『久我山歳時記』㊵、5月20日からは二十四節気の『小満』に入る。大寒・小寒はあるが、大満はないようだ。小満とは『草木が周囲に繁り、満ちはじめる』という意味であり、『夏めく』『麦秋』『走り梅雨』『薄暑』などという言葉で表現される。
さらに七十二候では『蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ、〜5月25日)』、『紅花栄(べにばなさかう)、〜5月30日』『麦秋至(むぎのときいたる)、〜6月4日』と細分化される。
『麦秋』は秋のことではないことを知ったのは学生時代に名画座で小津安二郎の『麦秋』という映画を見た時である。この映画の主人公は原節子、ストーリーは私が忘れかけるほど大層なものではないが、彼女の結婚が遅い(と言っても28歳の設定)を気にした周囲の人々が色々と考え、縁談を持ちかける。条件のいい縁談で纏まりそうになるが、最後は子連れの医師と結婚したいと娘(原節子)が意志を通すというお話。最後のシーンでばらばらになった大家族の親(菅井一郎、東山千栄子)が豊かに実った麦畑を眺めながら想いに耽るシーンが印象的であった。何気ない人間関係、日常にスポットを当てる小津映画らしい作品である。映画が公開されたのは秋であるが、麦秋というこれから実りある時期を迎えるシーンをタイトルにした意味が最近になってようやくわかるようになった。
久我山でも木々の葉が茂り、青さが増して行く時期であるが、その中で梅の木を眺めると葉っぱだけでなく、梅の実がかなり大きくなってきている。
(ジューンベリー)
ブルーベリーやジューンベリーの実も少しずつ色がつき始めてきている。
冬の間は葉が落ちて死んだように見えた葡萄も小さな葡萄の実の赤ちゃんがはっきりと実をつけている。郁子(むべ)の木にも同じように小さな実がなりはじめ、これがあの大きな実になるのかと思った。
紫陽花も青・紫・白など様々な花を咲かせていて、花が大きくなり、また、日々色が深くなっていくのがよくわかる。
ハナミズキは1ヶ月前に花を付けたが、今、多くの花を付けているのがヤマボウシ。この二つは親戚のような関係にあるが、ヤマボウシは葉が出てから、また高い枝の先に白い花を付けるのでやや地味な感じがする。
忘れてはならないのがバラ、今が春のバラのトップシーズン。ピンクのバラ、赤い薔薇がその色を競い合うように見える。
最も元気なのはドクダミ、名前や抜いた時の匂いで損をしているが、その生命力の強さには頭が下がる。近くのアパートではコンクリートの隙間から並んで花を付けている。それも毎年のことなのである。
天気予報を聞いていると5月中旬までは暑いと言っても湿度が低く、爽やかな中でのカラッとした暑さだが、今週からは蒸し暑さに変わり、じっとりとした暑さに変わるとのこと。猛暑の予感の中、身体を早く暑さに慣れさせていかないといけない季節である。