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ぽかぽか春庭「古事記の発声」

2019-04-11 00:00:01 | エッセイ、コラム
201904011
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>令和(3)古事記の発声
 
 首相が新元号の元ネタとして「和書を出典にしたい」と表明したとき、日本書紀あたりかなあ、と推察した春庭、見事予想がはずれました。万葉集は和歌集であり、全部漢字で書かれているといっても、漢字を当て字として使う万葉仮名で書かれていますから、元号の漢字を選びにくいと思ったのですが、和歌の序文(漢文)からとは見抜けなかった。
 結局元ネタは中国古典の『文選』というオチが面白いので、春庭的には令和OK。

 前回コラムで「古来の日本語には、語頭が「らりるれろ」で始まる語はない」ということを、かって日本語学を学んだ者として申し述べました。
 中国語由来の語頭ラ行の語や外来語ラ行が増えた現代日本語でも、紙の辞書を見ればわかる通り、ラ行のページはごく薄い。

 韓国語朝鮮語では、語頭ラ行への抵抗大きく、中国語由来の語頭ラ行音は「ヤ行音」「ナ行音」に変換して発音します。中国語「龍ロン」は韓国語では「ヨン」。「林リム」は「イム」。「恋愛リェンアイ」は「ヨンへ」。路线(ル―シャン路線)は「ノセォン」。
 韓国語朝鮮語、母語の発音を曲げずに、なかなか頑固に発音保守派でした。語頭に濁音がくる語も受け入れません。

 日本語は語頭ラ行はすんなり受け入れました。たいていのことは素直に受け入れて、貪欲に他の文化を自家薬籠中に入れた日本語日本文化です。受け入れなかったのは、後宮の宦官と牡馬の去勢くらいかも。

 古来の日本語の発音、元は「濁音」が名詞の語頭に来ることも少なかった。外来語や漢語でなく、和語で濁音が語頭にくることばを辞書で探してみてください。和語の見出し語は、「どんぶり(丼)」や「ヅラ(カツラを短くした業界用語から)」くらいしか見つかりません。ダイコンは、もとは「大根(おほね)」と書かれていたものが音読みに変わったので、「和語の音読み」です。動詞由来の「出入り」は和語ですが複合語なので。

 日本語も縄文時代以来1万年の変遷を言えば、発音も変化し文法も変わり、語の意味も変化してきました。
 「万葉集」も「古事記」も、「ゆかしき日本語文」ではありますが、どちらも中国文化の影響を受けて成り立ったことはお忘れなく。

 日本文化が雑種文化であること、日本民族は雑種民族であること(出土人骨のDNA調査からも判明)を考慮しないで、「万世一系」だの「唯一無二の日本文化」だのと言ってほしくない。
 古代天皇家では半島百済からの亡命者などと大いにまじりあい、桓武天皇の生母が百済系渡来人氏族の和氏の出身、高野新笠であったのをはじめ、系譜には書かれていなくても半島系大陸系の系統が入っています。
 雑種万歳。

 ところで、「古事記」の時代、日本語発音はどのようであったでしょうか。当時の発音を録音した音声はどこにも残されていませんから、文字言語から推測するしかありません。
 今、ほぼ確実に言えるのは、現代日本語の「は行音」の語は、縄文時代には「ぱぴぷぺぽ」であったろう、ということ。春庭はパル二ファだったのではないか。

 古事記の発音について、興味深い演劇を観劇しました。
 「東京ノーヴィレパートリーシアター」が上演した『古事記』です。初演2014年6月試演、10-11月初演(シアターX)
 レオニード・アニシモフの演出、『古事記』のとき、私には違和感がいくつかありました。
 (以下の文章は2014年に書いたもの。友人K子さんには以下の内容を伝えましたが、ブログUPはひかえました。2019年、K子さんが劇団所属を離れたので、UPしても迷惑がかからないだろうと判断しました。)
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 アニシモフ演出への違和感。
 (1)役者が舞台に現れる最初、舞台上の出演者が全員同じ「仮面が張り付いたような笑顔」を作っていて、その「同じ顔のまま表情を変えない笑顔」が気持ち悪かった、という印象が残りました。
 おそらく埴輪の顔からインスピレーションを得た笑顔なのかと思います。この笑顔を、演出家が「日本古代のアルカイックスマイル」だとして表現しているのなら、それは違うんじゃない、と感じました。

 (2)発声法への違和感がありました。この発声法は、アニシモフによる「古代の人々は命がけで声を出していた」という解釈なのだと、劇団HPに出ていました。有気音を強調した、息を思い切り吐き出す発声です。

 日本語には縄文時代の日本語。古代の日本語であっても、有気音はなかった、と、私は、思います。漢字伝来後に、中国語の有気音が伝わった可能性はあり、筆録した太安万侶には有気音の知識はあったかもしれません。しかし、稗田阿礼は、口承で古事記を伝えたのです。稗田阿礼の口承には、あのように息を吐き出す発声法はなかった、と思います。

 テープレコーダーもない時代の発音がわかるのかと言われれば、確かに音の直接の記録媒体はありません。実音はわからないことなので、どのように発音をイメージするのも自由です。が、古事記筆録の仮名の選び方を見ると、太安万侶レベルの知識人なら、もし、有気音があったのなら、かならずその発音を区別した筆録をしたはずです。渡来系の人々は、母音を8つに聞き分けていたのですから、有気音無気音の区別も聞き分けていたと思われるのです。

 (万葉集&古事記の8母音については、橋本進吉の著作をご参照ください。私は、3母音だった縄文時代日本語が、朝鮮半島の発音の影響によって、都の居住者&識字階級のみ8母音に変化→しだいに4母音(東北地方)5母音(関東関西九州)に落ち着いた、という説に賛同しています。(八重山諸島では近年まで3母音)

 アニシモフさん演出の「古事記の時代の発声」は、咽喉閉鎖音、声門閉鎖音も使用する発声でした。(のどに痰がからまったとき、ガーッペッと吐き出すときの、喉の形「ガーッ」を思い浮かべてください)
 私には、それが「古代の発音」などには全然思えませんでした。

 有気音や声門閉鎖音を使う日本語とは、アニシモフさんの思う古代日本です。私は、古代でも、あのような発声法はしなかった、と感じましたが、それはたぶん、古事記への私の入れ込み具合があるので、ロシア人アニシモフさんとは感覚がことなるからだろう、と思いました。(最初の大学での卒論は『古事記』)

 アニシモフさんは、ロシア語翻訳で『古事記』を読み、台本は、セルゲイ・ズーバレフ『豊葦原の国から』と、鎌田東二『超訳古事記』からの抄出。

 (シアターXでの『古事記』試演会後、アニシモフさんと鎌田東二のトークショウを聞きました。しかし、このときのお話でも、私との間隔のずれは、解消されませんでした)
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20190409
 K子さんに話した演出家の演出方法への違和感。なぜUPしなかったのかというと。こんな辺境の読む人少ないサイトでも、万が一「演出家にケチつけた文章」を書いたのがK子さんの知り合いとわかって、K子さんに迷惑が及んだらいやだ、と私が思ったから。こういうのを「気づかい」と呼ぶか「忖度」と呼ぶのか、わかりませんが。
 K子さんが所属の劇団第2スタジオを退団する、ということになり、もう忖度必要なし。

 忖度で思い出すこと。
 「令和」が官房長官によって記者団に発表される前、春庭は11時半に中国ネットから知った、と書きました。
 閣議終了が11時25分。発表は11時41分。この「空白の数分」の間、天皇&皇太子へ新元号を知らせる時間が必要でした。国民への伝達より、天皇皇太子への伝奏をを優先するために数分間のタイムラグが必要だったのです。
 そして、そんなお上への忖度はまったく気にしないところから、漏れた内容がさっそく中国ネットで拡散した、ということ。

 一般の発表より前に知ったからといって、令和が価値を高めるということもなし。私としては、あれほど漏洩に気をつかって、考案者の名もまだ発表していないのに、おそるべし中国ネット、と思った次第。
 いろんなこと、ダダ漏れなんじゃないかい。日本政府のセイフティガード、脆そうだ。

 いまどきの忖度。
 本州と九州を新たに結ぶ「下関北九州道路」(下北道路)の事業化調査をめぐり、国土交通副大臣の塚田一郎氏は、安倍晋三首相と麻生太郎副総理の地元事業と紹介した上で、「国直轄の調査に引き上げた。私が忖度した」と語りました。現職議員が首相と大臣のために利益誘導したことを得意げに語るのもびっくりですが、とがめられるとすぐに陳謝。発言撤回しました。首相には塚田議員を罷免する気なかった。忖度、いつものパターンですから。
 撤回する前に言ったことのほうが事実だと思います。ようやく辞任がきまりましたが、令和で上がったという支持率、どうなりますか。

 令和の英語訳は「beautiful harmony」だそうですが、保守党内、みなで美しく調和しちゃってますね。「美しい国」というのは、「皆で忖度しあって首相のご機嫌取りをする国」のことであるらしい。

<つづく>
コメント
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