サスペンスが苦手で3D初体験の妻と、高所恐怖症のわたしが鶴岡まちキネで「エベレスト3D」を。だいじょうぶかしら。3Dメガネを渡され、まだ時間があるので隣のベーカリーで塩パン(絶品でした)を買い、カフェでコーヒーを飲んで妻は上機嫌。だいじょうぶか、あとで泣きをみることにならないのか……見終わってくたくた。
「絶対、山には登らないぞ」
「でもあの人たちはそれでも行くのよねえ」
ぶっちゃけた話、山に登って下りるだけの話なので(というわけでもないが)、役者がヘタだと目も当てられない。不安を軽口で押し隠す医師(ジョシュ・ブローリン)、なにかに追いまくられているようなガイド(ジェイク・ギレンホール)、登山者たちを思いやりながら、会社の経営への影響もつい考えてしまうマネージャー(エミリー・ワトソン)など、名優をそろえています。主役のジェイソン・クラークも、プロ意識と登山者への温情のはざまで揺れるあたり、泣かせる。
他にも、わたしが世界一の美女に勝手に認定しているロビン・ライト、世界二のキーラ・ナイトレイ、「崖っぷちの男」で断崖はお得意なサム・ワーシントン、「コードネームU.N.C.L.E.」の超悪女とはほとんど別人のエリザベス・デビッキなど、意外なオールスターキャストでした。
監督は「2ガンズ」「ハード・ラッシュ」でいいところを見せたバルタザール・キュルマウクル。特に「ザ・ディープ」での極限状況の描き方で抜擢されたのだろう。それとも、アイスランド出身だから寒さに強いと思われた?
にしても、世界最高峰に登るにしてはみんな装備が軽いような……ハーケンやらアイゼンやらが画面に登場することはめったにない。それは、このパーティが「金を支払ってプロの登山家によって登頂させてもらう」ビジネスによるものだったから。
参加費は6万5千ドル。それが高いと考えるか安いと思うかは微妙。「八甲田山」や「劔岳」に顕著だったように、登山とは貴族か軍人、そして地元民のものだったのに、二十世紀の常として一気に大衆化。おかげで山頂までのルートが渋滞するまでになっていたとは知りませんでした。そして、そのために起こる悲劇。
映画とはすごいメディアだとつくづく。8000mを超えると次第に人間の身体が内部から壊れていく描写もふくめて、エベレストをマジで体験しているような気にさせられる。
あまりにハードだったので、日本人が日の丸を頂上にちょこんとさした時は感動までした。ああ、おれも日本人だったんだ(笑)。しかし、そのモデルとなった難波康子さんをはじめ、この登山で生き残ったとしても、のちにほとんどが山で命を落としている。
それでも、人が山に登るのはなぜか。
郵便局員など、三つの仕事をかけ持ちし、参加費をディスカウントまでして登った顧客はしみじみと語る。
「地元の小学生が応援してくれてるんだ。おれみたいな普通の人間(regular guy)でも、夢を追うことができるということを見せてやりたい」
しかし彼はその後……
静けさを取り戻したエベレストの威容がすべてを圧倒する。エベレストはなにも語らない。だからこそ、人は山に向かうんでしょう。わたしはごめんですが。マジ。