Vol.17「二つの顔」はこちら。
経営が危うくなっている化粧品会社の社長ヴィヴェカ(ヴェラ・マイルズ)は、起死回生のヒット商品を手にしようとしていた。皮膚のしわを驚異的に取り去るクリームの試作に成功したのである。しかしヴィヴェカの元愛人だった研究員は、もてあそばれた過去を恨んでライバル会社に試作品を売り渡そうとしていた。激昂したヴィヴェカは顕微鏡で研究員を撲殺してしまう……。
原題Lovely But Lethal(愛らしいけれど致命的な)にふさわしい華やかな事件。に見えて実は地味ぃな化学ミステリでもある。ツバメ的な存在だったであろうことがうかがわれる若き研究員はなんとマーティン・シーン。翌年に出演するのがあの名作「地獄の逃避行」であり、5年後には「地獄の黙示録」で主役をはるまでにキャリアアップ。いまではすっかり大統領役が板についているけれど、このころ(73年)はこんな端役にあまんじていたとは。
衝動的に顕微鏡をつかみ、ヴィヴェカがふり下ろしたのは巨万の富を生み出すであろう化学式が存在する研究員の頭だった皮肉。そのために、残った試作品は貴重なものとなる。
この作品の特徴は、犯人と、その犯人を追うコロンボに同じ症状(手がかゆくなる)が出るあたり。追いつめられた犯人は、そのために貴重な試作品を海に投げ捨てるが、コロンボがめざしたものはそれではなかった……。
虚飾の街ロサンゼルスに、化粧品業界はよく似合う。
「アメリカ中の女が化けるために使う金は、かなりのもんらしいからね」
と朴念仁のコロンボはあきれるが、しかしそのために欲望はうずまき、死者は研究員だけではすまなくなってしまう。二人目の被害者(ライバル社の社長秘書)もたいしたタマであり、毒のある花が、けっしてヴィヴェカだけではなかったことがわかる。
妖艶なヴェラ・マイルズは、さすがヒッチコックの「めまい」で主役をやる予定だった(妊娠したために降板)だけのことはある美しさ。熟女好きにも、たまらない回です。
Vol.19「別れのワイン」につづく。