「就活」「婚活」ならぬ「卵活」という言葉をご存じだろうか。健康な未婚女性が将来に備え、自分の卵子を凍結保存することをいい、若い女性の関心を集めている。卵子凍結はこれまで病気や不妊の治療が主な対象だったが、日本生殖医学会が13日、健康な未婚女性にも事実上容認する指針を公表したためだ。九州の専門医療機関にも問い合わせが相次いでいる。出産適齢期に仕事の実績・基盤づくりの時期が重なることや「卵子の老化」を意識する女性の増加が背景にあるようだ。
「卵子凍結はできますか? 結婚や出産の予定はないんですが…」。不妊治療専門の蔵本ウイメンズクリニック(福岡市博多区)は9月に入り、卵活への女性の問い合わせ電話が10件続いた。卵子凍結は2004年から取り組んでいるが、日本産科婦人科学会などの指針に従い、対象者は治療で卵巣機能が失われる恐れがあるがん患者か、不妊治療中の夫婦に限ってきた。料金は採卵と1年の凍結保管で約18万円(がん患者は約15万円)、2年目以降は年約5万円の保管料がかかる。
「健康な未婚女性の卵子凍結を行うには課題が多い」と蔵本武志院長は指摘。同クリニックで卵子を凍結保存している女性は18人。うち凍結卵子を使って出産した人は1人だけだ。連絡が途絶えた人もいる。「若いうちに凍結保存しても、結婚して自然妊娠すると忘れる人がいたり、転居した地域に保管施設がなかったりと、さまざまな問題が生じる可能性がある」
蔵本院長は同学会の指針などを見極めて、卵活を受け入れるかどうかを検討するという。
現在、九州で卵活に応じている医療機関は西日本新聞の取材では確認できなかった。
※ ※
「病気の人を助けるための技術なのに、とんでもないことだ」と卵活を批判するのはセント・ルカ産婦人科(大分市)の宇都宮隆史院長。卵活への問い合わせが、14日以降5件あったという。
初めて実施した卵子凍結は07年、白血病の10代女性から「骨髄移植で閉経してしまう前に」と依頼されてのことだった。以降、約20人のがん患者の希望に応じてきたが、亡くなったり、結婚相手が現れなかったりして、卵子を使ったケースはなかった。
東京には卵活の手術に応じている医師と、凍結卵子を保存している業者がおり、採卵から凍結保存までに約100万円の費用が必要。宇都宮院長は「未婚女性の『将来の保険に』という気持ちを否定はしないが、商業ベースの一部業者に乗せられないで」と訴える。
鹿児島県姶良市の竹内レディースクリニック(竹内一浩院長)にも「30歳を過ぎたけど、今は仕事を頑張りたいので結婚や出産はしたくない」といった問い合わせが4、5件寄せられたという。
※ ※
卵活が独身女性に注目される背景には、子育てしながら働き続けることに周囲の理解は乏しく、晩婚化が進んでいることも大きい。ここ数年、テレビや雑誌で「卵子の老化」が盛んに取り上げられ、焦りを感じている女性も少なくない。
「女性が働き続けにくい社会をまず正していくべきだ」と言い切るのは出産ジャーナリストの河合蘭さん。その上で「卵子凍結の選択肢はあっていいが、排卵誘発剤や採卵手術の体へのリスクや費用、必ず妊娠できるわけではないことも知ってほしい」と呼び掛けている。
【ワードBOX】卵子の凍結保存
排卵誘発剤などを使って卵巣を刺激し、手術で採取した卵子を液体窒素で瞬時に凍結させ、保存する。精子や受精卵の凍結保存に比べて難しかったが、近年の技術革新で可能になった。日本産科婦人科学会の2010年統計では、凍結卵子を使った受精卵を子宮に移植した女性で、出産できたのは約1割。日本生殖医学会が今月13日に公表した指針は、健康な未婚女性の卵子凍結について「40歳以上での採卵は推奨できない」「45歳以上での凍結卵子の使用は推奨できない」としている。
=2013/09/22付 西日本新聞朝刊=
「卵子凍結はできますか? 結婚や出産の予定はないんですが…」。不妊治療専門の蔵本ウイメンズクリニック(福岡市博多区)は9月に入り、卵活への女性の問い合わせ電話が10件続いた。卵子凍結は2004年から取り組んでいるが、日本産科婦人科学会などの指針に従い、対象者は治療で卵巣機能が失われる恐れがあるがん患者か、不妊治療中の夫婦に限ってきた。料金は採卵と1年の凍結保管で約18万円(がん患者は約15万円)、2年目以降は年約5万円の保管料がかかる。
「健康な未婚女性の卵子凍結を行うには課題が多い」と蔵本武志院長は指摘。同クリニックで卵子を凍結保存している女性は18人。うち凍結卵子を使って出産した人は1人だけだ。連絡が途絶えた人もいる。「若いうちに凍結保存しても、結婚して自然妊娠すると忘れる人がいたり、転居した地域に保管施設がなかったりと、さまざまな問題が生じる可能性がある」
蔵本院長は同学会の指針などを見極めて、卵活を受け入れるかどうかを検討するという。
現在、九州で卵活に応じている医療機関は西日本新聞の取材では確認できなかった。
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「病気の人を助けるための技術なのに、とんでもないことだ」と卵活を批判するのはセント・ルカ産婦人科(大分市)の宇都宮隆史院長。卵活への問い合わせが、14日以降5件あったという。
初めて実施した卵子凍結は07年、白血病の10代女性から「骨髄移植で閉経してしまう前に」と依頼されてのことだった。以降、約20人のがん患者の希望に応じてきたが、亡くなったり、結婚相手が現れなかったりして、卵子を使ったケースはなかった。
東京には卵活の手術に応じている医師と、凍結卵子を保存している業者がおり、採卵から凍結保存までに約100万円の費用が必要。宇都宮院長は「未婚女性の『将来の保険に』という気持ちを否定はしないが、商業ベースの一部業者に乗せられないで」と訴える。
鹿児島県姶良市の竹内レディースクリニック(竹内一浩院長)にも「30歳を過ぎたけど、今は仕事を頑張りたいので結婚や出産はしたくない」といった問い合わせが4、5件寄せられたという。
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卵活が独身女性に注目される背景には、子育てしながら働き続けることに周囲の理解は乏しく、晩婚化が進んでいることも大きい。ここ数年、テレビや雑誌で「卵子の老化」が盛んに取り上げられ、焦りを感じている女性も少なくない。
「女性が働き続けにくい社会をまず正していくべきだ」と言い切るのは出産ジャーナリストの河合蘭さん。その上で「卵子凍結の選択肢はあっていいが、排卵誘発剤や採卵手術の体へのリスクや費用、必ず妊娠できるわけではないことも知ってほしい」と呼び掛けている。
【ワードBOX】卵子の凍結保存
排卵誘発剤などを使って卵巣を刺激し、手術で採取した卵子を液体窒素で瞬時に凍結させ、保存する。精子や受精卵の凍結保存に比べて難しかったが、近年の技術革新で可能になった。日本産科婦人科学会の2010年統計では、凍結卵子を使った受精卵を子宮に移植した女性で、出産できたのは約1割。日本生殖医学会が今月13日に公表した指針は、健康な未婚女性の卵子凍結について「40歳以上での採卵は推奨できない」「45歳以上での凍結卵子の使用は推奨できない」としている。
=2013/09/22付 西日本新聞朝刊=