ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ヒメボタル(東海)

2019-07-22 22:57:13 | ヒメボタル

 ヒメボタルの観察と撮影で東海地方へ。ホタルの話題ばかりが続くが、これが、今期最後のホタル紀行になろう。
 ヒメボタルの生息地は、ミズナラやカラマツ原生林であり、2010年から訪れている。ここでの写真撮影は今回で4回目であるが、これまで一回も美しく撮れていなかった。 いずれもデジタルカメラでの撮影であったが、1回目は、飛翔が始まってからの長時間露光撮影のため写真的・生態学的には価値はあっても見栄えは寂しい写真。2回目は、山梨県の生息地で撮影した後に立ち寄ったため、背景となる自然環境が撮れていない。そして3回目は、200枚ほど撮影していながら、レンズキャップを外し忘れて撮ってしまったため、すべて真っ黒で何も撮れていなかった。今回は、そのリベンジである。
 自宅を14時半に出発し、現地には17時に到着。まずは念入りにロケハン。年によって飛翔の中心となる場所が異なるが、飛翔密度よりも「飛翔する自然環境を明確に残す」事に重点を置いてカメラをセットする。写真は「自然風景写真」でもあるから、結果を想像しながら構図にも気を配る。フレーム内をヒメボタルが飛んでくれなければ、全く絵にならないが、そこは知識と経験と勘が勝負。カメラは2台体制である。それぞれ正反対の向きに向け、趣の異なった環境下での飛翔風景を狙うことにした。後は、発光飛翔するまで待機である。

 ここのヒメボタルは、深夜型で23時頃から活発に発光飛翔するタイプであるが、今回、観察している中で当地特有の3つの発見があった。

  1. 深夜型であっても、20時頃から発光を始める個体が何頭か存在する。(ただし、飛翔はない。)
  2. 高さ5m以上の梢で発光を始めた個体がいる(下草に丈がないためか、日中は、下草ではなく高い梢で休んでいる。)
  3. 真っ暗な森の中の方よりも、林縁付近の明るい場所での発光飛翔が多い。

 たいへん興味深い事実であるが、やはり23時を過ぎた頃から発光飛翔が多くなった。

 今回、撮影に使用したカメラは、私のホタル撮影では定番のフルサイズ機にF値1.4のカールツァイス50mmの単焦点レンズと、APS-Cサイズ機にEF17-35mmの広角ズームレンズである。後者の組み合わせは、昨年、「ヒメボタル(岩手県折爪岳)」で使用したが、あまり広角過ぎるとヒメボタルの光が小さくなるため、寂しい感じになってしまう。そこで、今回はひと工夫した。画角は構図優先。結果は、自己満足の範疇ではあるが、2点とも当地らしい「ヒメボタルの生息自然環境と発光飛翔」の絵になったと思う。尚、写真は、どのような環境下をヒメボタルがどのように発光飛翔しているのかを分かりやすくするために、背景を明るく撮っている。実際は、ヒメボタルが発光飛翔する時間帯の森の中は真っ暗で、背景は全く見えない。暗闇にヒメボタルの光だけが見えるだけである。(今回も、写真撮影に集中したため動画は撮らなかった。)
 掲載した2点の写真は、ヒメボタルの発光色が異なっている。撮影機材の違いからだと思うが、どちらの発光色も間違いではない。見た目でも、ヒメボタルの発光色は、黄色や白色に見えたり、黄金色にも見える。
 天気は曇りで無風。気温22℃(18時)19℃(1時)は、最良の条件でもあり、発生のピークと重なってくれれば、多くの発光飛翔が期待できるが、メスは未発生のようで、また、ピーク時に見られる森の外へ出て発光飛翔する様子もなかったので、おそらく数日後がピークであると思われる。

 さて、ここのヒメボタル生息地は、2011年当時は、誰一人と来ることがなかった。しかし、テレビでも紹介され、またネットでも情報が発信されたこともあってか、昨今では撮影者と観賞者が多くなってきた。人が多くなれば、目立つのはマナーの悪さである。
 深夜型のヒメボタルは、23時頃からが活動のピークを迎えるが、18時前から5時間も待つ人々は少ない。多くは、暗くなってからやってくる。そもそも、森のすぐ脇が広い駐車場になっていることが問題なのだが、暗くなってから来たのでは、駐車する向きは森に頭を向けるから、ヘッドライトが森の中を照らすことになる。車が来る度に、ヒメボタルは発光を止めてしまうのだ。灯りは、繁殖を阻害するのである。今回、気なったのは次の3つ。

  • いつまで経ってもライトを消さず、消して頂くようお願いすると「ここは、駐車場だ!」と逆切れするカメラマン
  • 発光飛翔がピークにも関わらず、森の中でライトを照らしてカメラの設定を変えるカメラマン
  • 懐中電灯を照らしながら「歩行者優先だからな」と言って森の中を歩く若いカップル

 誰も分かっていない。ここは、カメラマン優先でも、歩行者優先でもない。ホタルが最優先である!灯りを嫌うのは、誰でもない。ホタルだ。
 私は、明るい時間に現地入りするが、真っ暗な林道でも、5分も居れば目が慣れてくる。懐中電灯は要らない。帰る時は、活動時間が終わってから、森を照らさない方向に車を向けてからライトを点灯させる。どこへ行っても同じ。場所によっては数キロ歩いて生息場所に向かう。これは、ホタルの観察、観賞、撮影のマナー、と言うよりもルールだと思っている。

 ヒメボタルは、日本全国すべての生息地が自然発生である。岩手県の折爪岳のように自治体が通行規制を行って車での侵入をできないようにしているのは稀な例であり、多くは国有地や私有地でその場に管理者等はいない。観賞や撮影時のマナーやルールについては、インターネットは勿論、新聞やテレビでその都度訴えているが、なかなかな浸透していないのが現状だ。ここのヒメボタルも、今のままの状態で、これ以上人々が訪れれば、急激に減少してしまうかも知れない。
 「ホタルを撮る見る。」は良いことだと思う。特に、若いカップルが自然に触れようと思い、訪れることは素晴らしいと思う。ただし、もう一歩思いを巡らせ、ホタルと自然環境を保全するための知識を持ち、エコツーリズムの精神で接することが何より大切だ。

参照:ヒメボタル(静岡2021)

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ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 22分相当多重 ISO 1600(撮影地:東海地方 2019.7.20-21)

ヒメボタルの写真

ヒメボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / EF17-35mm f/2.8L USM / バルブ撮影 F2.8 35分相当多重 ISO 1600 (40mm相当) / PRO1D プロソフトン[A](W)使用(撮影地:東海地方 2019.7.20-21)

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