アキリデス(Achillides)。あまり聞き慣れない名前かも知れないが、アゲハチョウ属のカラスアゲハ亜属をそう呼んでいる。
これは分類学上の学名等ではなく、樹上性シジミチョウの一群であるミドリシジミ族をゼフィルス(Zephyrus)と呼ぶのと同じ呼称である。
アキリデスは、日本国内には2つのグループ、カラスアゲハとミヤマカラスアゲハが生息しており、アゲハチョウ属の中でも、青緑色に輝く美しさを持っている。カラスアゲハは、亜種(地域的変異)で分けると6亜種生息しており、一方、ミヤマカラスアゲハは1亜種のみが生息している。
アゲハチョウ属(Papilio)/アキリデス・グループ
- グループⅠ
- カラスアゲハ原名亜種(Papilio dehaanii dehaanii C. Felder et R. Felder, 1864 )
- カラスアゲハ 八丈亜種(Papilio dehaanii hachijonis Matsumura, 1919 )
- カラスアゲハ トカラ亜種(Papilio dehaanii tokaraensis Fujioka, 1975)
- オキナワカラスアゲハ 原名亜種(Papilio ryukyuensis ryukyuensis Fujioka, 1975)
- オキナワカラスアゲハ(Papilio ryukyuensis amamiensis Fujioka, 1981)
- ヤエヤマカラスアゲハ(Papilio bianor okinawensis Fruhstorfer, 1898)
- グループⅡ
- ミヤマカラスアゲハ(Papilio maackii Menetries, 1858)
注意:形態、交配実験、染色体調査、分子系統研究による結果により2010年に学名変更されている。
用語解説
亜種:種よりさらに細かい分類単位。同じ種でも生息地域が異なり(分布が重ならない)、形態的な差が顕著な場合に用いられる。
原名亜種:記載された種がいくつかの亜種に分けられたとき、学名は「属名+種小名+亜種名」となる。このうち、最初に記載されたものを亜種名=種小名とし、基準として原名亜種と呼ぶ。
これまで、分類は成虫の形態、幼虫の形態と食草、蛹の形態、地理的分布などにより行われてきたが、昨今、活発に行われているDNA分析 (ミトコンドリアDNAの塩基配列(ND5遺伝子789塩基)の解析)では、ミヤマカラスアゲハ(Papilio maackii)と中国のシナカラスアゲハ(Papilio syfanius)が同一種であることが 分かっている。また、カラスアゲハ(Papilio dehaanii dehaanii)と中国大陸西部に分布するクジャクアゲハ(Papilio polyctor)も同一種であることが判明している。こうした分子的手法を用いたDNA分析やアロザイムレベルからの分子系統学的研究は、これまで別種とされてきた種が同種であったことが判明するなどしているが、進化や移動の過程も 分かる。ミヤマカラスアゲハは、100万年以内に多型をもつ変異集団が中国大陸に生じ、氷河時代に日本列島に進入したと考えられている。
カラスアゲハとミヤマカラスアゲハの違いは、形態的には、後翅裏面に黄色い帯が現れるのがミヤマカラスアゲハでカラスアゲハでは帯がないので
区別できる。幼虫の食草は、カラスアゲハがコクサギ、キハダ、サンショウ、カラスザンショウなどで、ミヤマカラスアゲハはキハダ、カラスザンショウなど。生息域はどちらも山地が主であるが、食草の関係でカラスアゲハは市街地に近い所でも見ることができる。
ミヤマカラスアゲハは1亜種であるが、地域変異や個体変異が多く、翅の色や模様が異なっている。トンボにおいては、カワトンボ属の地理的変異個体群、ミナミヤンマのメスの翅の模様の地域変異、チョウトンボの翅の模様に個体変異がある。一生を通じた生態写真の撮影も重要なテーマであるが、地域変異や個体変異をテーマにして撮影するのも有意義である。
掲載の写真は、カラスアゲハとミヤマカラスアゲハの春型でオスである。オスの前翅の一部にはビロード状の長毛があるが、これは発香鱗という鱗粉が変化して香り(性フェロモン)を
分泌するものである。他のチョウでは、発香鱗は翅全体に万遍なく混在して肉眼では確認できない種が多いが、アキリデスなどは翅の一部に集中していてオスの性標紋ともなっている。
注釈:本記事は、過去に様々な地域や場所において撮影し個別に公開していた写真を、時節柄の話題として提供するために再現像し 編纂したものです。
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カラスアゲハ(春型オス)
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F22 0.8秒 ISO 100 +1/3EV(2012.5.20)
ミヤマカラスアゲハ(春型オス)
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640 +1EV(2012.5.27)
カラスアゲハ(春型オス)
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F6.3 1/250秒 ISO 1000 +1/3EV(2011.5.8)
ミヤマカラスアゲハ(春型オス)
Canon 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 1600 +1EV(2012.5.27)
カラスアゲハ(夏型メス) / Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO
絞り優先AE F5.0 1/320秒 ISO 640 -1/3V(2012.8.11)
ヤエヤマカラスアゲハ(メス)
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF70-200mm F/2.8 Di LD (IF) MACRO / 絞り優先AE F8.0 1/320秒 ISO 640(2022.3.31)
参考文献ほか
松村 行栄 五十嵐 聖貴 松岡 教理
日本産アゲハチョウ科の分子系統学的研究
Bull. Fac. Agric. & Life Sci. Hirosaki Univ. No. 8 : 1 - 8, 2005
八木 孝司 佐々木 剛 尾本 惠市
ミトコンドリアDNA解析によって明らかになったカラスアゲハ亜属(アゲハチョウ科アゲハ千ョウ属)の系統,生物地理,斑紋の収斂現象
蝶と蛾 Trans. Iqpid .Soc. ,Japa n57 (2) 1:37-147 ,March 2006
八木孝司・佐々木剛
東アジア各地産カラスアゲハ亜属の系統関係
蝶類DNA研究会ニュースレター(3):7-9.
東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.
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コメント頂きありうがとうございます。
カラスアゲハは、多摩NTの住人様のフィールドにもいますので、
ぜひ、見かけたら写真に収めてください。
チョウは、光線と見る角度によって輝きが異なりますので、気を付けて下さい。