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ぽかぽか春庭「82年生まれキムジヨン」

2021-04-22 00:00:01 | エッセイ、コラム

20210406
ぽかぽか春庭シネマパラダス>2021ホームステイじゃないシネマ(1)82年生まれキムジヨン

 娘といっしょに久しぶりに映画館で映画を見たのは、3月10日。入り口で体温測定とアルコール消毒をして入場。映画館飯田橋ギンレイは、椅子は一つおき、2本立ての休憩時間は15分。その間スクリーン脇のドアを開けて換気。休憩時間に椅子の肘掛けも丁寧に拭き取っていて、安心安全を心がけています。
 緊急事態宣言が2週間の延長となったあとでしたが、この日出かけたのは、私が受けたPCR検査の結果、コロナ陰性と判明したお祝いのお出かけ。

 娘はほとんどの時間を家に籠もってすごしていますが、私は片道90分の電車通勤を続けています。電車は換気をしているし、乗客は全員マスクをしていますが、隣の席とくっつきあって座っています。熱もなく咳もない無症状でしたが、無症状でも陽性の場合もあるというので、安心するためには、陰性であることを確認しなければ。病身の娘と暮らすためには、私がコロナ菌なぞとは無縁であることが必須。もともと持病持ちの古稀婆ですから、万が一コロナ感染していれば、一気に重症化の恐れがあり、入院とでもいうことになったら困りますから、用心用心。クリニックに予約して、3月6日にPCR検査を受けました。3月7日に陰性判定の通知を受けました。1度の陰性反応で安心はできませんが、東京都では65歳以上へのワクチン接種も4月から始まるというので、3月中に陰性判定を受けていれば、ひとまずよかった、という気持ち。

 娘は83年生まれ。国も違うし結婚もしていない娘ですが、私の「陰性判明祝い」として「82年生まれのキムジヨン」を見ることにしました。
 日本では2020年10月9日に公開された『82年生まれキムジヨン』
 ブログ友のまっき~さんからお勧めがあったのち、ずっとギンレイにかかるのを待っていました。

 原作は、韓国の作家チョ・ナムジュの自伝的小説(原題:82년생 김지영)。
 キム・ジヨンは33歳の主婦。82年に生まれ、韓国で一番平凡なキム・ジヨンという名を持つ。しかし、出産後専業主婦となってから子ども時代から感じてきた女性の生きづらさに追い詰められていきます。
 小説はジヨンが精神科医に語った、就職、結婚、出産という生い立ちに、その当時のさまざまな統計資料を並列して進みます。

 映画には統計資料は出てきませんが、韓国の男性中心主義社会の有様は細かい描写によってよくわかります。ジヨンの父親の子どもたちへの土産が、上の娘二人にはノートで末の息子にだけ万年筆だったとか。
 以下ネタバレ含む紹介です

 ジヨンの実家の母親は、兄たちの進学を支えるために自分を犠牲にしてミシン工場で働き続けた生い立ちから、長女にも次女にも教育を与え、ジヨンの姉は独身の教師として自立しています。書くことが好きだったジヨンは、作家か新聞記者に成りたかったのですが、安定した職業につくことを父に求められ、広告代理店に就職して有能な社員として働くことに。
 ジヨンの上司は女性。結婚していますが、実家で暮らし、家事と育児は母親任せ。男性以上の働きでチーフ長までなりましたが、ガラスの天井にぶつかり、退社。小さな代理店を立ち上げます。

 ジヨンの有能さは認められても、新しいプロジェクトには、選ばれませんでした。ほかの男性社員が抜擢されたからです。
 ジヨンは結婚出産という「女の幸福定番コース」に落ち着きます。しかし、家事と育児の生活の中、しだいに閉塞し、時々別人格になるという症状が出るようになりました。この症状に本人は無自覚ですが、夫は気づき精神科受診を進めました。 

 韓国社会では、男性が育児休暇を取って、会社復帰したら自分のデスクは無くなっているという状態。それでも、夫は育児休暇を取って、元チーフ長の新会社に再就職しようとする妻を支えようとしますが、夫の母親は、息子が出世できなくなってしまうと激怒。ジヨンの精神状態を実家の母にバラします。母は自分がジヨンの近くに引っ越して、家事育児を手伝おうとします。しかし、家事がまるでできない夫と末の息子を残すのも難しい。

 ベビーシッターが見つからなかったことで、再就職を一旦はあきらめ、ジヨンはカウンセラーに会い、自分の生い立ちを文章にしていきます。弟が贈った名前を刻んだ万年筆で。

 ヒラリー・クリントンの大統領選挙敗北演説は、世界の女性史に残る名演説となりました。
 ガラスの天井を打ち砕く「未来の女性たち」にかけられた言葉から4年。

 まだまだガラスが厚さを増している社会も多い。
 日本では、「女性が加わると会議が長くなる」と発したために、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長がやめることになり、女性が会長になり、委員会の40%を女性にするという改革が加えられました。

 しかしながら。主要150カ国の「男女格差ランキング2020」で、日本は121位。トップ10はアイスランド、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、ニカラグア。アジアの下位国は。中国は106位、韓国は108位で、まだしも日本より上。

 108位の韓国女性が「82年生まれキムジヨン」で男女差別の息苦しさに声を上げたのに対して、121位の日本ではこの先も「無理して男女同じように働かなくてもいいんじゃね。整形もメイクもがんばって高収入男をつかまえたほうがラク」という価値観がひっくりかえるとは思えません。育児休暇からの復帰社員のデスクが消えて無くなっているというようなわかりやすい差別は表向きだけなくなっても、社内出世競争から後退してしまうことは、その後の昇進ではっきりする。ときには子会社出向とかが待っている。

 コロナで仕事を失う人の中、一番多いのはパートやアルバイトで飲食店などで働いてきた女性たち。店の閉店などで仕事を失い、「夫や子どもに影響しない範囲」で働いた層やシングルマザーに最も影響が大きかったそうです。
 春庭も、勤務先の財政悪化により、給与2割カット支給となりましたが、1日14時間拘束(労働8時間サービス残業1時間、昼休憩1時間、通勤4時間)は変わりなく、働いています。
 それでも私がジヨンのような息苦しさを感じることが他の女性より少なかったのは、低収入の仕事であっても、自分自身が望んで働いてきたからかもしれません。

 韓国でも日本でも、女性が自分の希望する人生を選び取ることができるよう、社会全体のガラスの天井がうち破られる日、それを見届けたいと思っています。

<つづく>
コメント (2)
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