「税金は給料から天引きされていて確定申告の必要もないし、両親の保有する資産も多くないから相続税の心配もない。税務署なんて自分とは無関係の世界だ――」。
そう思っているビジネスパーソンは多いのではないだろうか。
だが、今後はそんなことを言っていられなくなる。理由は、1月1日に実施された相続税法改正だ。これまで5000万円+(1000万円×法定相続人の数)だった遺産にかかわる基礎控除が、3000万円+(600万円×法定相続人の数)に縮小された。非課税枠となる基礎控除が引き下げられたのは、現行の税制ができて初めて。半世紀に一度の大改正ともいわれている。
今回の相続増税で新たに相続税の課税対象になる人は多い。首都圏の一軒家に住んでいてある程度の金融資産を持っていれば、ほぼその対象になるとする試算もある(小規模宅地等の特例などの適用は除く)。そうなると、相続税の申告・納税が必要になる。いやでも税務署と関係を持たなければならない人が増えるのだ。
それだけではない。相続税は国税調査官が自宅に来て調査する「実地調査」の割合が飛び抜けて高い。2013年に相続税の対象となった被相続人(亡くなった人)は約5.4万人。それに対し、2013年7月~2014年6月に実施された実地調査の件数は1万1909件ある。法人に対する現在の実調率(調べなければならない対象に対する実地調査数の割合)が約4%といわれる中、相続税で調査に入る確率は格段に高いといえる。
さらに注目すべきは、調査した事案のうち申告漏れなどが見つかった割合、いわば「ヒット率」が82.4%に上っていることだ。ここ10年以上、ヒット率は8割を切ったことがない。税務署にとって、相続税は”調査しがいのある”案件だ。
だからこそ、納税者は税務調査、さらには実地調査が実際にどう行われているかをもっと知っておく必要がある。税務調査というと有無を言わさぬ強権が発動されるイメージがあるが、実態はそんなことはない。しっかりと準備しておけば、十分に対処できる。
国税庁が今特に力を入れるのは、3事案ある。「無申告・富裕層・海外資産」だ。
無申告については相続税で特に注意が必要だ。国税庁は相続税の申告が必要だと知らずに申告しないケースの頻発を恐れている。こうしたケースを防ぐため、「今年の改正で初めて申告対象となる層に向け、徹底的に周知・広報する」(国税庁資産課税課)と話す。
まず今年の路線価が発表される7月までに、申告要否を簡単に判定できるシステムを国税庁のホームページ上に設ける。そして現在80ページ以上にのぼる申告書の書き方をまとめた冊子は、ページ数を4分の1程度に絞り、夏前後に税務署の窓口へ設置する予定。民間団体との連携も深め、税務署には税理士事務所が開く無料相談会の案内チラシを積極的に置き始めている。
従来のように「相続増税を知らなかった」ではすまされない。納税者は制度の内容を理解し、税務署と向き合う準備を進めるべきだろう。たとえ“うっかり漏れ”であっても、無申告事案に実地調査が入ると、多くは加算税と延滞税が課される。知識を身に付け、自分の身は自分で守らなければならない。
そう思っているビジネスパーソンは多いのではないだろうか。
だが、今後はそんなことを言っていられなくなる。理由は、1月1日に実施された相続税法改正だ。これまで5000万円+(1000万円×法定相続人の数)だった遺産にかかわる基礎控除が、3000万円+(600万円×法定相続人の数)に縮小された。非課税枠となる基礎控除が引き下げられたのは、現行の税制ができて初めて。半世紀に一度の大改正ともいわれている。
今回の相続増税で新たに相続税の課税対象になる人は多い。首都圏の一軒家に住んでいてある程度の金融資産を持っていれば、ほぼその対象になるとする試算もある(小規模宅地等の特例などの適用は除く)。そうなると、相続税の申告・納税が必要になる。いやでも税務署と関係を持たなければならない人が増えるのだ。
それだけではない。相続税は国税調査官が自宅に来て調査する「実地調査」の割合が飛び抜けて高い。2013年に相続税の対象となった被相続人(亡くなった人)は約5.4万人。それに対し、2013年7月~2014年6月に実施された実地調査の件数は1万1909件ある。法人に対する現在の実調率(調べなければならない対象に対する実地調査数の割合)が約4%といわれる中、相続税で調査に入る確率は格段に高いといえる。
さらに注目すべきは、調査した事案のうち申告漏れなどが見つかった割合、いわば「ヒット率」が82.4%に上っていることだ。ここ10年以上、ヒット率は8割を切ったことがない。税務署にとって、相続税は”調査しがいのある”案件だ。
だからこそ、納税者は税務調査、さらには実地調査が実際にどう行われているかをもっと知っておく必要がある。税務調査というと有無を言わさぬ強権が発動されるイメージがあるが、実態はそんなことはない。しっかりと準備しておけば、十分に対処できる。
国税庁が今特に力を入れるのは、3事案ある。「無申告・富裕層・海外資産」だ。
無申告については相続税で特に注意が必要だ。国税庁は相続税の申告が必要だと知らずに申告しないケースの頻発を恐れている。こうしたケースを防ぐため、「今年の改正で初めて申告対象となる層に向け、徹底的に周知・広報する」(国税庁資産課税課)と話す。
まず今年の路線価が発表される7月までに、申告要否を簡単に判定できるシステムを国税庁のホームページ上に設ける。そして現在80ページ以上にのぼる申告書の書き方をまとめた冊子は、ページ数を4分の1程度に絞り、夏前後に税務署の窓口へ設置する予定。民間団体との連携も深め、税務署には税理士事務所が開く無料相談会の案内チラシを積極的に置き始めている。
従来のように「相続増税を知らなかった」ではすまされない。納税者は制度の内容を理解し、税務署と向き合う準備を進めるべきだろう。たとえ“うっかり漏れ”であっても、無申告事案に実地調査が入ると、多くは加算税と延滞税が課される。知識を身に付け、自分の身は自分で守らなければならない。