「CURE」で世界的に有名になる直前の黒沢清監督作品。
「太陽を盗んだ男」(黒沢は新聞に載った写真という役柄で特別出演)以来、“撮らずの巨匠”となった長谷川和彦、長回しの相米慎二、山形にある東北芸術工科大学の学長から理事長になった根岸吉太郎などを中心に組織されたディレクターズ・カンパニーが製作母体となっている。
ディレカンの特徴は、とにかく金がなかったことで(笑)、しかし異様な熱気がそのハンディを吹き飛ばしていた(こともある)。池田敏春の「人魚伝説」など、その最たるものだろう。
そんな会社が、「スィートホーム」で伊丹プロとトラブっていた黒沢清に金を出したことがひたすら納得できるつくりになっている。金がないから画面はもちろんチープなのだけれど、なにしろ面白い!
ある商社に、ふたりの新人が入社。ひとりは絵画をあつかうOL。ひとりは元力士の警備員。警備員は殺人の過去があったが、心神喪失状態だということで無罪となっている(このあたりははっきりと描かれているわけではないので観客が想像するしかない)。彼はOLが落としたイヤリングを片耳につけ、まわりの人間を次々に屠っていく。
OLを演じているのは久野真紀子。全然知らない女優です。そして元力士の警備員はなんと松重豊。「孤独のグルメ」の井之頭さんなどですっかりいい人のイメージが上回ったけれども、度外れて高い身長を生かして、この映画の彼は怖い怖い。
黒沢映画の常連、大杉漣がいかれた上役、長谷川初範が謎の重役を演じて“恐怖映画の舞台としての会社”の理不尽ぶりを際立たせて笑える。
突っこみどころ満載ではあるにしろ(テレックスって電源が落ちても電話が使えなくても生きてるんですか)、この監督に金を使いたいと製作者たちに思わせるだけの作品になっている。さあ次も黒沢清映画を見るぞ。