東芝EMIの辣腕宣伝マンだった著者が、会社への恨みつらみも含めて赤裸々に職業人としての半生を語った書。登場人物はみな「さん付け」で描写されるが、本心がどうであるかは微妙。
彼が担当した松任谷由実、長渕剛、宇崎竜童、チェン・ミンらは絶讃されているが……
それはともかく“当事者”であることの強みで、泣かせるエピソードがてんこ盛りである。
・学生運動の支援をしていた新谷のり子の当時のマネージャーは林原満子。のちにサン・ミュージックで担当したのが松田聖子。
・友川かずきのプロモーション中に名古屋のラジオで美少女歌手といっしょになった。詩を読みたいとのことなので、友川は彼女にノートを渡した。彼女は涙ぐみそうになりながら、一言一句、自分に語りかけるように読んでいた。木之内みどりだった。
・中村晃子のコンサート(の演出)をまかされた。音楽監督は長戸大幸。紹介されたギタリストが伊藤銀次だった。
・アミューズとTBSが映画を製作することになり、東芝EMIも参加することになった。「十五少女漂流記」である。東京地区のオーディションで背の高い三人組がとにかく目立った。同じタイプばかり集めるわけにはいかないので一人落とした。結局最終大会でもそのふたりはダントツ。チャンピオンが奥山佳恵。特別賞が山本未来。
……逆に、越路吹雪、松宮一彦のエピソードは「書いてはいけなかった」のではないかと思う。筆がすべった、というレベルではなかろう。興味深い本だけれど、結果として暴露本のカテゴリーから抜け出てはいない。