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ぽかぽか春庭「漢字読み方の変化 誤読→慣用読みその2」

2024-09-22 00:00:01 | エッセイ、コラム
20240922
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>ことばの新旧(4)漢字読み方の変化その2

 2005年の春庭コラム再録です。
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2005/02/02 (水)
ニッポニアニッポン語>みんなで間違えばこわくない・誤読→慣用読み②

 「撒水(さっすい)」の誤読についてコメントをいただいた。(投稿者:a****** (2005 1/25 18:25))
 『昔、ある漢文の先生に教わった言葉を思い出しました。
 「水を撒(ま)く」の名詞:撒水(さっすい)を「散らす」の音と間違えて(さんすい)と読み出したことから、「散水」という語句も生まれ、混同されたまま「散水-水をまく」となってしまった、ということです。
 「まく」も「ちらす」も同じようなことだと思われる人もいるでしょうが、コンプレッサーもスプリンクラーもホースもない時代に、手で草花に水を遣っている姿を想像して風情を感じました。』

 「水を撒く=撒水」を「さんすい」と誤読したために、今では水をまく場合、「散水(さんすい)」のほうが多く使われるようになり、「撒水」はあまり使われなくなった。近所の道路に散水車はやってくるが、「さっすい車」は使われない。
「まきちらすこと」を「さんぷ散布・撒布」というのも「撒布(さっぷ)」の慣用読み「さんぷ」が定着し、漢字も「散布」の方が一般的になった。

 洗滌(せんでき)→洗滌(せんじょう)→洗浄 のように、元々の「せんでき」はもはや使われず、「洗浄」が一般的な熟語になったものもある。「胃を洗浄しましょう」というお医者さんはいても、「胃をセンデキする」という医者は、現代のお医者さんにはいないだろう。

 慣用読みの例をA:B:Cのグループ別にあげてみる。

A:慣用読みが定着している熟語例
  情緒:じょうしょ→じょうちょ  消耗:しょうこう→しょうもう  漏洩:ろうせつ→ろうえい 稟議:ひんぎ→りんぎ  捏造:でつぞう→ねつぞう 貪欲:たんよく→どんよく  貼付:ちょうふ→てんぷ  憧憬:しょうけい→どうけい  独擅場:どくせんじょう→どくだんじょう→独壇場  攪拌:こうはん→かくはん(かきまぜること) 呂律:りょりつ→ろれつ(ろれつが回らぬ、など)

B:慣用読みと元の読みが両方使われている熟語例
  早急:さっきゅう→そうきゅう  発足:ほっそく→はっそく 固執:こしゅう→こしつ 重複:ちょうふく→じゅうふく 
 味気ない:あじきない→あじけない  出生率:しゅっしょうりつ→しゅっせいりつ  世論:よろん→せろん 

C:これから先、慣用読みが広まっていくだろうと思われる熟語
 凡例:はんれい→ぼんれい  一朝一夕:いっちょういっせき→いっちょういちゆう 
 「ぼんれい」と入力しても「凡例」と変換されるので、おそらくこちらが広まっていくだろう。凡は、「平凡」「非凡」「凡人」など、ボンという読みのほうがポピュラーに使われるが、ハンという読み方は「凡例」以外に使わないから。

 「夕」の音読みは「セキ」。しかし、夕刊(ゆうかん)夕刻(ゆうこく)などの湯桶読みや、和語の夕立(ゆうだち)などの方が生活になじんだ語であるので、夕映(セキエイ・ゆうばえ)夕影(セキエイ・ゆうかげ)も「ゆう」の読み方が優勢となり、一夕も(イッセキ→いちゆう)の読みが広まっていくのではないか。

D:漫画の吹き出しセリフや歌謡曲などのフリガナから、慣用読みが広まるかもしれないと思われる熟語。(こちらは元の読みも併用されると思うのだが)
 宇宙(うちゅう&そら) 幸福(こうふく&しあわせ) 瞬間(しゅんかん&とき) 電脳(でんのう&パソコン)など。

 どうですか?さすがにDやCは使っていないという人も多いでしょうが、Aは「えっ、この読み方は、昔は誤読だったの?」と思う方もいるのではないでしょうか。「会議の稟議書」を「ひんぎしょ」と読む人は、いないのでは?

 現役世代は、すでに「ねつぞう」「りんぎ」として語彙を獲得してきた。私もAグルーープの熟語はすべて慣用読みのほうです。Bは半々。

 熟語の読み方も、大多数の人が誤読すれば、誤読が「慣用読み」として定着し、誤読のほうが優勢になる。

<つづく>
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