シリーズ「ホタルの写真を撮る」その2
ホタルは、世界に約2,500種類も生息しているが、幼虫が水中で生活するホタルは10種類しかいない。そのうち日本には、ゲンジボタル、ヘイケボタル、クメジマボタル(久米島のみに生息)の3種が生息している。10種以外のホタルは、一生を陸地で過ごす陸生のホタルである。ここでは、ゲンジボタルについて解説しておきたい。
ゲンジボタルの幼虫は、卵から孵化した後、翌年の初夏に成虫になるものもいるが、多くは2年~4年ほどかかって成虫になる。一生のほとんどを水中で生活しているわけだが、その間カワニナ等(地域によっては様々なものを食べている)を食べて成長し、春に終齢まで成長すると、蛹になるために岸辺を上がり土に潜るのである。ゲンジボタルの幼虫は、春になればいつでも上陸するわけではなく、次の条件が合致しなければ上陸しない。
- 日長時間が12~13時間以上であること。
- 当日の気温が水温と同等かそれ以上であること。
- 初回は、降雨時であること。
ホタルをはじめ昆虫は体内時計を持っており、気温や日長時間の変化によって季節を感じ取っており、ゲンジボタルの場合は、上記条件を満たす
時に上陸を開始する。
上陸は、周囲が暗くなる19時過ぎから始まる。水中から出た途端に発光をはじめるが、成虫のように明滅はせず、数分間、光り続ける。写真では、光が途切れ途切れに写っているが、
幼虫は腹部先端を曲げ尾脚を使って尺取虫のように這うため、腹部先端にある発光器が見え隠れするために、このように写るのである。(発光器は腹部の両脇にある。)
西日本型の遺伝子を持つゲンジボタルは集団性が特徴の1つであるから、上陸もまとまった数の幼虫が一斉に上陸を開始する。一方、東日本型の遺伝子を持つゲンジボタルは集団性がなく、多くの幼虫が一度に上陸する行動は見せず、数週間にわたって、条件が合致する日にバラバラと上陸をする様子が観察できる。
幼虫は、潜土に適した場所まで垂直な壁でも登って行く。場合によっては、数十メートルも歩いて行く。中州を通り越し、その先のコンクリートの護岸を登っていくこともある。また、上陸する川岸は、両岸ではなく、どちらか一方であることが多い。ただし、場所によっては両岸に上陸するが、その場合でも多くの幼虫が同じ側の岸に上陸する。その決定要因は何であるかは不明である。
さて、ゲンジボタル幼虫の上陸光景の撮影は、基本的には「成虫の乱舞光景」の場合と同じである。フィルムの場合は長時間露光で、デジタルの場合は、30秒から60秒程度露光したカットを合成すればよいが、撮影そのものよりも、上陸時に生息地に出向くタイミングの方が難しいかもしれない。上陸の条件は同じでも、各地域や場所によって時期が異なるから、それぞれの生息地の状況をあらかじめ把握しておく必要がある。概ね、ゲンジボタルが毎年飛び始める時期の二か月前と思っていれば良いだろう。ただし、昨今の異常気象で上陸時期になっても雨が降らない場合は上陸が遅れる。上陸後の温度が高ければ例年の時期に成虫が発生するが、上陸後も温度の低い日が続く場合は、成虫の発生も遅くなる。
ゲンジボタルの幼虫が上陸するときの光景は、成虫の乱舞とは違って神聖な趣がある。関東及び関東以北の地域は、現在~ゴールデンウイーク頃がピークであるから、是非、観察していただきたい。
注釈:本記事は、過去に撮影しそれぞれ個別に公開していた写真を、時節柄の話題として提供するために再現像し編纂したものです。また、掲載写真は、すべて同じ場所で撮影したものです。
お願い:写真は、1024*683 Pixels で掲載しています。Internet Explorerの画面サイズが小さいと、自動的に縮小表示されますが、 画質が低下します。Internet Explorerの画面サイズを大きくしてご覧ください。
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ゲンジボタルの生息地風景
Canon 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE
絞り優先AE F20 1/20秒 ISO 1600(撮影地:千葉県勝浦市 2011.3.19)
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カワニナを食べるゲンジボタルの幼虫(上陸の3か月前は、昼間でもカワニナを食べて成長を促す)
Canon 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F8 1/80秒 ISO 1250(撮影地:千葉県勝浦市 2011.1.09)
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カワニナを食べるゲンジボタルの幼虫(上陸の3か月前は、昼間でもカワニナを食べて成長を促す)
Canon 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE
絞り優先AE F18 1/20秒 ISO 1000 +2/3EV(撮影地:千葉県勝浦市 2011.1.09)
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ゲンジボタルの幼虫とカワニナの殻
Canon 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F18 1/40秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地:千葉県勝浦市 2011.1.09)
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ゲンジボタルの幼虫
Canon 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
絞り優先AE F18 1/60秒 ISO 2000(撮影地:千葉県勝浦市 2011.1.09)
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ゲンジボタルの幼虫(水中撮影)
Canon 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE
絞り優先AE F20 1/20秒 ISO 2500 +2/3EV(撮影地:千葉県勝浦市 2011.3.19)
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カワニナを食べるゲンジボタルの幼虫(水中撮影)
Canon 7D / SIGMA 15mm F2.8 EX DG DIAGONAL FISHEYE
絞り優先AE F20 1/25秒 ISO 3200 +2/3EV(撮影地:千葉県勝浦市 2011.3.19)
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上陸しながら発光するゲンジボタルの幼虫
Canon 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
バルブ撮影 F2.8 90秒×10カット多重 ISO 400(撮影地:千葉県勝浦市 2011.4.9)
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上陸しながら発光するゲンジボタルの幼虫
Canon 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
バルブ撮影 F2.8 139秒 ISO 400(撮影地:千葉県勝浦市 2011.4.9)
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上陸しながら発光するゲンジボタルの幼虫
Canon 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
バルブ撮影 F2.8 7秒 ISO 400 ストロボ使用(撮影地:千葉県勝浦市 2011.4.9)
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上陸しながら発光するゲンジボタルの幼虫
Canon 7D / TAMRON SP AF90mmF/2.8 Di MACRO1:1
バルブ撮影 F2.8 3秒 ISO 400 ストロボ使用(撮影地:千葉県勝浦市 2011.4.9)
東京ゲンジボタル研究所 古河義仁/Copyright (C) Yoshihito Furukawa All Rights Reserved.
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ホタルの幼虫が上陸するときに発する光は、
成虫の光とは違って、より幻想的です。
ちなみに、卵も蛹も光ります。
この初夏も、是非、多摩地域のホタルをご覧ください!