ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>梅雨のことば(4)虎が雨
「雨の名前」「雨のことば辞典」などで調べれば、たちまち500くらいの雨に関わる言葉が出てくるという日本語。そのうち、現代語として日常生活で使われることはまずないだろうけれど、季語としてはどっこい、現代俳句にも出てくるという雨のことばがあります。
「虎が雨」という季語がそのひとつ。
鎌倉時代のはじめ、源頼朝は新征夷大将軍の威信を示さんと、1193(建久4)年旧暦5月28日に富士の裾野で巻狩りを行いました。狩りという名目の軍事演習のようなものです。
旧暦5月28日、2017年の新暦だと6月22日、夏至の次の日に当たります。
頼朝の富士巻狩りの場において、所領争いのもめごとの末殺された父の仇討ちを行ったのが曾我兄弟。
仇の工藤祐経を討ち果たした艱難辛苦の物語が、歌舞伎の題材として赤穂浪士四十七士の忠臣蔵と並び、人気の演目となりました。
兄弟は、仇の工藤祐経を討ち果たし、その場で兄の十郎祐成は周囲の武士に討たれました。弟は捕らえられ、頼朝の前で工藤祐経の遺児によってたちどころに首を討たれる。
兄弟が潜伏中に、兄の曾我十郎祐成に愛された大磯の遊女虎御前。恋人の死を知って、泣き崩れた。この遊女の悲しい涙が伝説となりました。梅雨の終わりの時期、旧暦5月28日の曾我兄弟命日に降る雨を、十郎の死を悲しんで流す虎御前の涙とみなして「虎が雨」と呼ぶようになった、というお話。
親や主君の仇討ちをすることが武士の鑑とされた江戸時代、歌舞伎人気演目となったことによって、「虎が雨」の季語も愛されました。しかしながら、現代では、そもそも曾我兄弟の仇討ち話を知る人が少ない。
おそらくは、季節のことばとして愛用しているのは、俳人だけかもしれませんが、とにかく「虎が雨」で調べれば、土砂降りのごとく俳句が沸いてでてきます。たぶん、遊女の涙雨というのが、さまざまな連想を呼んで、色っぽくなるところが愛されるゆえんだろうと思います。
・海女が戸の牡丹ぬるる虎が雨 富安清風
・寝白粉香にたちにけり虎が雨 日野草城
・かりそめに京にある日や虎が雨 村上鬼城
・泣かれては泣かざるまでや虎ケ雨 中村草田男
・白き扉に海坂暮るる虎ケ雨 角川源義
虎が雨がふれば、そろそろ梅雨も終わりになります。涙をふいて、さ、夏に向かわねば、という気になる色っぽい雨。
さて、今年の梅雨はどんな具合に梅雨入りしてどんな具合に終わるのやら。
この空と海との間には、なにやら雲行き怪しいことばかり。「絶対安全」のはずの原子力で被爆者が出たり、ソンタクもなく、「官邸のトップレベルからのお達し」もなしに、官僚はせっせとだれかのために走り回る。
私は、あちこち不調で涙を流しておりますが、虎が雨といえるほど色っぽくはないので、はて、500もあるのに、どんな雨に濡れたらよいやら。
・虎が雨繕い物がまだ残る 春庭
・大磯で電車乗り換え虎が雨 春庭
<おわり>
「雨の名前」「雨のことば辞典」などで調べれば、たちまち500くらいの雨に関わる言葉が出てくるという日本語。そのうち、現代語として日常生活で使われることはまずないだろうけれど、季語としてはどっこい、現代俳句にも出てくるという雨のことばがあります。
「虎が雨」という季語がそのひとつ。
鎌倉時代のはじめ、源頼朝は新征夷大将軍の威信を示さんと、1193(建久4)年旧暦5月28日に富士の裾野で巻狩りを行いました。狩りという名目の軍事演習のようなものです。
旧暦5月28日、2017年の新暦だと6月22日、夏至の次の日に当たります。
頼朝の富士巻狩りの場において、所領争いのもめごとの末殺された父の仇討ちを行ったのが曾我兄弟。
仇の工藤祐経を討ち果たした艱難辛苦の物語が、歌舞伎の題材として赤穂浪士四十七士の忠臣蔵と並び、人気の演目となりました。
兄弟は、仇の工藤祐経を討ち果たし、その場で兄の十郎祐成は周囲の武士に討たれました。弟は捕らえられ、頼朝の前で工藤祐経の遺児によってたちどころに首を討たれる。
兄弟が潜伏中に、兄の曾我十郎祐成に愛された大磯の遊女虎御前。恋人の死を知って、泣き崩れた。この遊女の悲しい涙が伝説となりました。梅雨の終わりの時期、旧暦5月28日の曾我兄弟命日に降る雨を、十郎の死を悲しんで流す虎御前の涙とみなして「虎が雨」と呼ぶようになった、というお話。
親や主君の仇討ちをすることが武士の鑑とされた江戸時代、歌舞伎人気演目となったことによって、「虎が雨」の季語も愛されました。しかしながら、現代では、そもそも曾我兄弟の仇討ち話を知る人が少ない。
おそらくは、季節のことばとして愛用しているのは、俳人だけかもしれませんが、とにかく「虎が雨」で調べれば、土砂降りのごとく俳句が沸いてでてきます。たぶん、遊女の涙雨というのが、さまざまな連想を呼んで、色っぽくなるところが愛されるゆえんだろうと思います。
・海女が戸の牡丹ぬるる虎が雨 富安清風
・寝白粉香にたちにけり虎が雨 日野草城
・かりそめに京にある日や虎が雨 村上鬼城
・泣かれては泣かざるまでや虎ケ雨 中村草田男
・白き扉に海坂暮るる虎ケ雨 角川源義
虎が雨がふれば、そろそろ梅雨も終わりになります。涙をふいて、さ、夏に向かわねば、という気になる色っぽい雨。
さて、今年の梅雨はどんな具合に梅雨入りしてどんな具合に終わるのやら。
この空と海との間には、なにやら雲行き怪しいことばかり。「絶対安全」のはずの原子力で被爆者が出たり、ソンタクもなく、「官邸のトップレベルからのお達し」もなしに、官僚はせっせとだれかのために走り回る。
私は、あちこち不調で涙を流しておりますが、虎が雨といえるほど色っぽくはないので、はて、500もあるのに、どんな雨に濡れたらよいやら。
・虎が雨繕い物がまだ残る 春庭
・大磯で電車乗り換え虎が雨 春庭
<おわり>