出版社のサンリオが(「ガープの世界」の)原作本を邦訳して出版するということで、編集者が試写を観たいと言ってきた。数日後、その編集者ともうひとりの青年が応接室で待っていた。部屋に入ると、その全然知らない青年は、アーヴィングの「ガープの世界」の原書を読んでいた。その映画の試写を観た青年がすごく気に入った様子だったのを見て、試写会のプレス用にコメントを書いてくれるように頼んだ。青年は快く引き受けてくれた。
「その青年が、村上春樹さんでした。とても感じのいい青年でした。村上さんにはそれから試写会の案内状も出すようになりました。時々、奥様といっしょに見に来てくれましたよ。」
ワーナーの宣伝部にこの人ありと言われた早川氏(素人のわたしですら聞き及んでいたぐらいだ)の聞き書き。ワーナーブラザーズは、わたしの世代にとっては「燃えよドラゴン!」「エクソシスト」「タワーリング・インフェルノ」の三連発でおなじみ。ごひいきの会社でもあった。
現在は「ハリー・ポッター」などでメジャー感ありありだが、むかしは準メジャーという立ち位置だったのではないか。作品も暗黒ものやB級が多く、だからこそ宣伝部としても苦労が絶えなかったろう。そんなワーナーが健在で(何度も買収されたりもしたが)、パラマウントとユニバーサルを扱っていたCIC(のちのUIP)が姿を消すとは……栄枯盛衰。
にしても、宣伝部の仕事の大きな部分をスターの接待が占めていて、早川氏がそのあたりが得意中の得意であるあたりは笑えた。勘所には確実に戸田奈津子さんもいるのである(笑)。