20240326
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>2024にほんごでどづぞ(7)変わる変われば変わります
春庭のコラム、日本語について書いたものが多く、くりかえし同じことを主張しています。「変わっていくのがことば」ということです、
3月中は、過去ログ再録を続けています。今から19年前の2005年の「変わりゆく日本語」も、同じことをくだくだと述べています。変わりゆく日本語という主張に対して、自分の文体も主張もさっぱり変わり映えがないことを自覚しつつの再録です。
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2005/01/11(火)
「ニッポニアニッポン語>動詞の用法も変わる①」
昨年暮れのこと。商店街の屋台で焼き鳥を買った。
客はそれぞれ「うち、レバーとハツ5本ずつ」などと注文して、寒風ふきぬける通りで焼き上がるのを待っている。焼き鳥屋のおばちゃんは、待ち時間サービスのつもりか、愛想良くおしゃべりを続ける。
「いやぁ、うちにもついに来たんよ。ほら、あのオレオレっての。娘が交通事故を起こしたって、男が電話してきてね。娘、電話で泣いてんのよ。うひゃぁ、って、おろおろしてたらさ、そこに娘が帰ってきたの。
あ、オレオレじゃなくて、振り込みって名前になったの?え、振り込め詐欺?なんだかわかんないけど、とにかく娘がちょうどよく帰ってこなかったら、ひっかかってたよ」
実害がなかったせいか、「流行におくれることなく、世間の話題に入れた」というノリで、おばちゃんは「振り込め詐欺未遂事件」を語る。
「オレオレ詐欺」から「振り込め詐欺」に名称変更して、ますます手口は巧妙になっているらしい。正式な裁判所の小額訴訟制度を堂々と利用した新手の手法も出てきた。お気をつけください。
手口が巧妙化するテンポにあわせて「振り込め詐欺」という名称も一般に浸透してきたようだ。しかし、詐欺には引っかからなくても、この名称に引っかかった人もいる。
私も最初耳にしたとき「おっ!」と思った。人目をひく、新しい語法だったから。
何が新しかったかというと。
詐欺を修飾する「振り込め」は「振り込む」という動詞の命令形(仮定形も同形)だ。詐欺犯が振り込み先の銀行通帳を指定する。「どこそこ支店の何番へ振り込め」と命じて、まんまと振り込ませる。
この詐欺のやり方がぴったり表現されていたせいか、新しい語法が耳目を集めたせいか、新名称の浸透速度は速い。
他の語を修飾するために動詞が用いられるとき、もっとも一般的な活用形は連用形(日本語教育では「マス形masu-form」として扱う)がくる。
動詞の連用形(マス形)は、「行き帰り」「ブラブラ歩き」など、そのままの形で名詞として用いられる(連用形名詞)。修飾語としても連用形名詞が使われる。
新年に提出した動詞「走る」「笑う」「書く」を例に挙げれば。
「幅跳び」をするとき、助走をつけて走って跳躍するのは「走り幅跳び」。「走る幅跳び」「走れ幅跳び」とは言わない。
簡単な使われ仕事に走り回ることやそれを行う人は「走り使い」。笑いだしたら止まらない人を「笑い上戸」。面白い話は「笑い話」。新年に初めて筆を用いるのは「書き初め」漢字を書く順番は「書き順」。「この順番通りに書け」と、漢字を教える先生が命令しても「書け順」とは言わない。
今回の詐欺事件。「オレオレ!オレだよ」と、家族知人になりすます手口が巧妙化した。最終的に、犯人は「○○銀行に振り込め!」と命じる。そこで「振り込め詐欺」と命名された。
以下、この「振り込め詐欺」という名称についての賛否両論を解説し、日本語教師春庭はこの造語法に反対はしないことを述べる。
「ニッポニアニッポン語>動詞の用法も変わる①」
昨年暮れのこと。商店街の屋台で焼き鳥を買った。
客はそれぞれ「うち、レバーとハツ5本ずつ」などと注文して、寒風ふきぬける通りで焼き上がるのを待っている。焼き鳥屋のおばちゃんは、待ち時間サービスのつもりか、愛想良くおしゃべりを続ける。
「いやぁ、うちにもついに来たんよ。ほら、あのオレオレっての。娘が交通事故を起こしたって、男が電話してきてね。娘、電話で泣いてんのよ。うひゃぁ、って、おろおろしてたらさ、そこに娘が帰ってきたの。
あ、オレオレじゃなくて、振り込みって名前になったの?え、振り込め詐欺?なんだかわかんないけど、とにかく娘がちょうどよく帰ってこなかったら、ひっかかってたよ」
実害がなかったせいか、「流行におくれることなく、世間の話題に入れた」というノリで、おばちゃんは「振り込め詐欺未遂事件」を語る。
「オレオレ詐欺」から「振り込め詐欺」に名称変更して、ますます手口は巧妙になっているらしい。正式な裁判所の小額訴訟制度を堂々と利用した新手の手法も出てきた。お気をつけください。
手口が巧妙化するテンポにあわせて「振り込め詐欺」という名称も一般に浸透してきたようだ。しかし、詐欺には引っかからなくても、この名称に引っかかった人もいる。
私も最初耳にしたとき「おっ!」と思った。人目をひく、新しい語法だったから。
何が新しかったかというと。
詐欺を修飾する「振り込め」は「振り込む」という動詞の命令形(仮定形も同形)だ。詐欺犯が振り込み先の銀行通帳を指定する。「どこそこ支店の何番へ振り込め」と命じて、まんまと振り込ませる。
この詐欺のやり方がぴったり表現されていたせいか、新しい語法が耳目を集めたせいか、新名称の浸透速度は速い。
他の語を修飾するために動詞が用いられるとき、もっとも一般的な活用形は連用形(日本語教育では「マス形masu-form」として扱う)がくる。
動詞の連用形(マス形)は、「行き帰り」「ブラブラ歩き」など、そのままの形で名詞として用いられる(連用形名詞)。修飾語としても連用形名詞が使われる。
新年に提出した動詞「走る」「笑う」「書く」を例に挙げれば。
「幅跳び」をするとき、助走をつけて走って跳躍するのは「走り幅跳び」。「走る幅跳び」「走れ幅跳び」とは言わない。
簡単な使われ仕事に走り回ることやそれを行う人は「走り使い」。笑いだしたら止まらない人を「笑い上戸」。面白い話は「笑い話」。新年に初めて筆を用いるのは「書き初め」漢字を書く順番は「書き順」。「この順番通りに書け」と、漢字を教える先生が命令しても「書け順」とは言わない。
今回の詐欺事件。「オレオレ!オレだよ」と、家族知人になりすます手口が巧妙化した。最終的に、犯人は「○○銀行に振り込め!」と命じる。そこで「振り込め詐欺」と命名された。
以下、この「振り込め詐欺」という名称についての賛否両論を解説し、日本語教師春庭はこの造語法に反対はしないことを述べる。
<つづく>