キベリタテハが今年は極端に少なく、各地でほとんど見かけないと言う。一体、何故なのだろうか?
キベリタテハ Nymphalis antiopa (Linnaeus, 1758) は、タテハチョウ科(Family Nymphalidae)/ヒオドシチョウ属(Genus Nymphalis)で、和名にあるように翅表外縁に黄色の太い縁取りがある。翅全体は小豆色でベルベットのような光沢があり、黄色の縁取りの内側には、青色の斑紋が一列に並ぶ。そのシックな色合いから日本では「高原の貴婦人」とも呼ばれており、アメリカでは、Mourning Cloak(喪服のマント)と呼ばれ、イギリスでは、Camberwell Beauty(キャンバーウェルの美人)と呼ばれている。飛翔は素早いが、また雄大に滑空もするのでたいへん優美なチョウである。
キベリタテハは、世界的に見るとユーラシア大陸と北アメリカ大陸をほぼカバーする広大な分布域を持っている。ヨーロッパやアメリカでは市街地の林でもよく見られる
身近なチョウで、しかも北米ではコロラド州の低地やカリフォルニアの海岸線では年に2化、バージニア州では年3化もすると言われている。このような広域分布を可能にしているのは、「酷寒と乾燥には非常に強いが、高温と多湿の組み合わせを嫌う種」であることが理由として挙げられている。日本国内においては、本州中部(標高約1,000m以上の山岳)以北に限って分布し、年1回7月下旬頃からようやく発生する。成虫で越冬し、翌年4月頃まで見られる。
食樹は、カバノキ科のダケカンバやシラカンバ、ヤナギ科のオオバヤナギ等である。成虫は、訪花することはほとんどなく、樹液や腐った果実、獣糞などに好んで集まる。
参照
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キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F11 1/160秒 ISO 200(2012.8.25)
キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/250秒 ISO 640V(2013.8.10)
キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8.0 1/200秒 ISO 200(2013.8.17)
キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F5.6 1/320秒 ISO 800 +1 1/3EV(2013.8.17)
キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F7.1 1/160秒 ISO 200(2012.8.25)
キベリタテハ
Canon EOS 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F5.6 1/160秒 ISO 200(2012.8.25)
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さて、冒頭にも記したが、今年2016年は、キベリタテハが極端に少ないと言われている。他にもクジャクチョウやエルタテハも同様に少ない。 その基本的な理由として
- 生息環境の悪化や破壊
- バキュロウイルス等のウイルスによる感染の拡大
- 異常な気象条件による成長の悪化
- 気象条件による高地への移動変化
- 毎年の採集者による乱獲
以上の5つが考えれるが、キベリタテハにおいては、その生息地に訪れたところでは環境の変化は見当たらないし、開発が行われたという話もない。ウイルス感染については、可能性としては考えられるが、現状では研究がなされていないので不明である。では、気象についてはどうだろうか?
まず、キベリタテハのある生息地における4月から8月までの毎月の平均気温と平年値を気象庁のデータより調べてみた。(グラフ1.)その結果、2016年の気温は4月から6月が平年よりも若干高めであることが分かる。一部愛好家に「幼虫の時期に気温が高かったので、幼虫の生育に支障があったのかもしれない。」という意見があるが、キベリタテハは高温を嫌うから、可能性はあるかも知れない。温暖化による高温が原因ならば、今後、本州中部地方から姿を消す可能性も考えられる。
次に、4月から8月までの毎月の降水量を見てみると(グラフ2.)、標高1,000mの地区の6月が平年よりも若干多く、また8月が極端に多くなっているが、それ以外の月は平年を大きく下回っているのが分かる。今年は、関東において異常な水不足であったことは記憶に新しいが、乾燥ストレスに対して強いシラカンバ(食樹)と本種であるから、少雨であったことが、幼虫の生育に悪影響を及ぼしたとは考えにくい。
では8月の1ヵ月間の降水量について、キベリタテハの発生が多かった2012年と2013年、そして極端に少ない本年(2016年)を比較してみると(グラフ3.)になる。2016年は、8月7日から15日を除くほとんどの日に雨が降っているのが分かる。グラフには表していないが、降雨の時間帯は夕立の場合もあるが、ほとんどの日が朝から夕方まで断続した降雨になっている。
キベリタテハの生活史を見ると、標高1,000m前後の発生地において、7月下旬から8月中旬、9月上旬頃の3回くらいに分かれて羽化する。7月下旬から8月中旬に羽化した個体は、涼を求めて標高1,500m以上の高山へある程度の集団で移動し、9月中旬前後には標高1,000m前後の発生地に戻り越冬の準備をする。9月に羽化した個体は、移動はしないものと移動するものがおり、
高地へ移動した個体の中には、そのまま高地で越冬するものもいる。また、冷夏の年は、ほとんどの個体が高地へ移動することがないと言われている。
つまり、以上のことから推察できるのは、本年は、幼虫の時期に気温が高く、幼虫の生育に何らなの悪影響があり、羽化までに至らなかったこと、もしくは7月下旬から8月中旬に羽化した個体が、雨のために高地への移動を妨げられたのではないかということである。キベリタテハの観察や写真撮影をする方の多くは標高の高いポイントに訪れるため、キベリタテハが高地へ移動していなければ、当然、見ることはできない。
本年、キベリタテハが極端に少ない理由が、高地へ移動ができなかったという事だけならば、来年は、気象条件次第では、多くのキベリタテハが見られるかも知れない。しかしながら、標高1,000m前後の発生地において、温暖化の影響で多くが死んでしまった可能性もある。いずれにせよ、標高1,000m前後の発生地において検証したわけでもなく、単なる机上論の仮説でしかない。勿論、他の理由があるかも知れない。(クジャクチョウとエルタテハについては、未検証。)
グラフ1.キベリタテハの生息地における月別平均気温の推移(気象庁のデータより作成)
グラフ2.キベリタテハの生息地における月別降水量(気象庁のデータより作成)
グラフ2.キベリタテハの生息地における8月の降水量(気象庁のデータより作成)
一番、心配なことは、毎年繰り返される採集者による乱獲である。個人の標本コレクション、あるいは標本の販売が目的の乱獲が横行しているのである。一人が1頭採集しても、100人が来れば100頭いなくなる。しかも、一人が1頭ではなく、捕れるだけ捕るのだから激減するのは当たり前だ。実は、毎年の採集者による乱獲が減少の一番の原因かも知れない。
参照:キベリタテハ(2018)
参考文献等
森下和彦, 1992. 世界のヒオドシチョウ属. Butterflies 3: 36-45
気象庁 過去の気象データ検索
東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.
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キベリタテハすごく綺麗に撮れていますね。
私のブログでもこのお写真を掲載させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか。
参照元は掲載致します。
ttps://hanmyou.net
キベリタテハの写真の転載につきましては、
当ブログの名前とURL、撮影者の氏名を記載して頂きますようお願いいたします。
ございます。近日どれか1カット
使用させていただきます。
掲載方法に関しましては仰せの通りに
致します。
ttps://hanmyou.net/entry/20200908/1599528055
URLがそのまま貼れなかったので頭にhを付けて下さい。
出来れば以下の一言を付けくわえてください。
「承諾の下・・・」
よろしくお願いいたします。
加筆致しました。
ご確認及びご指摘ありがとうございました。