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ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>2024にほんごでどづぞ(8)動詞も変わる③
春庭日本語コラムの再録をつづけています。
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2005/01/14(金)
「ニッポニアニッポン語>動詞の用法も変わる④」
ことばに変化があり、それを大半の人が受け入れるなら、新語法として定着する。変化の流れは、その語を使用する人々の意識によって決まる。
「ラ抜きなんて正しい日本語じゃない」と、いくら正統日本語を主張する人がいようと、流れは止められなかった。受身形と可能形を区別できたほうが、便利だったから。
「ラ抜き可能形」の発生と定着は、まさに現在自分が生きて生活している間の変化。目の前で起こり、進行していった動詞の形の変化だった。このような言語変化を観察できて、「ありがたい」こと。
「動詞命令形+名詞」という複合語について「これは正統な複合語じゃない」と、いくら糾弾しても、使う人々が「あ、この表現はぴったりだな」と感じれば、定着する。「押しつけられても、こんな表現は使いたくない」と、大多数の人が感じたのなら、別のことばに置きかわる。
「外来語を減らしましょう」の指導のもと、「日帰り介護」と言い換えられたデイケア。
今、街のなかに「デイケアセンター」は見かけるが、「日帰り介護中心」という看板を掲げた施設を、私は見たことがない。
「命令形動詞+名詞」複合語がさらにふえるのかどうかは、今の段階ではわからないけれど、人々が「この表現はうまいこと言葉の中身を表わしていて、ぴったりだ」と感じれば、さらなる変化が起こるににちがいない。
禁煙用タバコ「ヤメロたばこ」とか、学校の読書指導で無理矢理読まされる「読め本」など、ありえる?それともアリエネー?
「振り込め詐欺」は「まあ、これでいいんじゃない」と感じる人が多ければ定着する。この語を使いたくない人は「最初はオレオレ詐欺と呼ばれていた、被害者にお金を振り込ませる手口の詐欺」と言えばすむ。ちょっと長いけど。
2005/01/15(土)
「ニッポニアニッポン語>新しい動詞ボキャブラリ」
動詞語彙の変化について。
「言葉はどんどん変化する」ということのついでに、新しい動詞語彙について。
新しくふえた動詞は、外来語からの転用が多いが、もとからある語を省略した動詞や、元の語を変化させた動詞もある。
「○○する」という言い方なら、「ゲットする」「ダッシュする」「プレイする」など、いくらでも動詞にできる。活用は「する」と同じ。日本語教育では第3グループ動詞。(国文法でいうサ行変格活用、サ変)。
「げっとする」は、20代10代以下の世代に定着し「手に入れる」という語などより多く使われている。「ポケモン、ゲットする」あたりから流行しだした語が、10年ほどで定着した。
「~する」という言い方の動詞は、今後もどんどん増えていくだろう。
「さぼる」「だぶる」のように、定着し辞書に「俗語」として搭載されている語もある。こちらは、第一グループ動詞(国文法のラ行五段活用動詞)
若者は、「さぼる」を、元からある日本語だと思って「今日、授業さぼった」という。すでに俗語ですらなく、「日本語」として定着している。「さぼる」を使わず、「授業をなまけた」「授業を遊びのためにやすんだ」などと言う若者は皆無だろう。英語由来のカタカナ動詞が多いなか、「さぼる」はフランス語由来。
「彼は高校時代に留年している」ということは「彼、高校だぶってる」のように言う。
サボる:仕事や授業など、決められた課業をしないですごす>サボタージュ(フランス語sabotage)から
ダブる:同じものが二つある。留年して、同じ学年に二年続けて在籍する>ダブル(double)から
トラブる:何らかのもめ事が起こる。こまった事態に陥る>トラブル(trouble)から
ググる/グーグる:検索サイトを使用して調べる>インターネット検索googleから
パニクる:混乱状態の中で、驚き慌てて冷静な行動ができない>パニックから
ネグる:意図的に無視して傷つける>ネグレクトから
パクる:他人が作った作品をまねする
コクる:好きな相手に自分の気持ちを告白する
テンパる:もう一歩で物事が成就する前の、余裕のない緊張した状態になる>テンパイ(麻雀用語)から
これから流行し、定着するかもしれないラ行第1グループ動詞。
ブログる:インターネットに日記を書き込む
ロムる:ネットに書かれている文章を(コメントなどを残さずに)読む専門
コラボる:共同作業、共同事業をする>コラボレーションから
私はまだ、耳にしたことがないが、関西では若者が「笑う」とは別の語として使い分けているという「笑ける」という語。あきれはてたりしらけたりして、いう言葉も見つからず、笑うしかないというときに使うそうだ。「笑う」と「しらける」の合体語だろうか。
「そんなこと言うなんて、なんてこった。もう笑ける」
「お笑い」やテレビから発生した語は、若い世代への浸透速度が速い。また、関西発生の語が全国に広まるのも早い。私の周囲で「笑ける」という語を聞くのも、まもなくかもしれない。
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20240330
2003年にブログをはじめてから、2003年中は読んだ本について書きました。2004年から日本語学と日本語教育について書き続けて20年。コラムの再録を続けてきて、まあなんとも20年間、くりかえし同じことを描き続けてきたものだと思います。日本語教育にかかわることから引退しましたが、日本語母語話者である限り、日本語からは離れることはないわけですから、今後も日本語について考え、書いていきたいと思います。
また、再録がつづくかもしれませんが、思い出に生きるようになるのが、老人の特権です。
<おわり>