オオムラサキ Sasakia charonda charonda (Hewitson, 1863) は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)コムラサキ亜科(Subfamily Apaturinae)オオムラサキ属(Genus Sasakia)に分類されるチョウで、日本の国蝶である。本種は最初に日本で発見され、学名の Sasakia は佐々木忠次郎博士に献名された。ちなみに、国蝶は、法律や条例で規定されたものではなく、1956年にオオムラサキが記念切手の図案に採用されたことを契機として、その翌年に日本昆虫学会が選んだものである。勇ましく、堂々としていて、華麗である事と日本中に分布していることが理由に挙げられている。
日本では北海道から九州まで各地に分布し、翅を広げると10センチ以上あり、日本に分布するタテハチョウ科の中では最大級である。幼虫の食樹はエノキやエゾエノキで、食樹のある雑木林に生息している。成虫は、年に1回6月下旬~7月下旬にかけて羽化し、クヌギ、コナラ、ニレ、クワ、ヤナギなどの樹液に集まってなめる姿をよく見かける。
オオムラサキは、環境省版レッドリスト(2020)では準絶滅危惧として記載され、都道府県版レッドリストでは、千葉県で絶滅危惧Ⅰ類に、埼玉県、茨城県、滋賀県、鳥取県、島根県、鹿児島県で絶滅危惧Ⅱ類に、その他多くの都道府県で絶滅危惧種として記載している。雑木林の減少が大きな原因となっており、雑木林の保全に取り組む山梨県北杜市長坂町は全国一の生息地として知られている。また、埼玉県嵐山町のようにシンボルとして掲げている地域もある。
オオムラサキというチョウの存在を知ったのは、今から49年前。私の師である故 矢島稔先生の著書「小さな知恵者たち―昆虫の決定的瞬間 (朝日ソノラマ1975年)」であった。オオムラサキの羽化の瞬間の写真が表紙になっており、ページをめくると、将に決定的瞬間が何枚も掲載され、羽化したばかりの美しい翅色に魅了されたものである。
冬には、エノキの根本で幼虫探しをしたものだが、屋外で実際に成虫を見たのは中学生になってからである。雑木林の中でクヌギの樹液をカブトムシと一緒になってなめている様子に感動したことは忘れない。残念ながら写真には撮っておらず、記憶の中だけの思い出である。
昨今では、食樹が同じゴマダラチョウや外来種のアカボシゴマダラはよく見かけるが、オオムラサキは見る機会がとても少なくなった。先日、栃木県でトンボを撮影していると、クヌギの幹に止まっている大きなチョウが目に入った。もしかしたらと近づいてみると、オオムラサキのオスであった。翅はすでにボロボロであるが、濃い紫色が美しい。周囲で飛び回るものも多数いた。オオムラサキは、「ひらひら」とは飛ばない。羽ばたきが俊敏で滑空する。以前、山梨県韮崎市にある茅ヶ岳の山麓で、何頭ものオスが縄張り飛翔している様子を目撃したことがあるが、近くを飛ぶと「バサ」っと羽音が聞こえるのだ。(キベリタテハも羽音がする)今回も、その凄い飛翔に改めてオオムラサキの威厳を感じた。
オオムラサキは、これまでブログに単独で掲載したことがなかったので、先日撮影した写真と過去に撮影していた数枚を合わせて、以下に掲載した。いずれの写真も、オスの成虫は翅が色あせていたり、ボロボロの個体ばかりである。「生態」と言えばそうなのだが、いつか羽化したばかりの新鮮で美しい個体を撮って残したいと思う。
以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。
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