ストーリーが面白いのは最初からわかっている。なにしろあの原作なんだから。
役者がすばらしいのもわかっている。堺雅人+竹内結子の「ジェネラル・ルージュの凱旋」(どうしてもっと評価されなかったのだろう)コンビだし、監督も伊坂幸太郎原作とはめっぽう相性のいい中村義洋(「アヒルと鴨のコインロッカー」「フィッシュストーリー」)。
くわえて音楽が伊坂となかよし斉藤和義。これで映画が面白くならないはずがない。
が、予想以上だった。
その、プラス方向の不確定要素はなんだったのだろう。
まずは連続殺人犯を演じる濱田岳。ちっちゃい身長をいかして機敏に動き回り、結果的に国家権力へのテロを敢行することになるのに、当人は主人公である青柳(堺)へのわずかなシンパシーでしか動いていないあたりの無意識さがいい。
「ぼくに道徳を説いてもむだだよ」
うん。まったくそのとおりだ。伊坂×中村作品ではレギュラーだし、これからもよろしく。
くわえて竹内結子の娘を演じるあの子役。世に達者な子役は数多いが、ふてくされた風情があれほど似合う女性も少なかろう(笑)。ラストは彼女の“あの行動”で締めるわけだから、演技派女優の出現はうれしいかぎり。
誰もが喝采を送ったはずなのが先輩ドライバーを演じた渋川清彦。「お前のおかげでキャバクラでもてた」恩義を、彼らしい行動でみごとに返す。ロックだねぇ。まさかファッションモデル出身とは思わなかったけど。
……かくのごとく、伊坂原作でももちろん素晴らしかった脇役たちが、的確なキャスティングでみごとに血肉化されている。原作でも泣けた父親の激励は、伊東四朗が演じることでなお感動できた。マジで涙出た。
そして、首相暗殺という派手な場面から始まるので誤解されがちだけど、原作は宅配ドライバーがひたすら逃げるという地味なお話。そこを、花火という映画向きなツールを勘所にもってきて娯楽作に仕上げた中村義洋の演出がすばらしい。
ラスト。まさかと思ったが斉藤和義のあの名曲が新録で流れ、ひたすら満足。絶対のおすすめ作品。ぜひ。ぜひぜひ。