「量子力学で、猫が出てくるやつ、あるよね?」
「ええと、シュレーディンガーの猫のことですか?」
「そうそう、それ」
「観測するまで、猫の状態が確定しない、という譬え話みたいなものですね」
「猫の状態は、観測するまでわからない。まあ、意味はぜんぜん分からなかったけれど。でもさ、あれって答えは分かりきっているよね」
「答え?何が分かりきってるんだ」
「観測している時だって、観測していない時だって、猫は可愛いに決まっているよ」
「え」
「グラスホッパー」「マリアビートル」「AX(アックス)」につづく伊坂幸太郎の殺し屋シリーズ最新作。特に「マリアビートル」の直接の続篇でもある。まあ、このシリーズはどこから読み始めても楽しめるけれども、最初から読んだ方が笑えるはずです。
その「マリアビートル」で、東北新幹線内の攻防戦を制した(?)ひたすらに運の悪い殺し屋、天道虫。よく考えたらしぶとく生き残っているのだから運がいいんだか悪いんだか。彼にまた仲介役の真莉亜から斡旋されたのは、あるホテルの宿泊客に、彼を描いた絵を届けるという単純極まりない仕事だった。しかし、それがねじれにねじれて……
新幹線が横異動のお話なら、今回は縦異動のすったもんだ。エレベーター、カードキー、清掃係など、ありとあらゆる手段を使って襲い来る殺し屋たちから天道虫は逃れようとするが、というお話。
マリアビートルの映画化「ブレット・トレイン」を経過しているので、天道虫はブラピで真莉亜はあの大女優に見えて仕方がない(笑)。
多分に教訓を含んだ寓話でもあり、最高の娯楽小説でもある。ああこのシリーズを読んだことがない人がうらやましい!これから一気読みできるんだもの。