シータテハとエルタテハ。CとL。後翅裏の白紋の形から付けられた何ともユニークな和名である。先日、久しぶりにシータテハを見かけて撮影したので、和名も形態も似通った両種について比較してみた。まずは分類であるが、どちらもタテハチョウ科(Family Nymphalidae)ではあるものの、シータテハはキタテハ属 Genus Polygoniaで、エルタテハはタテハチョウ属 Genus Nymphalisである。分布や生息環境も似ており両種ともに成虫で越冬するが、シータテハは年に2回程度発生し、夏型と秋型の季節型がある。
- キタテハ属 Genus Polygonia
- シータテハ Polygonia c-album hamigera (Butler, 1877)
- タテハチョウ属 Genus Nymphalis
- エルタテハ Nymphalis vaualbum ([Denis et Schiffermuller], 1775)
シータテハは、アジアからヨーロッパまで広く分布しており、国内では北海道から九州まで分布する。北海道では平地から山地に生息するが、本州での分布は不連続でやや標高の高い山地に限られる。同属のキタテハに似ているが、本種は翅の縁の切れ込みが深くくっきりしており、後翅表にある黒斑内に水色の斑がないので、容易に区別できる。花や樹液に集まり、オスは地表でよく吸水する。幼虫の食草は、ニレ科のハルニレ、アキニレ、エノキなどで、成虫は年に2回程度発生し、初夏から真夏にかけて現れる夏型と、秋に現れてそのまま越冬する秋型がある。夏型より秋型の方が、翅外縁切れ込みが深く、秋型の翅裏に縞模様があり、オスでは濃淡がはっきりしている。また、秋型の翅裏には部分的にコケ状の暗緑色斑が現れる場合が多い。
シータテハは、環境省版レッドリストには記載されていないが、都道府県版レッドリストでは、和歌山県、鳥取県、岡山県で絶滅、島根県、徳島県、香川県、愛媛県で絶滅危惧Ⅰ類に、その他、四国と九州を中心に絶滅危惧Ⅱ類や準絶滅危惧種としてきさいしており、これら地域でも、現在はほとんど見られない状態となっている。
エルタテハは、ユーラシア大陸とアフリカ大陸北部の旧北区のほぼ全域と北アメリカ大陸に分布し、日本では北海道と中部地方以北の本州に分布する。北海道では平地から山地にかけて、本州では主に標高1,000 m以上の食樹であるニレ科植物(ハルニレなど)やカバノキ科植物(ダケカンバ、シラカンバなど)がある落葉広葉樹林等に生息している。成虫は、年に1回の発生で7月~8月頃に羽化し、そのまま成虫で越冬した後、翌年の5月頃まで生きて産卵する。ノリウツギやナナカマド等の花を吸蜜することもあるが、ダケカンバ等の樹液、獣糞を吸ったり、腐った果実に集まったり、地面で吸水したりすることが多い。また、コンクリートの擁壁に止まり、エフロレッセンス(白華)現象によって生じた炭酸カルシウムの結晶を吸っている様子を見ることも多い。
エルタテハは、環境省版レッドリストには記載されていないが、都道府県版レッドリストでは、東京都で絶滅危惧Ⅱ類、新潟県で準絶滅危惧としているが、本種はもともと個体数が少なく、植林に伴う自然林の消滅や生息環境の少しの変化によっても個体群が維持できなくなる可能性がある。
シータテハとエルタテハは、キタテハにも似て翅色が地味で、しかも、どこにてもいるようでもそうではなく、撮ろうと思ってもなかなか出会えないチョウである。これまで、こうした希少種に近いものや絶滅危惧種、そして美麗種を中心に追いかけてきたが、近年ではチョウよりもトンボ類を撮ることが多く、今年に限っては、沖縄でコノハチョウを撮っただけである。トンボでは、成虫の図鑑的写真の他、生態の各ステージ、例えば羽化や交尾、産卵といった場面の撮影チャンスが多いが、チョウはそれらを野外で撮ることが簡単ではない。また、種類を数多く撮る事だけを目的としておらず、ジャノメチョウやヒョウモンチョウなどは撮らないことが多いので、本ブログにおいては、トンボ類の投稿記事が多くなっている。
そろそろ自然風景写真も撮りたいと思っているが、夏も終わりに近づいているので、ヤマキチョウ等を久しぶりに撮っておきたいと思っている。
参照ブログ記事
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