうひとつ大きな美術館もあり、どちらも変わらぬ愛好者を集めています。
http://www.chihiro.jp/tokyo/
いわさきちひろの描く絵本、これまでたくさん見て来ました。これまで美術館に原画を見にこなかったのは、駅から遠い、ということのほか、「絵本の原画」を見て、絵本を見たとき以上の感激や発見があるのは少なかった、というこれまでの感想があったからです。 絵本の原画、大きさや色彩など印刷過程で原画からまったく変わってしまうということはあまりないように思います。油絵の場合、印刷されたものと原画のイメージが異なることが多いですけれど。
たとえば、私が持っている『あかちゃん』という絵本を見ていたときの印象と、原画を比べて、印象が変わることはありませんでした。あえて言えば、「これが、いわさきちひろが絵筆を動かした原画なのだ」と思えるところが重要なのでしょうけれど、美術館に展示されていた絵は、原画保存の意味から、ほとんどは「コロタイプ印刷による複製画」でした。いわさきちひろの原画の多くは、戦後盛んに使用された酸性紙が用いられており、劣化が早いと推測されています。劣化しない中性紙がスケッチブックなどに用いられるようになったのは、いわさきちひろ死後のことなのです。
劣化予防のため、原画展示は極力さける方針なのだそうです。
いわさきちひろの絵、印刷された絵本と原画が大きくイメージが変わることはありませんでした。とてもやさしい雰囲気の花の絵や子どもの絵。だれでも、見ているとふんわりと穏やかなやさしい気持ちになってきます。
いわさきちひろ美術館の別室展示は瀬川康男の絵本原画、遺作展でした。瀬川康男は、2010年2月、77歳で亡くなりました。
http://www.chihiro.jp/tokyo/museum/schedule/2011/0106_0000.html
松谷みよ子の文と瀬川の挿絵による『いいおかお』『いないいないばあ』『もうねんね』は、娘に最初に読み聞かせをしたなつかしい絵本です。
展示室には、「かっぱかぞえうた」ほかの展示もあり、はじめて見る絵も多かったです。
練馬の住宅街。静かな美術館で、ちひろさんのアトリエが再現されているコーナーもありました。ああ、ここでちひろさんが絵筆を動かし、たくさんのやさしい子どもの姿や草花が描かれたのだなあと、感慨深く見て来ました。
美術館の中のカフェで紅茶とチーズケーキをいただき、絵はがき20枚セットを買いました。いろんなところに出かけて、「青い鳥ちるちるさんに送りたい絵はがき」を選ぶのも楽しみのひとつです。ちるちるさんに送った「10月のハガキ」の中の1枚は、ちひろの絵はがき。秋の野原に咲く草花のなかで子ども達が遊んでいる絵です。
この美術館でゆったりすごすことで、ほっと一息できるようなよい時間を過ごすことができました。
<つづく>
07:48 コメント(1) ページのトップへ
2011年10月16日
ぽかぽか春庭「安野光雅展」
2011/10/16
ぽかぽか春庭@アート散歩>絵本の世界(2)安野光雅展
9月の横浜散歩、19日敬老の日に、ふたつの展覧会をはしご。神奈川近代文学館とそごう横浜店の両方で安野光雅展を見ました。
安野のふるさと津和野に安野光雅美術館ができて10周年の記念企画です。
近代文学館は「安野光雅展アンデルセンと旅して」というタイトルで、アンデルセン童話の世界を描いた挿絵を中心に、童話「マッチ売りの少女」と「影法師」をもとにした創作絵本『かげぼうし』や、デンマークを舞台にした『旅の絵本Ⅵ』などの原画が展示されていました。
http://www.kanabun.or.jp/te0166.html
横浜そごうは、「安野光雅の絵本展」
http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/archives/11/0917_anno/index.html
絵本と原画の両方が展示され、絵を見て歩くのも、椅子に座って絵本を見るのもできます。特に、銀紙を貼った丸い筒に写して絵を見ると形がわかる仕掛けになっている絵は、原画で見ても引き延ばされた絵しかわかりませんから、絵本に銀の筒をあててみることが必要。
「ABCの本」も「ふしぎなえ」「さかさま」など、さまざまな仕掛けがあるので、大人も子どもも絵本を手に取ると夢中になれます。「もりのえほん」の中や「ABCの本」には、だまし絵のように、絵のなかにいろいろな絵が隠されているので、老夫婦が「あ、ここにサルが隠れている」なんてふたりで見つけ合いっこしながらまわっているようす、ほほえましかったです。つい「ほら、ここにうさぎが隠されていますよ」なんて教えたくなっちゃうんですけれど、これは自分で発見するのがいいんでしょうね。
「本」という講談社PR雑誌の表紙を飾っていた安野の『平家物語』。表紙を見るのを楽しみに毎月「本」をもらいました。原画を見ることができて感激です。「本」の表紙、いつか画集も出るだろうからと、スクラップしておかなかったのですが、画集は立派な箱入り特装本で、とても買えない。やはりスクラップしておくんだった。
森まゆみと旅したアンデルセン作森鴎外訳『即興詩人』の挿絵原画もとてもよかったです。安野はふるさと津和野の偉人森鴎外を敬愛し、『即興詩人』の現代語訳も試みています。
私は文語訳の『即興詩人』を読み通したことがありませんでした。安野の挿絵付き本なら読み通せるかも。単行本『繪本即興詩人』は3150円なのですが、在庫切れ中。再版されるかどうかわかりません。アマゾンの中古本は1万円と2万円の稀覯本扱い。とても買えない。図書館で探してみましょう。
絵本は子どものものと思われていますが、安野が「即興詩人」で試みたように、大人のための絵本ももっと出版されていい。出版本は「安野版平家物語」のように高いのが難点だから、電子ブックで安価に絵本を楽しめればいいなあと思います。そういう本が電子ブックのリストに載るようになったら、私もガラパゴスとか電子ブックリーダーを買おうと思います。
ただし、子どもが読むなら電子ブックではなく、ぜひ紙の絵本を。本を手に持ってページをめくる体験から本の世界に入っていくのが大切な記憶になるような気がして。電子ブックでの絵本だと、「ゲームより面白い」と感じてくれる子どもが育つかどうかちょっと心配。皮膚感覚や匂いから入る身体性というのは、とても大切な要素です。
これからの世界、「本を読むのが好きな子」「本をまったく読まない子」に二極化していくでしょう。そして人間文化にとってなにより大切な「ことば」「こころ」は、絶対に「本好きな子」のほうに、より豊かな「ことばの世界」「想像力と精神の世界」が広がるだろうと思います。
新しい世代のお父さんもお母さん、絵本の読み聞かせをしてやってほしいです。
<つづく>
08:27 コメント(4) ページのトップへ
2011年10月18日
ぽかぽか春庭「浜口陽三・南桂子展」
2011/10/18
ぽかぽか春庭@アート散歩>絵本の世界(3)浜口陽三・南桂子展
夫婦作家として思い出すのは、津村節子吉村昭、曾野綾子三浦朱門、小池真理子藤田宜永、角田光代伊藤たかみ、離婚しちゃった作家カップルはもっと多いけれど。夫と妻ともに画家というと、知っていたのは 三岸節子三岸光太郎、丸木位里丸木俊夫妻くらい。あとどんな画家夫妻がいたか、あまり知らなかったのですが、浜口陽三・南桂子という版画家夫妻についてこの夏はじめて作品をまとめてみることができました。
アマチュア画家なら絵を描くことを趣味にする夫婦も多いけれど、共にプロフェッショナル画家として、絵を売って生活する夫妻というのは、たいへんだろうなあと思います。
ペンさえあれば、夫婦が同じ家でモノカキ続けるにもそう不自由はないと思うけれど、絵を描くスペースを夫婦それぞれが確保するには、かなり広い家でないときついんじゃないかしら。絵を描いたことないからわからないけれど。その点、浜口&南夫妻はずっと外国暮らしだし、浜口陽三の実家は金持ちだし、不自由はなかったことでしょう。
9月、水天宮の近くにある「ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション」に行って、版画家の浜口陽三と南桂子が版画家夫妻であることを知りました。「ミュゼ浜口陽三」には、南桂子の銅版画作品も展示されています。
浜口陽三は、ヤマサ醤油創業家の出身。陽三は10代目浜口儀兵衛の三男です。「カラー・メゾチント」という版画技法を完成させ、国際的に高い評価を受けてきた版画家で、2000年に91歳で亡くなるまでの4年間を日本で過ごした他は、フランスやブラジル、アメリカで制作を続けてきました。
ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション
http://www.yamasa.com/musee/gutnj.html
南桂子生誕百年記念展
http://www.yamasa.com/musee/guminami.html
10月7日、武蔵野市立吉祥寺美術館でも、「生誕100年 南桂子展 」と「浜口陽三記念室」も見ました。吉祥寺美術館は平日でも19:30まで開館しているので、仕事帰りの人も立ち寄れていいと思う。しかも入館料100円。他の公設美術館も平日夜間開館をしてほしい。
南桂子は、壷井栄の作品から童話の魅力を知ったということですが、会場のテレビでは、南桂子が若い頃書いた童話作品が日本経済新聞に掲載されたことを紹介していました。浜口陽三を追いかけてパリへ出立していなければ、版画家ではなく童話作家として生きたのかも知れません。パリ、ブラジル、サンフランシスコ、と1996年に帰国するまで浜口陽三とともに版画を制作し続けました。
南桂子のメルヘンチックな画風はパリ時代に版画を作り始めてから2004年に93歳で亡くなるまで一貫して変わりませんでした。かわいらしい女の子や小鳥、花などの作品は、童話の世界に遊ぶここちがします。谷川俊太郎の本の装丁画や帝国ホテルパンフレットの挿絵を見ても、物語が浮かび上がるように感じられます。
「南桂子生誕百年記念展」の図録、2500円するので購入をためらい、結局、ポストカード集、22枚の絵ハガキで1000円のほうを買いました。これも、ちるちるさんに送ろうと思います。
<つづく>
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2011年10月19日
ぽかぽか春庭「八王子夢美術館絵本展&国際こども図書館」
2011/10/19
ぽかぽか春庭@アート散歩>絵本の世界(4)八王子夢美術館絵本展&国際こども図書館
同じ東京の中とはいっても、八王子はちと遠いから、町散歩をしたこともありませんでした。子どものころ、八王子にあった東京サマーランドってプールに母や伯母と群馬の田舎からツアーバスで来たことがあったのですが、それっきり。東京に出てきて以来、はじめて八王子駅に降りました。
八王子夢美術館の絵本原画展を見ました。
http://www.yumebi.com/acv41.html
新進の女性画家3人による絵本の原画。酒井駒子、はまのゆか、相野谷由起。
これまで酒井駒子の小川未明「赤い蝋燭と人魚」の挿絵を見たことがあるだけで、はまのゆかと相野谷由起は、初めて見る画家でした。
それぞれの代表作や近作が並び、楽しいひとときでした。絵はがきは、あれこれまよったのだけれど、相野谷由起の「冬の女の子」シリーズを購入。ぷっくり丸い女の子に親近感を持ったので。
絵本を楽しんでいるとき、だれの文なのかは意識します。アンデルセンだとかグリムの名前は、子どもの頃覚えました。でも、挿絵の画家が誰だったかなんて子どもの頃には意識したことがありませんでした。国際子ども図書館の「日本の子どもの文学」展で古い絵本を見て、昔見た絵の画家が誰だったのか、やっとわかった、という絵本もありました。
国際子ども図書館は、ずらりと並ぶ上野の「近代建築」の中でも居心地のよい建物のひとつです。上野めぐりをしていて疲れると、ここのカフェで一休みするのが好き。
絵本の原画展もよく開催されます。9月に行ったときの展示テーマは、「日本の子どもの文学」。「赤い鳥」「金の船」「少女畫報」などの挿絵が展示されていました。
私が子どものころに読んだ絵本も、私が図書館からせっせと借りて娘に読み聞かせをした絵本も並んでいました。(息子への読み聞かせは5歳年上の娘が担当したので、息子は私が読むのをあまり聞いていません)
2008年に妹と八ヶ岳の黒井健絵本美術館へ行ったときに見た、新美南吉の「ごんぎつね」も「日本の子どもの文学」に展示されていました。そうそう、黒井健の「ごんぎつね」の絵はがき、持っているんだよな。これにはどんな文を書いて送ろうかな。
10月2日、三鷹市美術ギャラリーで谷川晃一展を見ました。
http://mitaka.jpn.org/ticket/110903g/
谷川晃一、60年代ポップアートから「アートディレクター」としても才能を発揮し、「伊豆高原アートフェスティバル」の開催を続けてきました。三鷹市美術ギャラリーに展示されている絵は、若い頃の自画像から最近作まで、谷川の画業を回顧するものです。
谷川晃一の妻、宮迫千鶴(1947-2008)。絵をやっている人には有名な夫妻だったのでしょうけれど、私は宮迫について、画家としてよりエッセイストとして認識していて、絵についてはどんなのを描いているかも知らなかった。
宮迫千鶴は、2008年に60歳で死去。でも、夫の谷川と共に「スピリチュアルな世界」を信じており、谷川も「死は終わったのではない、妻はちょっと先に行って待っている」と捉えているようで、妻の早世の後も旺盛な制作を続けています。うらやまし。無信心で「スピリチュアルな世界」というのにも無縁だった私、死は「終わり」と捉えてしまっているので、きっと死ぬ前はオタオタすると思います。
私、100歳までの「やりたいこと」が積んであるのに、60歳で死ぬなんて言われたら、あせりまくる。まだ、何もやり遂げていないのに。あ、60歳はとっくに過ぎていたんだっけ。老い先短し、あせってしまうが、そこは明日の運命を知らぬ身、今日もグダグダと仕事をし、テレテレと家事放棄。電車の中では大口あけて居眠り。あせりながら何もせず。
谷川晃一は、絵本を見たことあったけれど、画家としてはどんな絵を描いているのか、これまで画集も展覧会も見たことがありませんでした。
絵本の原画も展示されていました。
二進法の数え方を絵本にした『ウラパン オコサ』とか、谷川晃一の絵本は、絵と文を両方作っている。美術論美術評論の本もたくさん出版している谷川。夫婦そろって、絵と文章と両方に才能を発揮してきたなんて、すごいなあ。
谷川晃一のアニメーション作品『ニャンニャンカーニバル』が、会場の液晶テレビでエンドレス展示されていました。会場で売っていたDVDは千円でしたが、「ひらけポンキッキ」からの録画と思われるバージョンは、youtubeで見られます。
http://www.youtube.com/watch?v=H57uLyu8Z-8
<つづく>
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2011年10月21日
ぽかぽか春庭「The animals」
2011/10/21
ぽかぽか春庭@アート散歩>絵本の世界(5)The animals
子ども時代、お気に入りの絵本を持っていた子は幸福です。私のお気に入りは堀文子が絵を描いているメーテルリンクの『青い鳥』でした。
国際子ども図書館の「日本の子どもの文学」には、「ドリトル先生」や「くまのプーさん」「はなのすきなうし」など、翻訳ものもいくつかは展示がありましたが、「青い鳥」は出展されていませんでした。アマゾンで検索しても堀文子挿絵の『青い鳥』は見当たりません。この本の情報を求めています。売っているものなら、探して買いたい。
堀文子、1918年生まれ、93歳で現役の画家です。今春、三重県立美術館や富山県南砺市立福光美術館で堀文子の展覧会があったので、東京に巡回展示があるかと期待していたのですけれど、東京での大きな展覧会は2007年の高島屋美術館での開催で、私は中国滞在中で見ることができませんでした。
2011年9月19日に放映されたNHKのドキュメンタリーを見逃してしまいました。再放送を待ちましょう。銀座の画廊ナカジマアートで11月に個展があるので見に行きたいです。
郵便局に、絵本宅配のパンフレットが置いてありました。名古屋のメルヘンランドと九州の童話館が、それぞれ年齢別の絵本セットを毎月宅配している、というご案内です。0歳から中学生高校生向けまで、出版社側が選んだ本が届くしくみ。小学校高学年になれば自分で本屋や図書館で本を選ぶ楽しみがあってもいいと思うけれど、小学校低学年くらいまでは、親が与えるのもひとつの方法。本のページをめくる楽しみを知れば、子どもは自分で本を選ぶようになる。
童話館やメルヘンランドの代表者の弁では、おひざの上で、母親や保育園の先生からの「読み聞かせ」を受けた子どもは情緒豊かな、さらには「積極的に知りたがる」子どもが育つと力説していました。
親は「本好きになれば、国語の成績がよくなるかも」とか、「読解力はすべての学力の基礎」とか思うのかも知れないけれど、そんな「効果」は、あとからついてくるもの。まずは想像の世界、お話の楽しさ、空想の豊かさ、そこに浸っていられる子どもであってほしい。
1998年の夏、国際児童図書評議会(IBBY)の第26回ニューデリー大会において美智子皇后による「子供の本を通しての平和―子供時代の読書の思い出」というスピーチがビデオ発表されました。私はこのスピーチが好きです。
ビデオはニューデリーに於いて一部割愛で放映されましたが、スピーチ原稿原本が『橋をかける』という本になっています。本の中で、子ども時代の読書は、人の心の「根っこであり、翼である」と書かれています。
「子供達が,自分の中に,しっかりとした根を持つために
子供達が,喜びと想像の強い翼を持つために
子供達が,痛みを伴う愛を知るために
そして,子供達が人生の複雑さに耐え,それぞれに与えられた人生を受け入れて生き, やがて一人一人,私共全てのふるさとであるこの地球で,平和の道具となっていく ために。」
子どもと本について、ほんとうにすばらしいことばだと思うので、ときどき読み直していいます。
宮内庁サイトに掲載されているスピーチ全文。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/ibby/koen-h10sk-newdelhi.html
「絵本の世界」シリーズ、最後に紹介する本は、『The ANIMALS』です。安野光雅さんが挿絵を描いている絵本です。今年11月16日に102歳になる詩人まどみちおの『どうぶつたち』という詩集が、すばらしい英語で翻訳されています。英語の訳者は、美智子皇后。10月20日に77歳。
~~~~~~~
シマウマ
手製の / おりに / はいっている
ZEBRA
In a cage / Of his / Own making
アリ
アリを見ると /アリに たいして /なんとなく /もうしわけ ありません/みたいなことに なる
いのちの 大きさは /だれだって /おんなじなのに /こっちは そのいれものだけが /こんなに /ばかでっかくって・・・
An Ant
Watching an ant I often feel / Like voicing an apology / Toward this little being
Life is life to any creature / Big or small / The difference is only / In the size of its container / And mine happens to be so ridiculously, / Enormously big.
~~~~~~~~
10月1日に茅ヶ崎まで電車で行ったときのこと。小さな子がおひざに絵本を載せて、隣のお母さんに「ねぇ、ねぇ」と訴えています。お母さんは「電車の中なんだから、静かにしなさい。他の人に迷惑でしょっ」と「しつけ」をして、あとはケータイに夢中。大事なメール返信だったのかもしれません。でも、そのケータイを見続けている30分を、こどもに絵本を読み聞かせてやる時間にしてほしいなあと、とても残念に思いました。こういう「小姑的感想」が出るってことは、私も年取ったということなのですけれど。
子ども達が最初に出会う「本との出会い」が、一生の宝物となる絵とことばであることを願っています。
<おわり>
ぽかぽか春庭@アート散歩>絵本の世界(1)いわさきちひろ美術館
夏のアート散歩、暑さの中、巡りめぐった美術館のひとつがいわさきちひろ美術館です。これまで見たいと思いつつ、駅から遠いのでなかなか足が向きませんでした。
ちひろさんと松本善明一家が住んでいた住宅兼アトリエをそのまま美術館に改装したもので、こちらはこじんまりした美術館。長野の安曇野にもうひとつ大きな美術館もあり、どちらも変わらぬ愛好者を集めています。
http://www.chihiro.jp/tokyo/
いわさきちひろの描く絵本、これまでたくさん見て来ました。これまで美術館に原画を見にこなかったのは、駅から遠い、ということのほか、「絵本の原画」を見て、絵本を見たとき以上の感激や発見があるのは少なかった、というこれまでの感想があったからです。 絵本の原画、大きさや色彩など印刷過程で原画からまったく変わってしまうということはあまりないように思います。油絵の場合、印刷されたものと原画のイメージが異なることが多いですけれど。
たとえば、私が持っている『あかちゃん』という絵本を見ていたときの印象と、原画を比べて、印象が変わることはありませんでした。あえて言えば、「これが、いわさきちひろが絵筆を動かした原画なのだ」と思えるところが重要なのでしょうけれど、美術館に展示されていた絵は、原画保存の意味から、ほとんどは「コロタイプ印刷による複製画」でした。いわさきちひろの原画の多くは、戦後盛んに使用された酸性紙が用いられており、劣化が早いと推測されています。劣化しない中性紙がスケッチブックなどに用いられるようになったのは、いわさきちひろ死後のことなのです。
劣化予防のため、原画展示は極力さける方針なのだそうです。
いわさきちひろの絵、印刷された絵本と原画が大きくイメージが変わることはありませんでした。とてもやさしい雰囲気の花の絵や子どもの絵。だれでも、見ているとふんわりと穏やかなやさしい気持ちになってきます。
いわさきちひろ美術館の別室展示は瀬川康男の絵本原画、遺作展でした。瀬川康男は、2010年2月、77歳で亡くなりました。
http://www.chihiro.jp/tokyo/museum/schedule/2011/0106_0000.html
松谷みよ子の文と瀬川の挿絵による『いいおかお』『いないいないばあ』『もうねんね』は、娘に最初に読み聞かせをしたなつかしい絵本です。
展示室には、「かっぱかぞえうた」ほかの展示もあり、はじめて見る絵も多かったです。
練馬の住宅街。静かな美術館で、ちひろさんのアトリエが再現されているコーナーもありました。ああ、ここでちひろさんが絵筆を動かし、たくさんのやさしい子どもの姿や草花が描かれたのだなあと、感慨深く見て来ました。
美術館の中のカフェで紅茶とチーズケーキをいただき、絵はがき20枚セットを買いました。いろんなところに出かけて、「青い鳥ちるちるさんに送りたい絵はがき」を選ぶのも楽しみのひとつです。ちるちるさんに送った「10月のハガキ」の中の1枚は、ちひろの絵はがき。秋の野原に咲く草花のなかで子ども達が遊んでいる絵です。
この美術館でゆったりすごすことで、ほっと一息できるようなよい時間を過ごすことができました。
<つづく>
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2011年10月16日
ぽかぽか春庭「安野光雅展」
2011/10/16
ぽかぽか春庭@アート散歩>絵本の世界(2)安野光雅展
9月の横浜散歩、19日敬老の日に、ふたつの展覧会をはしご。神奈川近代文学館とそごう横浜店の両方で安野光雅展を見ました。
安野のふるさと津和野に安野光雅美術館ができて10周年の記念企画です。
近代文学館は「安野光雅展アンデルセンと旅して」というタイトルで、アンデルセン童話の世界を描いた挿絵を中心に、童話「マッチ売りの少女」と「影法師」をもとにした創作絵本『かげぼうし』や、デンマークを舞台にした『旅の絵本Ⅵ』などの原画が展示されていました。
http://www.kanabun.or.jp/te0166.html
横浜そごうは、「安野光雅の絵本展」
http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/archives/11/0917_anno/index.html
絵本と原画の両方が展示され、絵を見て歩くのも、椅子に座って絵本を見るのもできます。特に、銀紙を貼った丸い筒に写して絵を見ると形がわかる仕掛けになっている絵は、原画で見ても引き延ばされた絵しかわかりませんから、絵本に銀の筒をあててみることが必要。
「ABCの本」も「ふしぎなえ」「さかさま」など、さまざまな仕掛けがあるので、大人も子どもも絵本を手に取ると夢中になれます。「もりのえほん」の中や「ABCの本」には、だまし絵のように、絵のなかにいろいろな絵が隠されているので、老夫婦が「あ、ここにサルが隠れている」なんてふたりで見つけ合いっこしながらまわっているようす、ほほえましかったです。つい「ほら、ここにうさぎが隠されていますよ」なんて教えたくなっちゃうんですけれど、これは自分で発見するのがいいんでしょうね。
「本」という講談社PR雑誌の表紙を飾っていた安野の『平家物語』。表紙を見るのを楽しみに毎月「本」をもらいました。原画を見ることができて感激です。「本」の表紙、いつか画集も出るだろうからと、スクラップしておかなかったのですが、画集は立派な箱入り特装本で、とても買えない。やはりスクラップしておくんだった。
森まゆみと旅したアンデルセン作森鴎外訳『即興詩人』の挿絵原画もとてもよかったです。安野はふるさと津和野の偉人森鴎外を敬愛し、『即興詩人』の現代語訳も試みています。
私は文語訳の『即興詩人』を読み通したことがありませんでした。安野の挿絵付き本なら読み通せるかも。単行本『繪本即興詩人』は3150円なのですが、在庫切れ中。再版されるかどうかわかりません。アマゾンの中古本は1万円と2万円の稀覯本扱い。とても買えない。図書館で探してみましょう。
絵本は子どものものと思われていますが、安野が「即興詩人」で試みたように、大人のための絵本ももっと出版されていい。出版本は「安野版平家物語」のように高いのが難点だから、電子ブックで安価に絵本を楽しめればいいなあと思います。そういう本が電子ブックのリストに載るようになったら、私もガラパゴスとか電子ブックリーダーを買おうと思います。
ただし、子どもが読むなら電子ブックではなく、ぜひ紙の絵本を。本を手に持ってページをめくる体験から本の世界に入っていくのが大切な記憶になるような気がして。電子ブックでの絵本だと、「ゲームより面白い」と感じてくれる子どもが育つかどうかちょっと心配。皮膚感覚や匂いから入る身体性というのは、とても大切な要素です。
これからの世界、「本を読むのが好きな子」「本をまったく読まない子」に二極化していくでしょう。そして人間文化にとってなにより大切な「ことば」「こころ」は、絶対に「本好きな子」のほうに、より豊かな「ことばの世界」「想像力と精神の世界」が広がるだろうと思います。
新しい世代のお父さんもお母さん、絵本の読み聞かせをしてやってほしいです。
<つづく>
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2011年10月18日
ぽかぽか春庭「浜口陽三・南桂子展」
2011/10/18
ぽかぽか春庭@アート散歩>絵本の世界(3)浜口陽三・南桂子展
夫婦作家として思い出すのは、津村節子吉村昭、曾野綾子三浦朱門、小池真理子藤田宜永、角田光代伊藤たかみ、離婚しちゃった作家カップルはもっと多いけれど。夫と妻ともに画家というと、知っていたのは 三岸節子三岸光太郎、丸木位里丸木俊夫妻くらい。あとどんな画家夫妻がいたか、あまり知らなかったのですが、浜口陽三・南桂子という版画家夫妻についてこの夏はじめて作品をまとめてみることができました。
アマチュア画家なら絵を描くことを趣味にする夫婦も多いけれど、共にプロフェッショナル画家として、絵を売って生活する夫妻というのは、たいへんだろうなあと思います。
ペンさえあれば、夫婦が同じ家でモノカキ続けるにもそう不自由はないと思うけれど、絵を描くスペースを夫婦それぞれが確保するには、かなり広い家でないときついんじゃないかしら。絵を描いたことないからわからないけれど。その点、浜口&南夫妻はずっと外国暮らしだし、浜口陽三の実家は金持ちだし、不自由はなかったことでしょう。
9月、水天宮の近くにある「ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション」に行って、版画家の浜口陽三と南桂子が版画家夫妻であることを知りました。「ミュゼ浜口陽三」には、南桂子の銅版画作品も展示されています。
浜口陽三は、ヤマサ醤油創業家の出身。陽三は10代目浜口儀兵衛の三男です。「カラー・メゾチント」という版画技法を完成させ、国際的に高い評価を受けてきた版画家で、2000年に91歳で亡くなるまでの4年間を日本で過ごした他は、フランスやブラジル、アメリカで制作を続けてきました。
ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション
http://www.yamasa.com/musee/gutnj.html
南桂子生誕百年記念展
http://www.yamasa.com/musee/guminami.html
10月7日、武蔵野市立吉祥寺美術館でも、「生誕100年 南桂子展 」と「浜口陽三記念室」も見ました。吉祥寺美術館は平日でも19:30まで開館しているので、仕事帰りの人も立ち寄れていいと思う。しかも入館料100円。他の公設美術館も平日夜間開館をしてほしい。
南桂子は、壷井栄の作品から童話の魅力を知ったということですが、会場のテレビでは、南桂子が若い頃書いた童話作品が日本経済新聞に掲載されたことを紹介していました。浜口陽三を追いかけてパリへ出立していなければ、版画家ではなく童話作家として生きたのかも知れません。パリ、ブラジル、サンフランシスコ、と1996年に帰国するまで浜口陽三とともに版画を制作し続けました。
南桂子のメルヘンチックな画風はパリ時代に版画を作り始めてから2004年に93歳で亡くなるまで一貫して変わりませんでした。かわいらしい女の子や小鳥、花などの作品は、童話の世界に遊ぶここちがします。谷川俊太郎の本の装丁画や帝国ホテルパンフレットの挿絵を見ても、物語が浮かび上がるように感じられます。
「南桂子生誕百年記念展」の図録、2500円するので購入をためらい、結局、ポストカード集、22枚の絵ハガキで1000円のほうを買いました。これも、ちるちるさんに送ろうと思います。
<つづく>
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2011年10月19日
ぽかぽか春庭「八王子夢美術館絵本展&国際こども図書館」
2011/10/19
ぽかぽか春庭@アート散歩>絵本の世界(4)八王子夢美術館絵本展&国際こども図書館
同じ東京の中とはいっても、八王子はちと遠いから、町散歩をしたこともありませんでした。子どものころ、八王子にあった東京サマーランドってプールに母や伯母と群馬の田舎からツアーバスで来たことがあったのですが、それっきり。東京に出てきて以来、はじめて八王子駅に降りました。
八王子夢美術館の絵本原画展を見ました。
http://www.yumebi.com/acv41.html
新進の女性画家3人による絵本の原画。酒井駒子、はまのゆか、相野谷由起。
これまで酒井駒子の小川未明「赤い蝋燭と人魚」の挿絵を見たことがあるだけで、はまのゆかと相野谷由起は、初めて見る画家でした。
それぞれの代表作や近作が並び、楽しいひとときでした。絵はがきは、あれこれまよったのだけれど、相野谷由起の「冬の女の子」シリーズを購入。ぷっくり丸い女の子に親近感を持ったので。
絵本を楽しんでいるとき、だれの文なのかは意識します。アンデルセンだとかグリムの名前は、子どもの頃覚えました。でも、挿絵の画家が誰だったかなんて子どもの頃には意識したことがありませんでした。国際子ども図書館の「日本の子どもの文学」展で古い絵本を見て、昔見た絵の画家が誰だったのか、やっとわかった、という絵本もありました。
国際子ども図書館は、ずらりと並ぶ上野の「近代建築」の中でも居心地のよい建物のひとつです。上野めぐりをしていて疲れると、ここのカフェで一休みするのが好き。
絵本の原画展もよく開催されます。9月に行ったときの展示テーマは、「日本の子どもの文学」。「赤い鳥」「金の船」「少女畫報」などの挿絵が展示されていました。
私が子どものころに読んだ絵本も、私が図書館からせっせと借りて娘に読み聞かせをした絵本も並んでいました。(息子への読み聞かせは5歳年上の娘が担当したので、息子は私が読むのをあまり聞いていません)
2008年に妹と八ヶ岳の黒井健絵本美術館へ行ったときに見た、新美南吉の「ごんぎつね」も「日本の子どもの文学」に展示されていました。そうそう、黒井健の「ごんぎつね」の絵はがき、持っているんだよな。これにはどんな文を書いて送ろうかな。
10月2日、三鷹市美術ギャラリーで谷川晃一展を見ました。
http://mitaka.jpn.org/ticket/110903g/
谷川晃一、60年代ポップアートから「アートディレクター」としても才能を発揮し、「伊豆高原アートフェスティバル」の開催を続けてきました。三鷹市美術ギャラリーに展示されている絵は、若い頃の自画像から最近作まで、谷川の画業を回顧するものです。
谷川晃一の妻、宮迫千鶴(1947-2008)。絵をやっている人には有名な夫妻だったのでしょうけれど、私は宮迫について、画家としてよりエッセイストとして認識していて、絵についてはどんなのを描いているかも知らなかった。
宮迫千鶴は、2008年に60歳で死去。でも、夫の谷川と共に「スピリチュアルな世界」を信じており、谷川も「死は終わったのではない、妻はちょっと先に行って待っている」と捉えているようで、妻の早世の後も旺盛な制作を続けています。うらやまし。無信心で「スピリチュアルな世界」というのにも無縁だった私、死は「終わり」と捉えてしまっているので、きっと死ぬ前はオタオタすると思います。
私、100歳までの「やりたいこと」が積んであるのに、60歳で死ぬなんて言われたら、あせりまくる。まだ、何もやり遂げていないのに。あ、60歳はとっくに過ぎていたんだっけ。老い先短し、あせってしまうが、そこは明日の運命を知らぬ身、今日もグダグダと仕事をし、テレテレと家事放棄。電車の中では大口あけて居眠り。あせりながら何もせず。
谷川晃一は、絵本を見たことあったけれど、画家としてはどんな絵を描いているのか、これまで画集も展覧会も見たことがありませんでした。
絵本の原画も展示されていました。
二進法の数え方を絵本にした『ウラパン オコサ』とか、谷川晃一の絵本は、絵と文を両方作っている。美術論美術評論の本もたくさん出版している谷川。夫婦そろって、絵と文章と両方に才能を発揮してきたなんて、すごいなあ。
谷川晃一のアニメーション作品『ニャンニャンカーニバル』が、会場の液晶テレビでエンドレス展示されていました。会場で売っていたDVDは千円でしたが、「ひらけポンキッキ」からの録画と思われるバージョンは、youtubeで見られます。
http://www.youtube.com/watch?v=H57uLyu8Z-8
<つづく>
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2011年10月21日
ぽかぽか春庭「The animals」
2011/10/21
ぽかぽか春庭@アート散歩>絵本の世界(5)The animals
子ども時代、お気に入りの絵本を持っていた子は幸福です。私のお気に入りは堀文子が絵を描いているメーテルリンクの『青い鳥』でした。
国際子ども図書館の「日本の子どもの文学」には、「ドリトル先生」や「くまのプーさん」「はなのすきなうし」など、翻訳ものもいくつかは展示がありましたが、「青い鳥」は出展されていませんでした。アマゾンで検索しても堀文子挿絵の『青い鳥』は見当たりません。この本の情報を求めています。売っているものなら、探して買いたい。
堀文子、1918年生まれ、93歳で現役の画家です。今春、三重県立美術館や富山県南砺市立福光美術館で堀文子の展覧会があったので、東京に巡回展示があるかと期待していたのですけれど、東京での大きな展覧会は2007年の高島屋美術館での開催で、私は中国滞在中で見ることができませんでした。
2011年9月19日に放映されたNHKのドキュメンタリーを見逃してしまいました。再放送を待ちましょう。銀座の画廊ナカジマアートで11月に個展があるので見に行きたいです。
郵便局に、絵本宅配のパンフレットが置いてありました。名古屋のメルヘンランドと九州の童話館が、それぞれ年齢別の絵本セットを毎月宅配している、というご案内です。0歳から中学生高校生向けまで、出版社側が選んだ本が届くしくみ。小学校高学年になれば自分で本屋や図書館で本を選ぶ楽しみがあってもいいと思うけれど、小学校低学年くらいまでは、親が与えるのもひとつの方法。本のページをめくる楽しみを知れば、子どもは自分で本を選ぶようになる。
童話館やメルヘンランドの代表者の弁では、おひざの上で、母親や保育園の先生からの「読み聞かせ」を受けた子どもは情緒豊かな、さらには「積極的に知りたがる」子どもが育つと力説していました。
親は「本好きになれば、国語の成績がよくなるかも」とか、「読解力はすべての学力の基礎」とか思うのかも知れないけれど、そんな「効果」は、あとからついてくるもの。まずは想像の世界、お話の楽しさ、空想の豊かさ、そこに浸っていられる子どもであってほしい。
1998年の夏、国際児童図書評議会(IBBY)の第26回ニューデリー大会において美智子皇后による「子供の本を通しての平和―子供時代の読書の思い出」というスピーチがビデオ発表されました。私はこのスピーチが好きです。
ビデオはニューデリーに於いて一部割愛で放映されましたが、スピーチ原稿原本が『橋をかける』という本になっています。本の中で、子ども時代の読書は、人の心の「根っこであり、翼である」と書かれています。
「子供達が,自分の中に,しっかりとした根を持つために
子供達が,喜びと想像の強い翼を持つために
子供達が,痛みを伴う愛を知るために
そして,子供達が人生の複雑さに耐え,それぞれに与えられた人生を受け入れて生き, やがて一人一人,私共全てのふるさとであるこの地球で,平和の道具となっていく ために。」
子どもと本について、ほんとうにすばらしいことばだと思うので、ときどき読み直していいます。
宮内庁サイトに掲載されているスピーチ全文。
http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/ibby/koen-h10sk-newdelhi.html
「絵本の世界」シリーズ、最後に紹介する本は、『The ANIMALS』です。安野光雅さんが挿絵を描いている絵本です。今年11月16日に102歳になる詩人まどみちおの『どうぶつたち』という詩集が、すばらしい英語で翻訳されています。英語の訳者は、美智子皇后。10月20日に77歳。
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シマウマ
手製の / おりに / はいっている
ZEBRA
In a cage / Of his / Own making
アリ
アリを見ると /アリに たいして /なんとなく /もうしわけ ありません/みたいなことに なる
いのちの 大きさは /だれだって /おんなじなのに /こっちは そのいれものだけが /こんなに /ばかでっかくって・・・
An Ant
Watching an ant I often feel / Like voicing an apology / Toward this little being
Life is life to any creature / Big or small / The difference is only / In the size of its container / And mine happens to be so ridiculously, / Enormously big.
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10月1日に茅ヶ崎まで電車で行ったときのこと。小さな子がおひざに絵本を載せて、隣のお母さんに「ねぇ、ねぇ」と訴えています。お母さんは「電車の中なんだから、静かにしなさい。他の人に迷惑でしょっ」と「しつけ」をして、あとはケータイに夢中。大事なメール返信だったのかもしれません。でも、そのケータイを見続けている30分を、こどもに絵本を読み聞かせてやる時間にしてほしいなあと、とても残念に思いました。こういう「小姑的感想」が出るってことは、私も年取ったということなのですけれど。
子ども達が最初に出会う「本との出会い」が、一生の宝物となる絵とことばであることを願っています。
<おわり>