このように、あと一歩というところで逃げられてしまい、その後の足取りが途絶えた
それは情報が出てこないと言うことに他ならない
それは当然で、仮に見た人がいても我が家の迷子犬だなんて知らないのだから
そこで昭輔が次に打った手はローカル新聞にお願いして「迷子犬さがしてます」の記事を
掲載してもらった
すると、すぐに電話がかかってきた、貯水池から西に近い寺の大奥さんからであった
「お宅のらしい犬が寺の門のところにいましたよ」というので早速、寺を訪ねてきいてみた
すると近所で見かけた人も数人いることがわかった
再会から5日ほど過ぎていたが、どうやらこの辺りにいるようだ
それから二人は、別々にこの周辺1km範囲を数日探したがいなかった
車で探したり、歩いて探したり
そのうちに市の広報で貯水池でクマが発見されたという情報が流れた
昭輔はジョンがクマと間違われたのではないか、猟友会に打たれたらどうしようと思った
夏子はジョンがクマに襲われるのではと心配した
すると今度は貯水池から東に2kmほどの一級河川敷にある運送会社の奥さんからと
その近くの発電所の住人の二人から「見た」という電話が入った
西側の寺と貯水池と河川敷は一本の同じ道でつながっている
ジョンは寺のある集落から貯水池を通って、川に出たらしい
発電所の住人は「あの桜の木の下でのんびり寝てたよ」と言った
ともあれ足取りはつかめた、川沿いに登ったか下ったかどちらかしかない
もっとも寺の方向に戻る可能性もある
季節は6月半ば、そろそろ梅雨の季節だがありがたいことに空梅雨もようだ
その代わり、暑い日が続いている
そんな中を二人は捜し歩いた、今までにないほど歩いた
汗だくになって歩いた、車でも探した、毎日2時間は探し回った、朝も昼も夕方も
山の林道も探した、それでも見つからなかった、一体なにを食べて生きているのだろうか
もう空腹の末にのたれ死にをしたのではないか?
だんだん考え方が暗い方に傾いていった
情報がまたぴたっと途絶えてしまった
「もう死んだんだわ 新しい犬を買って飼うことにする」
突然、夏子が言い出したので昭輔は驚いた、言い出したら聞かない夏子である
昭輔は無言で思った、(その前に見つけよう)
夏子が連れてきた犬なのに、探しているうちに昭輔にはジョンへの情が湧いてきたのだった
つづく