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ぽかぽか春庭「リスケしらずの一豎子」

2024-09-19 00:00:01 | エッセイ、コラム
20240919
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>2024ことば新旧(2)リスケしらずの一豎子

 山本翁は、向田邦子の語彙の選び方がお気に入りである。向田の語彙は、東京遊学時代に身を寄せた下町の祖父母の語彙だ。向田が風呂上りと言わず湯上りと書くのを翁はよしとする。

 山本翁はフィクションと書かずに「絵そらごと」という。虚構という漢語もふさわしいと思えないという。昨今のカタカナことばが席巻する「日本語文章」を目にしたら、なんと嘆くだろうかと思いつつ、初お目見えのカタカナ語があるとせっせと意味を調べる。
 はやりものだから、十年後に定着している語はそう多くない。十年後に世に定着したら使えばよいと思い、調べただけですぐ忘れる。私はビジネスに弱いので、リスケ(リスケジュール=予定変更。、「日程の組み直し」や「納期の延長」)を知りませんでした。和製カタカナ語なので、10年後には残っていたらおなぐさみ。

 春庭の10年後定着予報。すぐにすたれるネット用語のうち、すでに「古い」と言われながらも使われ続けている語です。

・「バズる」
 SNSやインターネット上で話題となり、多くの人の注目を浴びることを意味する。
 
・「ディスる(disる)」
 英語の”Disrespect”からきており、批判したり悪く言ったりすることを指す。根拠なしの批判でも、ディスる、として軽い気持ちで悪口を拡散する。

・「エゴサ(ego serch)」
  自分自身について検索する。

・「ステマstels marketing」
  偽の口コミ等で宣伝や印象操作を行うこと。これから先ますます巧妙なステマに。

・クラファン(crowd funding) 
 不特定多数の賛同者から集める資金

・サステナ(Sustainable)
 持続可能な

・レス(response)
  英語の「反応」や「返事」が、「レス」と省略することで、日本独自の意味が加わり、「その後の対応」 までを含む和製語に進化。

・エビ(デンス)evidence 
 英語のevidence根拠、証拠の意味から、和製カタカナ語になると「ビジネスを保証する裏付けの存在」として使われる。

・アポ(イント)appointment 
 ビジネス上の面会約束。

・コンプラ(イアンス)
 「法令遵守」 10年前には考えられなかったほど急激にビジネス社会に浸透し、コンプラ取り扱いを間違えると社運傾く。

 山本翁なら「法令遵守と言えばよいものを、なぜゆえコンプラなどとカタカナで!」と、お怒りだろう。従来の法令遵守では収まりきらない何事かの微妙な含みがあるゆえのコンプラ化なのでしょう。

 その微妙さとは。
 対外的に「わが社はきちんと法令を守っています」という姿勢を見せることが大事で、マスコミ相手一般社会相手に法令順守に見えればよいのであって、見えないところではどんなごまかしが行われているかわかったもんじゃない、と多くの人が感じるゆえの、コンプラなんだろうと、私は解釈しています。

 春庭が追いつく前にすたれていくカタカナ語も多いことでしょうが、山本翁には「ごめん。春庭は、にほんご知らない豎子にして、、、」と、謝っておく。山本翁は「いやいや女子供の言うことなど歯牙にもかけぬ」と鷹揚取り扱ってくれると思います。が、女子供なんて語を使うと、翁社長のインテリア雑誌『室内』はたちまちコンプラで大騒ぎ。廃刊必至、、、、。いやいや2006年に通算615号目 で休刊していました。

 翁なきあとも、世はつぎつぎと移り変わり、翁嫌うところのカタカナ語はますます世にはびこり、千年前の日本語が、今の世の日本語話者の大多数に通じないのと同様に室内の日本語も理解されないものとなりましょう。

 では、千年前の「室内」描写をどうぞ。(句点読点は後世の付け加え)。華麗にしつらえられた室内を思い浮かべつつ、千年前を味わってくださいませ。

 こなたは住みたまはぬ対なれば、御帳などもなかりけり。惟光召して、御帳、御屏風など、 あたりあたり仕立てさせたまふ。御几帳の帷子引き下ろし、御座などただひき繕ふばかりにてあれば、東の対に、 御宿直物召しに遣はして、大殿籠もりぬ。若君は、 いとむくつけく、いかにすること ならむと、 ふるはれたまへど、さすがに声立ててもえ泣きたまはず。
少納言がもとに寝む
とのたまふ声、 いと若し。 
今は、さは大殿籠もるまじきぞよ
と教へきこえたまへば、いとわびしくて泣き臥したまへり。 乳母はうちも臥されず、ものもおぼえず起きゐたり。 明けゆくままに、 見わたせば、御殿の造りざま、しつらひざま、さらにも言はず、庭の砂子も玉を重ねたらむやうに見えて、 かかやく心地するに、 はしたなく思ひゐたれど、こなたには女などもさぶらはざりけり。け疎き客人などの参る折節の方なりければ、男どもぞ御簾の外にありける。  
人なくて、 悪しかめるを、さるべき人びと、夕づけてこそは 迎へさせたまはめ とのたまひて、対に童女召しにつかはす。「 小さき限り、ことさらに 参れ」とありければ、いとをかしげにて、四人参りたり。 
君は御衣にまとはれて臥したまへるを、せめて起こして、 かう、心憂くなおはせそ。すずろなる人は、 かうはありなむや。女は心柔らかなるなむよき 。

 今をときめく光源氏が幼い若紫を秘密に盗み出して(幼女誘拐!)、自邸の室内をしつらえるようすの段です。千年前の日本語でも日本語として理解できるのがうれしいが、千年後に「21世紀の日本語」は大方の人の理解できない言語になっていると思われる。三百年後に「日本人」の人口は「最後の一人」だそうだから、千年後の日本語を心配することはないのであるが、ローバ心失わないのが老婆である。

 老婆が五島美術館で見た源氏物語絵巻より「御法」。幼子だった若紫は最晩年を迎えています。絵巻は紫式部の執筆時より150年たっていますが、室内のようすはあでやかにわかります。


<つづく>
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