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ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>2024にほんごでどづぞ(10)動詞の用法も変わる②
春庭日本語コラムを再録しています。
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2005/01/12(水)
「ニッポニアニッポン語>動詞の用法も変わる②」
湯を飲むための茶碗は「湯飲み茶碗」。人が飲む水は「飲み水」といい、「飲む~」という表現は「赤ちゃんが飲む水」「毎晩飲むビール」などの形で用いられていた。
液状の水剤も固形の錠剤やカプセル粉薬も、口から飲む薬は「飲み薬」。「飲む薬」ではなかった。
広告などでは、いつも人目をひく新鮮な語が次々を登場する。
固形ヨーグルトに対して液体ヨーグルトが発売されたとき「飲みヨーグルト」ではなく「飲むヨーグルト」として発売され、今では「液状ヨーグルト」などと言う人はあまりいない。「飲むヨーグルトが好き」など、一般的な表現になっている。
ヨーグルトに関しては固形ヨーグルトに対して、液状ヨーグルトは「飲みヨーグルト」ではなく、「飲むヨーグルトが好き」という表現が選ばれた。
働きつづける蜂は「働き蜂」。その造語法でいくと、自動的に動き続けて、歩行者が歩かなくてもよい舗道は「動き舗道」となるはずだが、広まったのは「動く舗道」。「東京駅で京葉線に乗り換えるとき、動く舗道を使った」などという。
動詞を修飾語として用いるのに、「飲み水」「振り込み先」など「マス形動詞+名詞」が一番多く、人目を引く表現として基本形(注1)を修飾語にした「飲むヨーグルト」「動く舗道」がある。
さらに、今回、新表現として「振り込め詐欺」が出てきた。動詞命令形を修飾語にした名詞。
なじみのない表現が出てくれば、必ず「こんな言い方は日本語にはない。この表現は日本語を破壊するものだ」という意見が出される。2005/01/05の朝日新聞投書欄にさっそく掲載されていた。
「取り込み詐欺」という名詞はOK。連用形+名詞だから。投書氏は「なりすまし詐欺」がよかったと、広島県警の造語例に賛成する。しかし、「なりすまし詐欺」では、従来の「有栖川宮になりすました祝儀金詐取事件」とか、「エリザベス女王のいとこになりすました結婚詐欺」などとの違いがわかりにくい。
投書氏は「動詞の命令形と名詞の組み合わせで複合語ができるなどという前例を作らないでもらいたい」と、日本語破壊をなげく。
しかし、言語表現というのは、常に破壊と変化が作り上げるものなのだ。清少納言が枕草子の中で「近頃のことばづかいの乱れはひどい」と嘆き、古代バビロニアの粘土板に「最近のワカイモンの言葉はなっていない」と憤慨した文章があるように、太古の昔から、「この新しい表現は、私が知っている正統な言葉からみると、乱れている」という年長者のなげきに出会わない言語はないのだ。<つづく>
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もんじゃ(文蛇)の足跡
古典日本語文法の上二段下二段活用カ変サ変の動詞。「終止形」「連体形」は、別々の形だった。(例: 水、器に溢(あふ)る。溢(あふ)るる水。人、老ゆ。老ゆる人。)五段、一段動詞の連体終止形は古典日本語でも同形。
しかし、現代日本語ではこのふたつの形に区別はないので、日本語教育では終止形連体形ふたつをいっしょにして「基本形」または「辞書形」として扱う。
<つづく>