ホソミオツネントンボは、当ブログの記事「成虫で越冬するトンボ」で紹介しているが、単独での掲載はなく、またこれまで産卵の様子を撮影していなかったため、今回、産卵の撮影を行い、以下に過去の写真とともにまとめた。
ホソミオツネントンボ Indolestes peregrinus (Ris, 1916)は、アオイトトンボ科(Family Lestidae)ホソミオツネントンボ属(Genus Indolestes)で、当ブログの記事「オツネントンボ」と同様に成虫で越冬するトンボである。ちなみに、成虫で越冬するトンボは3種のみで、他はホソミイトトンボである。(参照:成虫で越冬するトンボ)
本種は、北海道、本州、四国、九州に分布するが、オツネントンボよりも寒さに弱く、北海道では極めて局所的で、東北地方でも数は多くない。平地~山地の抽水植物の繁茂する池沼、湿地、水田、緩やかな河川などに生息し、年1化、羽化は6~8月である。羽化後、しばらくすると林に移動して過ごす。水辺からかなり離れた所まで移動するが、11月頃になると水辺に比較的近い越冬場所に集まってきて、成虫のまま越年する。越冬中は、雌雄ともに褐色で、生息池付近の風当たりが少なく日当たりの良い低木の細い枝先などに脚を前に伸ばして頭部を枝に付けるようにして止まるため、将に枯れ枝のように見える。
4月になると、オツネントンボよりほんの少し遅れて現れ、湿地や水の入った水田の縁などに集まり、4月の下旬から5月の上旬にかけて繁殖活動の最盛期を迎える。産卵後は一生を終えるが、夏頃まで生き残る個体もおり、7月頃では、羽化した新成虫(褐色)と生き残りの成虫(青色)が混在することもある。
繁殖期になるとオスは全身が鮮やかな青色に、メスはくすんだ青緑色に変化する(褐色のままのメスもいる)が、一日の外気温の変化に応じて可逆的に体色を変化させるという特徴を持っている。実験では、雌雄ともに20℃以上に温度を上げると青色化がみられ、10℃まで温度を下げると褐色化したという。また、青色化は8~-20分で完了するのに対し、褐色化には6~12時間を要したという。
ホソミオツネントンボは、環境省版レッドリストに記載はないが、都道府県版レッドリストでは、北海道および東京都で絶滅危惧ⅠB類に、静岡県で準絶滅危惧種として記載している。原因としては、主に土地開発と管理放棄が挙げられるが、池沼や湿地、水田の消失、植生遷移による乾燥化や乾田化も原因である。
ホソミオツネントンボの産卵撮影のため、8年ぶりに多産地を訪れた。朝から晴天で最高気温は30℃の予想。風も弱く、産卵日和である。多産地は、雑木林、ため池、棚田、畑、湿地があり、典型的な里山風景を呈している。水田は、完全無農薬で多様性の宝庫とも言える状態が長年維持されており、トンボにとっては、将に楽園である。
現地に午前7時過ぎに到着すると、すでに池や田んぼの縁でオスたちが飛び回っていた。次の記事で改めて投稿するが、同じ越冬トンボのホソミイトトンボは、1つの水田に30頭以上が飛び交い、そこにホソミオツネントンボが混じって探雌飛翔をしていた。8時を過ぎると交尾態が見られるようになり、ペアは、水田わきの草が生い茂った斜面で30分ほど動かずに交尾を行っていた。その後、10時近くなるとペアで産卵する様子が観察できた。
7時過ぎでは、どの水田にもオスが飛んでいたが、産卵の時刻になると、代掻き前の水田内に雑草がまばらに生えた一部の水田だけに集まるようになり、水田内や畔に生えた小さな雑草につかまって産卵を行っていた。11時近くになると、産卵ペアがいなくなり、こちらも撤収することにした。ゴールデンウイーク後半の連休には、連日、田植えを行うとのことであるから、撮影は良いタイミングであった。
参考文献 / 長谷部有紀 2020. ホソミオツネントンボの可逆的体色変化 ‐青色と褐色の異なる役割‐. つくば生物ジャーナル 卒業研究発表会要旨集 19:56.
以下の掲載写真は、1920×1280ピクセルで投稿しています。写真をクリックしますと別窓で拡大表示されます。 また動画も 1920×1080ピクセルのフルハイビジョンで投稿しています。設定の画質から1080p60 HDをお選び頂きフルスクリーンにしますと高画質でご覧いただけます。
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