事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「竹に紅虎」 下川博著 講談社

2015-12-11 | 本と雑誌

脚本家から作家に転身した下川博の「弩」につづく歴史もの。前作が武器としてのクロスボウのお話に見えて、実は柿渋などの経済の物語だったように、今作は焼き物づくりの変遷に姿を借りた、夫婦とはなにかという物語だった。

なにしろポルノ小説なのかと思うくらいに濡れ場が多い。主人公の昇蔵と妻の香丹はひたすらセックスばかりしているのだ。まるでそれが会話であるかのように。

わたしは焼き物の世界に昏いので、有田焼と伊万里焼と柿右衛門がどんなものなのかさっぱり。だから秀吉の朝鮮出兵を機に、焼き物職人が日本にやってきて、有田で磁器に適した土を見つけ……という展開はお勉強になった。

香丹は色絵師として景徳鎮に負けない作品をつくりあげようとする激しい女。亭主の昇蔵は、この女のために自分は根本から変えられると覚悟する。

この、昇蔵がいい感じなのだ。商家の放蕩息子だった彼が、語学の才があったために、鄭成功(歌舞伎の「国性爺合戦」の人ね)の清とのたたかいに加わり、成功が敗れたために帰国できなくなり、イスラム世界にまで流れていく。なんかもうえらいことになってます。

後半はユダヤ教、キリスト教、イスラム教の教義をそれぞれどうとらえるか、読者に挑戦するような気配すらある。このご時世だからこそ下川はこの部分を(バランスはくずれるにしろ)書きたかったのだろう。遠い異国で、彼は妻の傑出した作品に出合う。芸術の普遍性と、脆い心の対比。

もうひとつのテーマはおそらく血の混交だ。香丹たち焼き物職人たちは、出自が朝鮮であろうが日本であろうが問題にしていない。鄭成功が中国人と日本人のあいだにできた子であることは、そのテーマに沿っている。

そして世界の血の混交は必然であることを静かに語って長大な物語は終わる。セックスを前面に出すことは、だから必然だったとここに至ってようやく了解。好きですけどね、ポルノ小説も。

コメント
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