ゲンジボタルの観察と撮影で富山を訪問してきた。先週は、岐阜県関ケ原のゲンジボタル生息地を訪ねたが、護岸工事で激減したという悲しい現実を目の当たりにした。今回の富山も、当初予定していた生息地が護岸工事で激減という知らせを頂き、富山県在住のプロの写真家「安念 余志子」さんにご教示いただき、違う場所を訪ねてみた。安念さんは、ホタルの写真もお撮りになっており、日本ホタルの会の会員でもある。
6月11日17時半に現地到着。駐車場に車を止めたが、帰る時に車のベッドライトが川を照らさない向きに止めた。勿論、引き上げる時刻は、ホタルの発光飛翔活動が終了してからである。
まずは、周辺の環境を観察。この地域は、78%が森林、13%が田園地帯で占められており、1.800m級の山岳から平野に広がる田園地帯に至るまで、豊かな自然環境が随所に残されている。見れば、その山地や麓、平野の至る所にホタルが生息していそうな印象を持つ。この日、訪れたのは複合扇状台地の田園地帯の中を流れる細い河川である。雑木林は隣接していない。水田の所々に民家が点在し、舗装道路も走っているが、交通量は極めて少ない。
河川は、流れの幅2.0mほどで両岸はコンクリート護岸である。川底は砂礫で、一部に中州があり草が繁茂しており、川底や壁面には多くのカワニナが生息しているのが分かる。1.5mほどの護岸の上は草地で、農道を挟んで水田が広がっている。幼虫は、護岸を登り草地で蛹になることが安念さんの観察から判明しているが、最近、雨が降っていないからだろう、草地はカラカラに乾燥していた。それでも、多数の成虫が羽化して出てきている。また、河川のごく一部およそ200mの岸辺に桜や杉の並木があり、ゲンジボタルはその範囲内を飛翔する。
かつて、埼玉県内のある大学の敷地内にこれと似た河川があり、ゲンジボタルの生息環境再生に関わったことがあるが、こうした環境でゲンジボタルが乱舞するということは、今後、様々な地域においてのホタルの保全活動に大いに参考になるだろう。
18時半頃に安念さんが現地に来られ、色々とお話を伺い、すぐにお帰りになるまで情報交換を行った。その後、ゲンジボタルが多く飛翔するという場所にカメラをセットし、日没を待った。
気温21℃。薄曇り。無風。月は無し。絶好のホタル日和である。日の入り時刻は19時11分。一番ボタルは早くて19時45分頃、おそらく河川の上に覆いかぶさる桜の葉裏だろうと思っていると、19時半に自分の足元近くの低い草むらで光り始めた。予想外の出来事である。その後も、次々に護岸上の高さ10cmほどの草むらで発光を始め、中州の茂みでも光り始めた。この時、光っているのはオスだが、これら個体は、昼間はそこで休んでいるということである。つまり、土手の草刈りは行ってはならないということである。
飛翔開始は19時46分。20時を過ぎた頃から数が多くなり、見える50mほどの範囲で100頭を越えるゲンジボタルが発光飛翔をしていた。全体では、単純計算で400頭ということになる。すべてがゲンジボタルと思っていると、1頭だけヘイケボタルがゲンジの中をかき分けるように飛んでいたのが印象的であった。おそらく隣接する水田で羽化したものであると思われる。写真では分かりにくいが、ヘイケボタルであった。
安念さんからは、地元の観賞者はあまり来ないと伺った。なぜなら、「ホタルは、普通にたくさんいて、見飽きている」との事。この日は、私以外に、カメラマンが3人。観賞者は、家族ずれが10組くらいであった。「初めて見た~」などという声が聞こえたので、地元の方ではないのだろう。ただし、懐中電灯を照らす行為は2例あった。そもそも、暗くなってから来ても懐中電灯なしで歩ける田んぼの脇道。今後もホタルのために照らさないで頂きたい。
懐中電灯を照らす行為であるが、「写真を撮っている人から文句を言われる」と勘違いしている方々が多い。いや大多数の一般の方々はそう思っている。フィルムで撮っていた頃は、一回の懐中電灯の灯りでその日の撮影は台無しになるが、今はデジタルだから、そのような灯りが入れば、そのカットだけ削除すれば問題ない。人が写っても消せる時代だ。ホタルは、お互いの光でのみコミュニケーションを図り、繁殖する昆虫であり、月明りでさえ繁殖を阻害してしまうのである。ホタルのために灯りは禁物である。
「ほんの数人が数回照らして問題があるのか」といった言い訳をする方もいるが、ホタルの発生期間を仮に3週間としよう。メスはオスより1週間ほど遅れて発生するから、繁殖日数は2週間に減る。ホタルは、満月の夜や風が強かったり、気温が15℃を下回るとあまり活動しない。それらを差し引くと繁殖日数は更に減る。そして一日の中での繁殖できる時間は、20時頃から21時頃の1時間だけである。そのわずかな繁殖の機会を人為的な光で邪魔をすればどうなるのか、お分かりになるだろう。
さて、この日に撮影したホタルの写真であるが、まず背景を別撮り(明るい時間帯に予め撮っておくこと)しない5秒露光のカット8枚(40秒相当)及び4秒露光のカット35枚(140秒相当)を比較明合成したが、ここは街灯がなくても開けた場所なので、ISO200 F2.8で一発露光20~30秒露光の方が写真芸術的に美しいものになるような気がする。
参考までに、明るい時間帯に予め撮影した背景に光跡を比較明合成する手法の写真も掲載した。5秒露光のカット35枚(170秒相当)であるが、ゲンジボタルが一番盛んに飛翔する時間帯のものである。飛翔するゲンジボタルに取り囲まれる撮影位置であるため、比較明合成で重ねすぎると、ホタルの光跡だらけで何だか分からなくなってしまう。
また、ヘイケボタルが混じって飛翔していた写真も掲載した。こちらは別撮りした背景に5秒露光のカット4枚を比較明合成したものを掲載した。ホタルと花の写真は、写真家 安念さんの作品を真似させていただき、岸辺に咲く野菊の背後に乱舞するホタルを玉ボケにしたものである。これは、プロの写真家の作品とは比較にならない駄作である。
また、昨今力を入れている映像も編集して掲載した。一発露光ならともかく、比較明合成は創作写真に他ならない。実際のホタルの飛翔は、やはり映像が良いと思っているからである。この映像から集団同期明滅はおよそ2秒なので、ここのゲンジボタルは西日本型であることが分かる。
撮影は、活動が終了した21時過ぎに止め、この地を後にし帰路に就いた。帰りは、富山市内から国道41号線で岐阜県飛騨市を通り、471号線で平湯、158号線で長野県松本、その後松本ICから高速に乗って東京国立まで帰った。
ブログ記事を見ればお分かりのように、毎週末遠方に出掛けている。人によっては「けしからん」と思うだろう。20日までは、新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言中であり、人流を抑制し都県をまたぐ移動は自粛するよう要請されているからである。エビデンスが示されない限りは、基本的対処方針を厳守し、移動は車。食事はコンビニ等で買ったものを車内で食べる。他人とはソーシャルディスタンスをとる。会食は一切しない。路上飲みは以ての外。今後も、緊急事態宣言が解除された後においても、これらを厳守して感染予防に心がけていきたい。
次の週末は、これまた初めての「新潟のゲンジボタル生息地」を訪ねる予定である。
最後になったが、色々とご教示いただいた安念 余志子さんに、心より御礼申し上げるとともに、簡単ではあるが以下に紹介させて頂きたいと思う。
安念 余志子
写真家・フォトプラニングan 代表
http://www.pp-an.com/
https://www.facebook.com/annen.yoshiko
以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。
ゲンジボタルの生息地風景
Canon EOS 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE / 絞り優先AE F8.0 1/25秒 ISO 200 -1EV(撮影地:富山県 2021.6.11 17:36)
ゲンジボタルの生息地風景
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / 絞り優先AE F13 1.3秒 ISO 100(撮影地:富山県 2021.6.11 18:54)
ゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 5秒×8カット比較明合成 ISO 320(撮影地:富山県 2021.6.11 19:53)
ゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 4秒×35カット比較明合成 ISO 200(撮影地:富山県 2021.6.11 20:00)
ゲンジボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 5秒×34カット比較明合成 ISO 320(撮影地:富山県 2021.6.11 20:20)
ゲンジボタルとヘイケボタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 5秒×4カット比較明合成 ISO 320(撮影地:富山県 2021.6.11 20:17)
野菊とホタル
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.4 1秒×15カット比較明合成 ISO 6400(撮影地:富山県 2021.6.11 20:40)
ゲンジボタル(富山)
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