ホタルの独り言 Part 2

ホタルの生態と環境を52年研究し保全活動してます。ホタルだけでなく、様々な昆虫の生態写真や自然風景の写真も掲載しています

ゲンジボタル(新潟)

2021-06-20 11:44:52 | ゲンジボタル

新潟県のゲンジボタル生息地へ

 ゲンジボタルの観察と撮影で新潟へ。ホタル前線は徐々に北上しており、新潟県でもホタルの発生が始まった。新潟県には、星峠や美人林の風景、ギフチョウやオオトラフトンボ、オオルリボシヤンマのオス型メス等の撮影で何度も訪れているが、新潟のゲンジボタル生息地は、初めてである。遠征は、当初、18日(金)夕方に計画していたが、仕事が17日(木)は昼で終了し、翌日は年次有給休暇。また天候も17日は新潟方面は晴れと言う予報であったため、予定を繰り上げて午後から新潟県へ向かった。
 14日頃に梅雨入りした東京。17日午前中は、曇り時々土砂降りであったが、関越道の前橋あたりは夏空が広がり、水上から湯沢までは曇天で、時々雨がぱらつくという状況。山々は黒い雲で覆われ、稲光が見えた。ただし、長岡の手前からは再び夏空が広がっており、順調に現地へと向かった。
 新潟県内には多くのゲンジボタル発生地があり、Web上で「名所」と呼ばれる所の情報が載っているが、私が目指したのは普通の農村である。現地到着は17時半。まずは、周辺の環境調査を行う。山間に集落が点在する農村地帯で、標高は110mほど。谷に沿って水田が広がっている。ゲンジボタルが生息する川は、中流域の河川環境で、流れはかなり早く水量も多い。2面がコンクリート護岸で中州は植物が繁茂している。川底は礫であるが、川に降りることが出来ないためにカワニナ等の生息状況は確認できなかった。50mほど離れた県道に街灯と民家が数軒あるが、光の影響は無さそうである。幼虫の上陸場所や産卵場所がどこなのか分からなかった。全体的に「日本の原風景」に相応しい景観である。

ゲンジボタルの生息地環境と同期明滅の発光間隔について

 18時。川に架かる橋のたもとから上流へ向けてカメラをセットした。あいにくカメラは1台しか持参しなかったので、最初に上流方向で比較明合成の写真と映像を撮影したのち、下流方向はフィルム撮影同様の一発長時間露光で写真を撮ることにした。
 当地の日の入りは19時09分だが、開けた場所で河川の幅もあり、木々で覆われている箇所もないため、なかなか暗くならない。気温21℃。無風で湿度も高い。先ほどまで輝いていた月齢7.0の半月も雲で隠れ、条件としては良いが、肝心のゲンジボタルの発生状況が分からない。公にはあまり知られていない生息地で、インターネットにも情報は出ていない。たぶん発生はしているだろうと言う予想での訪問であったが、地元のカメラマン5人のグループがやってきて、カメラをセットし始めたので、一安心。ちなみに、他には観賞者が二組だけであった。実際にあまり知られていない場所のか、訪れた日が木曜日という平日であったからかは分からないが、人間が少数なのは嬉しい。
 川を凝視すること40分。ようやく1頭光りだしたのが19時44分であった。その後、あちこちで光り始め、周囲が真っ暗になった20時15分頃から本格的な飛翔が始まった。ただし、橋を挟んで250mの範囲内だけである。この場所へ来る途中でも、ホタルが沢山飛んでいても良いように思う環境が随所にあったが、実際はいないようだ。今が発生初期なのか、最盛期なのかも不明。勿論、最盛期にどれほどの発生数なのかも分からない。この日は、橋から見て上流も下流も50頭ほどのゲンジボタルが河川の流れ上を飛翔しており、中には隣接する水田の方へ飛んでいく個体もいた。また、水田はごく少数であったがヘイケボタルも発生しており、河川で舞うゲンジボタルに混じって飛翔していた。

 新潟のゲンジボタルは、地域的に東日本型の遺伝子(東北グループ)であり、オスの集団同期明滅の間隔は気温20℃で4秒であるはずだが、当地のゲンジボタルを観察したところ、明滅の間隔がかなり速く、これは掲載している映像からも分かる。明滅間隔は気温によっても変化するが、この夜の気温は21℃であった。採集して遺伝子解析しなければ明確なことは言えないが、明滅間隔、発光飛翔のスピードは西日本型ゲンジボタルの特性に類似している。もし、西日本型の遺伝子であるならば、過去に人為的移入によって西日本のゲンジボタルが持ち込まれて定着したと思われるが、当地はホタル保存会などもないようで、詳細は不明である。
 また、新潟県内の他地域のゲンジボタルを観察していないので、比較することができないが、当地特有(地域特性)、あるいは生息地の物理的環境特性も関係しているのならば、新しい発見である。映像をご覧頂き、ご意見を頂戴したいと思う。

ホタルの写真について

 先週訪れた富山県のゲンジボタル生息地は、河川のすぐ近くで撮影したのでホタルに取り囲まれる状態でったが、今回の新潟県の生息地は、中規模な河川で橋の上からの観察と撮影のため、写真には周辺環境も写すようにした。前述のように河川下流方向は、比較明合成をしない1分ほどの長時間露光で撮影している。「農村風景とホタル」という貴重な光景を写真として残せたように思う。

 長時間露光写真は、時間に切れ間のない連続した写真であり、露光時間内におけるホタル1頭1頭の発光飛翔の方向や発光間隔の光跡が明瞭にかつ正確に記録されている。時間の連続性からホタルの生態学的観点や写真芸術の観点からも価値がある1枚になるのだが、背景を写すには高感度で長時間の露光が必要になる。私のカメラではISO感度400で露光時間40秒を越えたあたりから熱ノイズが発生してしまうというデメリットがあり、美しい写真とは言い難い結果である。しかしながら、フィルムで撮影していた頃を思い出し、写真はこうあるべきだと思い出した結果でもある。最新のデジタルカメラは技術も進んでおり、長時間露光でもノイズのない画像が得られるので、そろそろ機種を変更したいところではあるが、高価であり手が届かないのが現実で、今の機材を最大限活用するしかない。

 一方、上流方向に向けて撮影した写真は、比較明合成したものである。まず明るい時間に背景を撮影し、そのままカメラを動かさずに暗くなってホタルが飛んだらホタルの光跡だけを撮影する。これら数枚をパソコンソフトで合成するのである。比較明合成は、基本的にはノイズのない美しい背景を表現するための手法だが、重ねる光跡写真の枚数をいくらでも増やすことができ、アマチュア・カメラマンが撮るヒメボタル写真に見るような現実離れした単なる創作写真にしてしまいがちである。美しい1枚にはなるが、時間の連続性がないため価値ある1枚とは言い難い。見栄え重視の創作写真なのである。極端な事を言えば、ホタルが実際に飛んでいない所でも、写真上で乱舞させることもできる。

 比較明合成により、今では誰でもいとも簡単にホタルの写真が撮れて1枚の写真にすることが出来るようになったが、創作して単にインスタ映えを狙うのも良いが、ホタルの生態について学んだ上で撮影し作品にして頂きたい。特にカメラマンに人気のあるヒメボタルの写真では、今も尚、ヒメボタルが乱舞する中に立ち入り、人物と共に写している写真を目にする。勿論、人物と発光飛翔するヒメボタルは比較明合成だが、立ち入ることが問題だ。翅がないメスは、立ち入ったモデルの足元にいるのである。その光景を撮るカメラマンは、排除しなければならない!

あとがき

 今月3週連続での遠征。今回は往復640kmであったが、前回の富山、前々回の大阪を合わせると、この3週間の週末だけで2,560km走行したことになる。ちなみに、高速道路で青森から鹿児島まで走ると約2,059kmだ。緊急事態宣言中のことであるから、褒められたことではないが、被写体の発生時期、天候、私の休日という条件が見事に合致し、また経験値を積んだこともあり、7年越しでようやく撮影できたゼフィルス2種は、今年決行していなければ、今後いつ出会えるか分からない存在である。奇跡の連続に心から感謝したいと思う。
 ホタルの季節はまだまだ続く。7月末までに、ゲンジボタルは最低でも2カ所以上、ヒメボタルは3カ所の未訪問生息地での観察と撮影を予定している。また、今年はゼフィルス撮影を多く計画しており、ウラジロミドリシジミの全開翅を主目的に、撮り直しも含めて数種の撮影を予定している。他では、未撮影であるクモマベニヒカゲやホソミモリトンボ、開翅が撮れていないサツマシジミなどを予定。自然風景写真は、秋山郷の紅葉からになるだろう。

 今月20日で緊急事態宣言は解除されるが、宣言中であろうとなかろうと、新型コロナウイルスに感染しないことが重要だ。ワクチン接種券がまだ届いていないので、私の接種はまだまだ先になりそうだが、打ったから安心ではない。そもそもワクチンは感染ではなく発症を防ぐものである。接種を終えた人が他人にウイルスを感染させないようにできるとは限らないと言われている。諸説あるが、誤解せずに科学的根拠に基づいた内容を正しく理解することが必要だと思う。私は、今後も感染予防の対策を徹底して行いながら活動を続けていく所存である。

以下の掲載写真は、1920*1280 Pixels で投稿しています。写真をクリックしますと拡大表示されます。また動画においては、Youtubeで表示いただき、HD設定でフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。

夕暮れの水田の写真

夕暮れの水田
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F11 1/40秒 ISO 100 -1EV(撮影地:新潟県 2021.6.17 18:24)

新潟県のゲンジボタルの写真

ゲンジボタル(新潟)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 68秒 ISO 400(撮影地:新潟県 2021.6.17 20:37)

新潟県のゲンジボタルの写真

ゲンジボタル(新潟)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 46秒 ISO 400(撮影地:新潟県 2021.6.17 20:45)

新潟県のゲンジボタルの写真

ゲンジボタル(新潟)
Canon EOS 5D Mark Ⅱ / Carl Zeiss Planar T* 1.4/50 ZE / バルブ撮影 F1.8 11分相当の比較明合成 ISO 400(撮影地:新潟県 2021.6.17 20:00)

新潟県のゲンジボタル Genji firefly in Niigata (フルハイビジョン映像)

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