
20210427
ぽかぽか春庭シネマパラダイス>ステイホームじゃないシネマ(4)パピチャ
「パピチャ」は、2020年10月日本公開のアルジェリア映画。ムーニア・メドゥール 監督が、子供時代をすごした1990年代のアルジェリアの女性たちを、自身の体験をもとに脚本を書き、全編アルジェリアロケで撮影しました。
「 パピチャ 」とは、アルジェリアのスラングで「 愉快で魅力的で、常識にとらわれない自由な女性 」という意味なんだそうです。江戸時代の「おきゃん」昭和初期の「おちゃっぴぃ」に当たるでしょうか。
第45回セザール賞新人監督賞を受賞。また、主演のリナ・クードリが有望若手女優賞を受賞。しかし、本国では当局によって上映が中止され、いまだ公開には至っていません。そのため、「本国での公開が条件」という米アカデミー外国語映画賞に応募できないところでした。特例として外国語作品賞にノミネートされたのはよかったけれど。
イスラム原理主義者などによるテロの恐怖や女性への締め付け(女には教育不要、顔を覆うヒジャブをつける「正しい服装」の強要など)を経験したのち、ムーニア監督は、 両親に伴われてフランスにのがれ、フランスで教育を受けました。しかし、アルジェリアに残らなかったことをずっと悔やんでいたのだそうです。映画は、アルジェリアに残ることを選んだネジュマを主人公に、暴力や宗教的抑圧のなかで生き抜く女性たちを描いています。
以下、ネタバレ含む紹介です。
フランスから独立し、政治的には自由になったはずでしたが、イスラム教による宗教抑圧は、植民地化のアルジェリアよりさらに強く女性たちを押さえつけています。
女子大生ネジュマは、女子寮での生活を謳歌しようとしますが、門限を守らないことで、門番にレイプされそうになったり、ネジュマの親友ワシラは「正しい家庭の女性となら結婚できるが、親の目の届かない女子寮に暮らす女などとは結婚できない」というボーイフレンドに悩んだり。
ネジュマの夢は、思い通りの服を作り、売ること。現在できるのは、寮で作った服を、町のナイトクラブのトイレで女性たちに売ることくらいです。世界中の女性に自分の作った服を着てもらいたい、という夢が実現できる望みは、、、、
真実を伝えることを仕事にしたネジュマの姉は、テロに遭います。女性が社会に出て働くことを許さない宗教上のおきては、まだ社会からなくなっていないのです。
ネジュマは、大学寮でファッションショウを実施し、自分の服を皆に見てもらうことをあきらめません。
親友ワシラ(シリン・ブティラ)との仲たがいなど、さまざまな障害を乗り越えて、ファッションショウが開かれます。
ランウェイを歩く晴れやかなネジュマの友達。ネジュマが伝統的な布地ハイクを使ったデザインです。しかし、内部だけの公開だったはずのショウなのに、悲劇が待ち構えていました。
ラストは、ネジュマの友達アミラ(イルダ・ドゥアウダ)の「未婚の出産」をネジュマが「いっしょに育てよう」と励ますシーンで終わります。イスラム圏で未婚出産をする「恥ずべき女」は、父親か兄に「一族の恥さらし」として殺されてしまうかもしれない立場です。
パキスタンから「女性にも教育を受けさせて」と主張して銃撃されたマララ・ユスフザイ の例は、目に見える暴力でわかりやすい。しかし、女性への抑圧は、目には見えずとも世界中に根深く、住む家、仕事、服装、結婚の自由など、基本的な人権が守られていない国も多い。
自由なように見えて、女性の地位の低さは世界で150か国中124番目という日本。教育や健康管理の面では世界でもトップクラスなのに、女性議員や政治家、会社のトップになる人数が極端に少ないために、女性地位全体では日本は低位置にとどまっています。
日本の女子大生たちの本音。
一流大学を卒業して一流企業に就職するのも、一流の男をつかまえて、セレブ主婦になるため。苦労して男社会の中で仕事をしても、しょせん下働きで終わる。それよりは、結婚相手を「支える」ほうが、はるかに手に入れるものが大きい、とシレっとインタビューに答える女子大生を見ていると、戦後民主主義の時代に「これからは女性も活躍できる時代。自分の力で将来を切り開いていこう」と、育てらえた私たちの世代はなんだったのかと感じます。
戦時中、「パーマネントはやめませう」「贅沢は敵だ」と叫んで町内をパトロールしていた女たち。彼女たちにとっては、モンペを履くことが正義だった。パピチャのなかで「ヒジャブをつけた正しい服装」を強要する女性たちの姿が重なりました。
「パピチャ」がアルジェリア国内で上映禁止になったということは、まだこの国の女性たちが置かれた立場は変わっていないのだろうなあと思います。
女性だけでなく、弱い立場に置かれた人々がすべての抑圧から解放される世界はまだまだ遠い未来なのでしょうか。
それでも、私たちは、好きなファッションを身に着けて、未来を見据えてランウェイを胸を張ってすすんでいかなければなりません。ランウェイの先が光の中に輝いていない現在だとしても、あきらめるな、世界の女性たち。Old feministより、愛をこめて。
(私の好きな服装は「夏は裸でなければよし、冬は寒くなければよし」ですが)
<おわり>